著者
槇原 寛 北島 博 後藤 秀章 加藤 徹 牧野 俊一
出版者
森林総合研究所
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.165-183, 2004 (Released:2011-03-05)

小笠原諸島に近年移入されたイグアナ科トカゲ、グリーンアノールが在来昆虫相に与えた影響を推定するため、野外および網室で捕食行動を観察した。網室内のグリーンアノールは餌として与えた昆虫等のうち、比較的小型の種(たとえば体長約2cm以下の甲虫)を捕食したが大型種(体長約3cm以上の甲虫、チョウ)は捕食しなかった。また小笠原諸島母島でグリーンアノールが蔓延する以前(1983、1985、1986年)とそれ以後(1995、1996、1997)のカミキリムシの採集記録を比較した。夜行性のカミキリムシ11種のうち、蔓延後に採集されなくなったものは1種もいなかったのに対して、昼行性の5種のうち3種がまったく採集されなくなった。これらから、侵入者であるグリーンアノールは、小笠原の昼行性小型昆虫を激しく捕食することにより、少なくとも一部の種の生息数を激減させている可能性が強いと考えられる。
著者
山中 高史 岡部 宏秋
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.67-80, 2008-03
被引用文献数
1

放線菌の一種フランキアは、木本植物の根に感染して根粒を形成し、そこで大気中の窒素を固定する。これらの植物は放線菌根性植物といわれる。わが国に生育する放線菌根性植物としては、ハンノキ属、ヤマモモ属、グミ属、ドクウツギ属などが自生する他、導入種として、モクマオウ属やヒッポファエ属がある。本研究では6属12種の根粒や分離菌の形態について紹介するとともに、フランキア菌の一般的な分離、培養、接種試験の手法を記載した。
著者
岡部 貴美子
出版者
森林総合研究所
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.119-133, 2006 (Released:2011-03-05)

我が国のきのこ栽培において被害を発生させた、あるいは発生させる可能性のある分類群を中心に、きのこ食の節足動物(ダニ、トビムシ、昆虫)についてレビューした。昆虫は、ダニやセンチュウなどほかの小動物に比べて飛翔等による移動能力が高いことから、それらの移動分散を助ける便乗寄主としての役割も担っている。害虫の防除に際しては、このような昆虫の機能にも留意すべきことが明らかになった。また、年々栽培種が増加している現状では、野生きのこを摂食する生物も潜在的な害虫としてあるいは害虫防除のヒントとなる生態を持つものとして考慮する必要がある。このような観点から、海外のきのこ栽培で害虫化している種や、注目すべき生態を持った食菌性の節足動物についてもレビューした。その結果、ほとんどの種類のきのこを摂食し、増殖率が高い種の多いハエ類は、重要害虫でありながら防除も困難であることが改めて明らかとなった。
著者
槇原 寛 Noerdjito Woro A.
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.49-98, 2004-03

この報告はギルモア博士同定のカミキリムシ179種をカラー写真付きで紹介したものである。ギルモア博士は世界的なカミキリムシの大家で、インドネシアのボゴール動物博物館には彼の同定したカミキリムシの標本が多数ある。そして、この標本は、インドネシア産カミキリムシの同定に大いに役に立つものである。
著者
杉浦 真治 山崎 一夫
出版者
森林総合研究所
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.201-205, 2005 (Released:2011-03-05)

イワナシ属Epigaeaはわずか3種を含むツツジ科の小低木で、北米、コーカサス、日本にそれぞれ分布する。北米産アメリカイワナシE. repensの種子はアリにより散布されることが知られている。ツツジ科の中でアリによって種子散布が行われる種は他に全く知られていない。日本産イワナシE. asiaticaの種子もアリによって散布されるかどうかを明らかにするために、2004年5月に京都市郊外の二次林林床に生育するイワナシの果実訪問者を調査した。その結果、5種のアリのワーカーがイワナシの果実を訪れ、果肉を摂食しているのを観察した。さらに、ヤマトアシナガアリAphaenogaser japonicaのワーカーが果肉と一緒に種子を運んでいた。ヤマトアシナガアリは日本産アリ散布植物の散布者として、しばしば記録されている種類である。これは、日本産イワナシの種子もアリによって散布されていることを示唆している。しかし、イワナシの果肉のある甘い果実は、他の動物も誘引する可能性がある。
著者
川路 則友 東條 一史 松岡 茂 高野 肇 北原 英治
出版者
森林総合研究所
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.271-350, 2003 (Released:2011-03-05)

森林総合研究所に所蔵してある数多くの鳥獣類標本のうち、仮剥製鳥類標本4,790点について、リストを作成、公表する。これら標本は、おもに1920年代から1930年代にかけて、当時の農林省鳥獣調査室によって収集されたものである。標本には、おもに渡り期に全国の灯台から収集された衝死鳥や千島列島からの収集品などが含まれる。
著者
平川 浩文 佐山 勝彦
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.207-210, 2005-09
被引用文献数
2

北海道札幌市にある東定山渓国有林で行った自動撮影による野生生物調査において、テンがスズメバチの巣盤をくわえて歩いている写真が2枚得られた。これらは、テンがスズメバチに刺されてひどく傷害を受けることなく、スズメバチの巣を襲うことができることを示す有力な証拠である。
著者
稲垣 善之 倉本 惠生 深田 英久
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.103-112, 2010-09
被引用文献数
1

四国地域の標高の異なる2つのヒノキ林において、間伐区と対照区を設定し、落葉量の動態を5年間評価した(2002-2006年)。この地域には2004年に多くの台風が接近したが、この年の年間落葉量は台風前(2002-2003年)の1.17-2.25倍の値を示した。台風の影響は高標高域で低標高域よりも大きく、間伐区で対照区よりも大きかった。一方、台風後(2005-2006年)の年間落葉量は、台風前(2002-2003年)の1.05-1.41倍を示した。台風の影響は間伐林分で大きかったものの、台風後の回復は間伐区と対照区の間に差が認められなかった。高標高域では2004年の落葉時期(落葉が年間量の50%に達する時期)が早い傾向が認められた。一方、低標高域では2004年の落葉時期は変化せずに落葉期間(落葉が年間量の10%から50%に達するまでの期間)が長かった。この結果は、台風に対する落葉の反応が標高によって異なることを示す。すなわち、高標高域では、台風後直ちに落葉するが、低標高域では台風後にすぐには落葉せず、しばらく経過してから徐々に落葉した。これらの結果、ヒノキ人工林において台風後に落葉生産は速やかに回復しており、台風後に新しい葉の生産が急速に増加することが示唆された。
著者
小川 真
出版者
森林総合研究所
雑誌
林業試験場研究報告 (ISSN:00824720)
巻号頁・発行日
no.305, pp.p107-124, 1979-08
被引用文献数
3
著者
平川 浩文 小阪 健一郎
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.175-178, 2009-09

コテングコウモリは、シベリヤ南東部・サハリン・千島列島・朝鮮半島・日本に分布する。森林に生息する小型のコウモリ(体重4-9g)で昆虫を餌とし、春から秋にかけては草や木の枯葉を主なねぐらとする。一方、晩秋から早春にかけては樹洞の利用も観察されている。しかし、活動が低下するこの時期をどのように過ごしているのかに関する情報はきわめて限定的で不明な点が多い。本種は雪面にあいた穴の中あるいは雪面で時々発見される。我々の知る範囲で7件の報告、8例の記録がある。地域別にみると、北海道4例、栃木1例、新潟1例、広島2例(広島の1例は3個体同時に発見)である。発見時の状況はさまざまであるが、発見時、個体はすべて休眠中で生存しており、雪面あるいは雪中をねぐらとして利用していたと考えられる。しかし、これらの観察が何を意味するかについては必ずしも明らかではない。今回、我々は11月末という早い時期に雪中で休眠中のコテングコウモリを記録したので、以下報告し、その意味について考えてみたい。
著者
末吉 修三
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.209-216, 2018

本研究の目的は、事務所の内装写真を用いた聞き取り調査で得られたテキストデータの解析における対応分析活用の有用性を確かめることである。このテキストデータはすでに公表されているが、次のようにして得られた。被験者に対して20枚の事務所内装写真を提示し、類似の印象を持つグループに分けさせた。その後、グループごとに、事務所内装写真から想像できる会社およびそこで働く人々の印象を答えさせた。このテキストデータの形態素解析によって、「木材」、「柱」、「天井」、「家具」、「机」、「椅子」、「絵画」および「植物」が使用頻度の高い名詞として抽出された。これらは、事務所内装写真の印象を決定づける被写体と考えられる。また、写真から受ける印象を表現する形容詞として、「あたたかい」、「静か」、「快適」、「友好的」、「明るい」、「暗い」、「冷たい」および「堅苦しい」の使用頻度が高いことがわかった。これら使用頻度の高い語と写真番号について対応分析を行うとともに、聞き取り調査で用いた写真の色分析を行った。対応分析によって、内装写真の印象を区別することができた。さらに、対応分析と内装写真の色分析を組み合わせることによって、被験者が「木材」の黄赤系の鮮やかな色彩に注目して、事務所内装写真を分類していることがわかった。これらの結果は、対応分析がテキストデータに基づく木質内装の視覚的影響の評価に有用であることを示唆するものである。
著者
関 伸一
出版者
森林総合研究所
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.193-205, 2010 (Released:2012-12-03)

東シナ海北東部の男女群島でそれぞれ異なる季節に5回の鳥類調査を行って観察種を記載するとともに、これまで文献に記載されている記録の整理を行い、男女群島における鳥類の観察記録をリストとしてとりまとめた。現地調査では75種が観察され、これまでの記録と併せて179種となった。このうち確実な繁殖記録があるのは6種のみで、繁殖している可能性のある種を含めても18種であった。男女群島は、他の地域とは地理的に隔離されていることに加えて面積が限られているために、島嶼環境に適応したアカヒゲ、ウチヤマセンニュウなどの種が分布する一方で、ウグイスやカワラヒワなど面積の大きな島では広域的に分布する種の一部が欠落し、単純で特異な繁殖鳥類群集が生じたと推測される。 渡り鳥については、個体数に関する記録が少ないため、渡りの中継地としてのこの地域の重要牲を評価することは困難であった。しかし、春期の調査において高い割合で記録される渡り鳥があり、これらの種では男女群島を経由する渡りのルートを利用する個体が恒常的に存在すると推測された。
著者
谷本 丈夫 豊田 武司 渡辺 富夫 飯田 滋生 苅住 昇 千葉 春美
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
no.369, pp.1-61, 1995-03

本研究は,熱帯・亜熱帯地域における造林技術,小笠原諸島の固有種と景観の保護,保全技術の確立に必要な基礎的情報を得ることを目的に,1971年に小笠原諸島父島に設定された林業試験場(現森林総合研究所)小笠原試験地において植生区分及び遷移,群落構造などについて固定試験地を中心に調査・解析を行った。父島における立地環境からみた自然植生は,海岸植生,山地風衝型植生など五つの型に分けられ,これらに加え導入種であるリュウキュウマツ,ギンネム林などの人為植生を併せて10型の植生型が認められた。小笠原試験地の植生は山地緩斜地型が多く,山地風衝型植生は少ない。防風林に取りまかれた畑地跡には,乾燥する尾根を中心に天然更新したリュウキュウマツ林が多く,人為的要素の強い群落が特徴的であった。マツノザイセンチュウ病によるマツ枯れは,これらの景観を一変させ,ウラジロエノキなどの陽樹,ヒメツバキ,キバンジロウなど母樹の多い樹種の侵入,タマシダなどの林床植生を繁茂させ,新たな種の侵入を阻害していた。マツ類は畑地放棄跡など新たに侵入定着できる立地環境が少なく,小規模な崩壊地などで生育するものと思われた。同じく導入種であるギンネムは,一度植栽されると容易には遷移が進行せず,林分が維持され分布の拡大は少なかったが,アカギは適潤地の林冠疎開地に容易に侵入していた。一方,母樹から遠い畑地の放棄地には,いまだにつる植物や草本に覆われているなど,遷移の進行に及ぼす母樹の位置,種子の散布力,結実量などの役割が評価できる資料が得られた。小笠原の自然植生は,戦中,戦後と急速な入為的影響を受け,特殊な立地環境とあいまって植物社会の成立過程が複雑であり,その維持と復元には積極的な更新補助手段を加えることが必要であることが示唆され,小笠原試験地の継続調査で得られる成果はその基礎的情報として重要な役割を果たす。
著者
鈴木 秀典 岡 勝 山口 浩和 陣川 雅樹
出版者
森林総合研究所
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.153-162, 2010 (Released:2012-12-03)

近年の林業では、経済性や安全性の観点から機械化やそのための路網整備が必要不可欠となっているが、機械作業や路網整備にはエネルギーの使用が不可欠で、これらの機械からは必ず二酸化炭素が排出される。 よって、森林による二酸化炭素吸収量を適正に評価するためには、また、今後の機械化作業や路網整備の方向性を議論するためにも、林業活動に伴う排出量を明らかにする必要がある。 本研究では日本の森林を対象に路網整備過程に着目して、林道、作業道の開設工事において、建設機械の燃料消費による二酸化炭素排出量を算出した。このために、民有林林道では設計書から土工量および燃料消費量を調べた。国有林林道では民有林林道の値からこれらの値を推定した。作業道では既存の調査による土工量および民有林林道の値から燃料消費量を推定した。これらの値と、各年間開設延長から排出量を算出した結果、2007年度の排出量が、民有林林道から48.09ktCO2/年、国有林林道から11.71ktC02/年、民有林作業道から97.64ktCO2/年と算出された。また、森林・林業基本計画(2006)における林道・作業道の整備目標を達成すると、2007年以降、19.11~20.39MtCO2の二酸化炭素が排出されるとの予測結果を得た。
著者
勝木 俊雄 岩本 宏二郎 石井 幸夫
出版者
森林総合研究所
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.7-48, 2011 (Released:2012-12-03)

多摩森林科学園のサクラ保存林では全国の主な名木や栽培品種を収集し、およそ600栽培ライン1600個体のサクラを植栽している。サクラの栽培品種に対してその開花期はきわめて重要な特性であるが、‘染井吉野’の開花期以外の観測例は少ない。多摩森林科学園では、開花期の観測を1981年から総計で494個体に対しておこなってきた。そこで2010年までの30年間の494個体の平均開花日と平均満開日、および欠測が少ない148個体の各年の開花日・満開日を公表する。
著者
勝木 俊雄 岩本 宏二郎 石井 幸夫
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.7-48, 2011-03
被引用文献数
1

多摩森林科学園のサクラ保存林では全国の主な名木や栽培品種を収集し、およそ600栽培ライン1600個体のサクラを植栽している。サクラの栽培品種に対してその開花期はきわめて重要な特性であるが、'染井吉野'の開花期以外の観測例は少ない。多摩森林科学園では、開花期の観測を1981年から総計で494個体に対しておこなってきた。そこで2010年までの30年間の494個体の平均開花日と平均満開日、および欠測が少ない148個体の各年の開花日・満開日を公表する。
著者
井上 大成
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.238-246, 2003-12

茨城県北茨城市の小川学術参考林とその周辺地域(小川地域)で、1996年~2002年までチョウ類相を調査した。成虫の主要飛翔時期に233日(約1135時間)の野外調査を行った結果、97種が記録された。科別の内訳は、セセリチョウ科16種、アゲハチョウ科8種、シロチョウ科7種、シジミチョウ科30種、タテハチョウ科23種、テングチョウ科1種、マダラチョウ科1種、ジャノメチョウ科11種だった。これらのうち、17種(森林性13種、草原性4種)は茨城県の、7種(森林性2種、草原性5種)は環境省のレッドデータリスト掲載種だった。また、生息場所として原生林を好むと考えられる種が6種、自然草原を好むと考えられる種が4種記録された。文献調査の結果とあわせて、この地域には現在約100種のチョウが生息していると推定されたが、これは実質的に茨城県でみられるチョウ全種の約94%にあたる。この地域がこのような豊富なチョウ類相をもつ背景とチョウ類の保護について議論した。