- 著者
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有竹 洋平
林 悠太
吉松 竜貴
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.2009, pp.A4P2090, 2010
【目的】<BR> 意欲低下、自発性低下もリハビリテーションを行う上で、最大の阻害因子の一つであるという報告がある(大友.1986)。また、脳血管障害患者を対象とした在宅での日常生活動作(以下ADL)と生活意欲の関連報告や回復期病棟での1ヶ月間のADL変化と意欲の関連性を検討した先行研究もあり、リハビリテーションにおける意欲の重要性が伺える。そこで本研究では、東武練馬中央病院回復期病棟に入院する高齢患者を対象に、入院時の生活意欲と退院時までのADLの改善度の関連性について比較検討した。<BR>【方法】<BR> 対象はH20年11月からH21年10月までに当院回復期病棟に入院中であった65歳以上の高齢患者62名(男性19例、女性43例、年齢82.0±6.5歳、脳血管障害18例、整形外科疾患32例、脊椎脊髄疾患8例、廃用症候群4例)とした。入院中に急性増悪での転院や死亡退院した者は対象外とした。<BR>評価項目は、入院時と退院時の機能的自立度評価表(以下FIM)と入院時から退院時までのFIMの改善度であるFIM利得、入院時の生活意欲とした。生活意欲に関しては、認知症患者でも回答の有効性が高いとされているVitality Indexを用いた。Vitality Indexは鳥羽らによって開発された指標で、日常生活での行動を起床・意志疎通・食事・排泄・活動の5項目で評価し、高齢者のリハビリテーションや介護場面での意欲を客観的に測定するものである。各項目はそれぞれ0~2点まで配点された3つの選択肢からなり、満点は10点となる。カットオフ値とされる7点をもとに、8点以上を高得点群(以下High群)、7点以下を低得点群(以下Low群)の2群に分けた。<BR> 統計学的処理は、Stat view ver.5.0を使用し、入院時FIMと入院時Vitality Indexに対してはSpearmanの順位相関係数を求めた。また、FIM利得はMann-WhitneyのU検定、年齢・在院日数はt検定、性別はχ<SUP>2</SUP>検定を用いて群間の差を検討した。有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> 数値の公表に関して、統計量を用いるなど個人の特定がなされないよう配慮することで、対象より了承を得た。<BR>【結果】<BR> High群は39例(男11例、女28例、81.2±6.3歳)、Low群は23例(男8例、女15例、83.5±6.7歳)であり、全体のVitality Indexは8.0±2.5点、High群は9.6±0.7点、Low群は5.2±1.7点であった。入院時FIMと入院時Vitality Indexは0.759と高い相関を認めた。FIM利得、年齢、性別は群間で有意差を認めなかった。在院日数はHigh群ではLow群に比べ有意に高かった(p<0.05)。<BR>【考察】<BR> 本研究では回復期病棟に入院する高齢患者に対し入院時の生活意欲と退院時までのADLの改善度との関連性について検討した。その結果、入院時FIMと入院時Vitality Indexに関しては高い相関が認められた。入院時のVitality Indexが低下している者はADL能力も低下していることが考えられる。また、入院時Vitality IndexとFIM利得との間に関連性は認められなかった。入院時の生活意欲と退院時までのADL改善度に対して関連性が低いと考えられる。以上より、入院時Vitality Indexが低い患者であっても、退院時までにADLが改善する可能性が示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 今回の結果から、回復期病棟へ入院してきた高齢患者は一様に意欲的であるとは言えず、意欲低下が認められる患者もいることは明らかである。意欲低下、自発性低下もリハビリテーションを行う上で、最大の阻害因子の一つであるという報告があるため、入院時に意欲低下が認められている患者はその後のADL改善を阻害する可能性も考えられる。そこで、本研究で回復期病棟に入院する高齢患者の入院時の生活意欲が退院時までのADLの改善度に与える影響について関連性を検討したことは、理学療法研究として意義があると考える。<BR>本研究の結果から、入院時Vitality Indexの得点で退院時までのADL改善度を予測することは困難であり、入院時の生活意欲低下が一様にADL改善度に対して阻害因子とはならないことが示唆された。よって、ADLの改善度に対しては疾病の器質的問題や障害重症度、個人因子など多角的な検討が必要だと考える。