著者
服部 重昭 近嵐 弘栄 竹内 信治
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.125-132, 1981-04-25
被引用文献数
4

林地におけるエネルギー収支に着目して, 熱収支法, MONTEITH法によりヒノキ林の蒸発散量を推定した。測定期間の総量で比較すると, 熱収支法とMONTEITH法による蒸発散量は, 純放射量のそれぞれ0.54,0.73,また蒸発計蒸発量のそれぞれ0.60,0.81に相当した。樹冠遮断に起因する蒸発量は, 両法による蒸発散量の約3〜4割を占めた。以上のように, 両法の推定値に差が生じた一因として, 降雨中における遮断水分の蒸発の影響が考えられ, 降雨中の蒸発散がほとんど計算されない熱収支法では, MONTEITH法の値より過小になった。また, 林冠が濡れている場合, 熱収支法とMONTEITH法による蒸発散量は, 純放射量のそれぞれ0.74,1.09を占めた。したがって, 林冠に遮断された水分の蒸発は速く, 同一の放射条件下ならば, 林冠が乾いているときの蒸発散の約1.5〜1.7倍に達した。また, 降雨時にはしばしば純放射量<蒸発散量の関係が出現した。これは大気中から林冠への顕熱の輸送, つまり移流の影響と推察された。
著者
服部 重昭
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
no.362, pp.p1-34, 1992-01
被引用文献数
28

近年,関西地域では,人工造林面積に占めるヒノキ植栽面積が高率で推移している。ヒノキ造林の拡大は,造林不適地にまで延びることが危惧されるので,造林適地区分法の開発や適地選定指針の提示が行われている。一方,ヒノキ林の表土流亡に起因する地力減退の防止については,林床植生やA0層の効果が指摘されているが,その効果の定量的評価は進んでいない。そこで,ヒノキ純林へのアカマツの混交と林床のササが,土砂とリターの流亡防止に及ぼす影響を定量的に把握した。これに加え,落葉堆積量と侵食土砂量の関数関係を実験的に検討し,リター堆積の効果を数量化した。ヒノキ純林にアカマツやササが侵入すると,年間侵食土砂量は1/4~1/8,流亡リター量は1~1/2程度まで減少した。また,A0層の一部を除去すると,侵食土砂量と流亡リター量が大幅に増加した。これにより,アカマツの混交やササの侵入は,土砂とリターの流亡防止に効果があることを実証した。土砂とリターの移動は,斜面を流下する地表流よりも降雨因子,特に10分間最大降雨強度と降雨エネルギーに強く依存すると推察された。つぎに,許容限界侵食土砂量の概念を提示し,花崗岩地帯のA層生成速度から,これを1~3t/ha/年と見積もった。これらの結果に基づいて,ヒノキ林の侵食防止を考慮した施業の目標を具体的に示すため,人工降雨実験から推定された侵食土砂量と落葉堆積量の指数関数式を援用し,ヒノキ・アカマツ混交林において許容限界侵食土砂量を維持するのに必要なリター堆積量が,5~7t/haであることを導いた。
著者
服部 重昭
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.9-16, 1983-01-25
被引用文献数
7

茨城県笠間営林署管内の閉鎖したヒノキ人工林で, 1980年1年間にわたり地面蒸発量の測定を行い, その動態を林地の水・熱環境から考察した。蒸発面を形成するA_0層の乾物重量は9.3ton/haで, その最大保持水量は2.1mmであった。A_0層は降雨後2日でほとんど乾燥し, 土壌層からの蒸発を早い時点から抑えることがわかった。林内純放射量は林外純放射量の約15%に相当し, 年総量では160.7mmに達した。一方, 林地面における熱の出入りは, 1〜3月と9〜12月が放熱期, 4〜8月が貯熱期となる周期変化を示し, 秋〜冬期には地中貯熱量が蒸発現象の熱源になりうることがわかった。年地面蒸発量は137.2mmで, これは年降雨量の8.9%, 年有効放射量の84%に相当した。また, その季節変化をみると, 1〜9月には地面蒸発量/有効放射量が1.0以下であるが, 10〜12月ではそれが1.0を上回り, 有効放射量より大きな地面蒸発量が観測された。これには, 地面蒸発計内外の水・熱環境の違いが影響していると考えられる。そして, 測定された地面蒸発量は実地面蒸発量より, いくぶん過大であると考察された。