著者
金子 真司 後藤 義明 田淵 隆一 赤間 亮夫 池田 重人 篠宮 佳樹 今村 直広
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.259-264, 2018 (Released:2018-11-15)
参考文献数
18

福島県十万山(浪江町・双葉町)の森林火災(2017年4月29日~ 5月10日)の延焼地において、火災直後に山頂部のアカマツ林と谷部のスギ林で樹木と土壌の試料を採取して放射性セシウム(RCs: 134Cs+137Cs)濃度を測定して火災の影響を調べた。樹木については、同一木の幹の燃焼側と非燃焼側から樹皮を採取した。土壌は燃焼地と隣接する非燃焼地から堆積有機物層と表層土壌を採取した。アカマツでは燃焼樹皮が非燃焼樹皮に比べて現存量とRCs 濃度とRCs 蓄積量が小さかった個体が存在した。また、アカマツ林、スギ林で調査したすべての堆積有機物層のRCs 濃度が燃焼箇所に比べて非燃焼箇所で高かった。
著者
清野 嘉之 赤間 亮夫 岩谷 宗彦 由田 幸雄
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.195-211, 2019 (Released:2019-08-09)
参考文献数
39

2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故後、環境から樹木山菜への放射性セシウムの移行が調べられている。しかし、草本に比べ樹木の山菜の情報は少ない。事故により環境中に放出されたセシウム137(137Cs)は、自然物のセシウム133(133Cs)と異なり、生態系内でまだ平衡に達しておらず、分布は今も変化していると考えられる。生態系における137Csの現在の分布は、植物体内の分布を含め、133Csの分布パターンに近づいていく途中の姿であり、133Csの現在の分布や代謝特性を明らかにすることにより137Csの将来の状態を推定できると考えられる。そこで2015~2017年に福島県の6町村でコシアブラ (Eleutherococcus sciadophylloides) とその生育環境における放射性セシウム、133Csの現状を調べた。当年シュート (枝葉) 133Cs濃度は、土壌K+の濃度 (R2 = 0.2756, P = 0.023) や沈着量 (R2 = 0.3390, P = 0.011) と負の相関関係を持ち、リター133Cs (P = 0.425)、土壌133Cs+ (P = 0.751) 濃度とはあまり関係がなかった。リターから当年シュートへの137Csの面移行係数 (Tag) は、133CsのTagと正の相関関係 (R2 = 0.5748, P < 0.001) があり、133Csが移行し易い条件では137Csも移行し易いと考えられた。樹体内の器官を比較すると、137Cs/133Cs濃度比が葉や根皮では材や樹皮より小さい場合があった。今後、137Csが生態系内で平衡していくにつれ、前者は後者のレベルに上昇していくと考えられる。また、新芽の137Cs濃度は今後、土壌K+が高濃度の林地では低下し、低濃度の林地では上昇する可能性がある。本研究で示した知見や仮説を検証する、さらなる研究が必要である。
著者
土井 寛大
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.261-265, 2023-01-16 (Released:2023-01-17)
参考文献数
24

2022年5月および6月に、つくば市の森林総合研究所構内で旗振り法によるマダニ採取を行ったところ、キチマダニ、フタトゲチマダニ、アカコッコマダニ、タカサゴキララマダニが採取された。地域内の野生動物宿主相がシカやイノシシなどの大型動物を欠くことから、小・中型野生動物や野鳥をよく利用するキチマダニ、フタトゲチマダニ、アカコッコマダニは所内外を出入りする野生鳥獣によって運ばれていると考えられる。しかし、タカサゴキララマダニはイノシシが生息する地域によく分布する。さらに、本種の幼若期は人体刺症例が多い。これらのことからタカサゴキララマダニが構内に侵入した経路として、構内に出入りする小・中型野生動物によって持ち込まれた可能性とともに、イノシシの生息地で作業した人の衣類や機材に紛れて侵入した可能性を考慮しなければならない。
著者
山中 高史 岡部 宏秋
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.67-80, 2008-03
被引用文献数
1

放線菌の一種フランキアは、木本植物の根に感染して根粒を形成し、そこで大気中の窒素を固定する。これらの植物は放線菌根性植物といわれる。わが国に生育する放線菌根性植物としては、ハンノキ属、ヤマモモ属、グミ属、ドクウツギ属などが自生する他、導入種として、モクマオウ属やヒッポファエ属がある。本研究では6属12種の根粒や分離菌の形態について紹介するとともに、フランキア菌の一般的な分離、培養、接種試験の手法を記載した。
著者
槇原 寛 Noerdjito Woro A.
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.49-98, 2004-03

この報告はギルモア博士同定のカミキリムシ179種をカラー写真付きで紹介したものである。ギルモア博士は世界的なカミキリムシの大家で、インドネシアのボゴール動物博物館には彼の同定したカミキリムシの標本が多数ある。そして、この標本は、インドネシア産カミキリムシの同定に大いに役に立つものである。
著者
小山 明日香 岡部 貴美子
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.61-76, 2017 (Released:2018-01-01)
参考文献数
108

生物多様性オフセットは、開発事業等による生物多様性や生態系への負の影響を回避、最小化、修復した後、なお残る残存影響に対し代償措置を行う制度である。既に多くの諸外国で法制度化されており、国内でも愛知目標を達成する生物多様性保全の具体策として期待される。生物多様性オフセットは開発行為により失われる生物多様性損失とオフセット行為による獲得を同等にする「ノーネットロス」の達成を原則としている。しかしながら生物多様性オフセットによるノーネットロスの達成には様々な理論、技術、実践上の課題がある。本総説は、生態学的観点から生物多様性ノーネットロスを達成する上での要点、特に1)生物多様性の計測および生態学的同等性の評価、2)保全効果の追加性、3)オフセット実施における不確実性および失敗リスク、および 4)オフセットの限界とミティゲーション・ヒエラルキーの順守、について整理して概説した。さらに、本制度を日本の生物多様性保全策として導入することを想定し、国内の二次的生態系の特徴を考慮した具体的課題として、オフセット地選定における地域的枠組み、および開発・オフセット地として期待される劣化した里山生態系の活用可能性を検討した。
著者
平川 浩文 佐山 勝彦
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.207-210, 2005-09
被引用文献数
2

北海道札幌市にある東定山渓国有林で行った自動撮影による野生生物調査において、テンがスズメバチの巣盤をくわえて歩いている写真が2枚得られた。これらは、テンがスズメバチに刺されてひどく傷害を受けることなく、スズメバチの巣を襲うことができることを示す有力な証拠である。
著者
稲垣 善之 倉本 惠生 深田 英久
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.103-112, 2010-09
被引用文献数
1

四国地域の標高の異なる2つのヒノキ林において、間伐区と対照区を設定し、落葉量の動態を5年間評価した(2002-2006年)。この地域には2004年に多くの台風が接近したが、この年の年間落葉量は台風前(2002-2003年)の1.17-2.25倍の値を示した。台風の影響は高標高域で低標高域よりも大きく、間伐区で対照区よりも大きかった。一方、台風後(2005-2006年)の年間落葉量は、台風前(2002-2003年)の1.05-1.41倍を示した。台風の影響は間伐林分で大きかったものの、台風後の回復は間伐区と対照区の間に差が認められなかった。高標高域では2004年の落葉時期(落葉が年間量の50%に達する時期)が早い傾向が認められた。一方、低標高域では2004年の落葉時期は変化せずに落葉期間(落葉が年間量の10%から50%に達するまでの期間)が長かった。この結果は、台風に対する落葉の反応が標高によって異なることを示す。すなわち、高標高域では、台風後直ちに落葉するが、低標高域では台風後にすぐには落葉せず、しばらく経過してから徐々に落葉した。これらの結果、ヒノキ人工林において台風後に落葉生産は速やかに回復しており、台風後に新しい葉の生産が急速に増加することが示唆された。
著者
山浦 悠一 先崎 理之 河村 和洋 大谷 達也
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.35-40, 2023-03-24 (Released:2023-03-24)
参考文献数
25

高知県東部の6年生のスギ新植造林地に赤外線式自動撮影カメラを設置したところ、フクロウ類の一種オオコノハズク Otus semitorques と昼行性猛禽類のサシバ Butastur indicus が撮影された。画像は4月から6月に撮影され、採食のために当地を訪問していたと考えられた。幼齢人工林は昼行性猛禽類だけでなく夜行性猛禽類の狩場にもなりうる。
著者
新山 馨 柴田 銃江 齋藤 智之 直江 将司
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.339-351, 2021 (Released:2022-04-26)
参考文献数
70

ササ類は日本の多くの森林で繁茂し、その種の違いは森林植生区分の指標として重要視されてきた。一方で密生したササ群落はしばしば樹木の更新を妨げる。そのためササ類の分布動態の解明は、森林生態学や森林管理上の大きな課題である。本研究はササ類3種が分布する小川保護林において、1) ササ群落の分布動態は、稈高や稈寿命、地下茎の形態などの生態的特性を用いて予測できるのか、2) 雑種起源のアズマザサは親種であるミヤコザサとどのような競合関係にあるのか、3) 極相であるブナ-スズタケ群集に向かってスズタケの優占が進むのか、の3点を検証することを目的に、ササ類3種の稈の分布を30年間 (1990年 - 2020年) 調査した。小川保護林内に設置した小川試験地 (6ha) の10m格子上にある600個の方形区 (2m × 2m) で調査した結果、年拡大速度は、稈高が最も高いスズタケで117m2/year、稈高の低いミヤコザサとアズマザサでは47、53m2/yearであった。稈寿命はスズタケ、ミヤコザサ、アズマザサの順で、15年、2年、7年と推定された。このような3種の分布動態の違いは、稈高や稈寿命などと対応し、アズマザサとミヤコザサは稈高が似ていて共存状態が続くと示唆された。稈高が高く稈寿命も長いスズタケは拡大を続け、ブナ-スズタケ群集へ遷移すると推測された。しかしスズタケ群落の1つが2017年に開花枯死したので、スズタケの実生更新が今後の研究課題となる。
著者
伊原 徳子 飛田 博順 宮澤 真一
出版者
Forestry and Forest Products Research Institute
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.207-216, 2022 (Released:2022-11-05)
参考文献数
33

二酸化炭素濃度によって発現が変動する遺伝子を明らかにするために、スギ針葉を用いてトランスクリプトーム解析を行った。得られたRNAリードのde novoアセンブリにより35,211の遺伝子配列が得られた。そのうち、113遺伝子が高CO2 、30遺伝子が低CO2 で高発現していた。推定された遺伝子の機能から、高CO2 と低CO2 では異なる分子経路の遺伝子発現が活性化されていることが示された。光合成や光呼吸の遺伝子の転写は大きく影響されなかったが、葉緑体にコードされる遺伝子の転写を制御する遺伝子の発現が低CO2 条件下で高くなっていた。検出された変動遺伝子の中に葉緑体に関連する機能を持つ遺伝子が多かったこととあわせ、葉緑体関連の遺伝子の転写調節がCO2 変化に対する初期応答の一つであることが示唆された。
著者
槇原 寛 滝 久智 明間 民央 日暮 卓志
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.139-143, 2022 (Released:2022-09-30)
参考文献数
19

アーバスキュラー菌根菌子実体を食べる甲虫2種、ムネアカセンチコガネとアカマダラセンチコガネの季節的消長を観察した。茨城県かすみがうら市の森林総合研究所千代田試験地のスギ林地表にフライトインターセプトトラップを設置して両種を捕獲したところ、春から秋に捕獲され、初夏に捕獲ピークがあった。ムネアカセンチコガネの捕獲はどの季節でもほぼ雌雄同数であったが、アカマダラセンチコガネは初夏に雌が多く捕獲された。本報は両種がスギ林内で捕獲されることを明らかにした最初の記録である。
著者
平川 浩文 小阪 健一郎
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.175-178, 2009-09

コテングコウモリは、シベリヤ南東部・サハリン・千島列島・朝鮮半島・日本に分布する。森林に生息する小型のコウモリ(体重4-9g)で昆虫を餌とし、春から秋にかけては草や木の枯葉を主なねぐらとする。一方、晩秋から早春にかけては樹洞の利用も観察されている。しかし、活動が低下するこの時期をどのように過ごしているのかに関する情報はきわめて限定的で不明な点が多い。本種は雪面にあいた穴の中あるいは雪面で時々発見される。我々の知る範囲で7件の報告、8例の記録がある。地域別にみると、北海道4例、栃木1例、新潟1例、広島2例(広島の1例は3個体同時に発見)である。発見時の状況はさまざまであるが、発見時、個体はすべて休眠中で生存しており、雪面あるいは雪中をねぐらとして利用していたと考えられる。しかし、これらの観察が何を意味するかについては必ずしも明らかではない。今回、我々は11月末という早い時期に雪中で休眠中のコテングコウモリを記録したので、以下報告し、その意味について考えてみたい。
著者
牧野 俊一 後藤 秀章 岡部 貴美子 井上 大成 大河内 勇
出版者
Forestry and Forest Products Research Institute
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.121-128, 2021 (Released:2021-11-09)
参考文献数
17

茨城県北部の、林齢が異なる天然広葉樹二次林10か所(林齢1~178年)と、スギ人工林8か所(3~76年)においてマレーズトラップを用いた有剣ハチ類の採集を4~11月に行った。広葉樹二次林系列では1年間で合計12科167種3605個体、スギ林系列では11科136種2645個体が得られた。種数が最も多かったのはギングチバチ科で、クモバチ科がそれに次いだが、個体数ではクモバチ科がどの林分でも最も多かった。有剣ハチ類全体の種数と個体数は、広葉樹二次林系列、スギ人工林系列ともに林齢3~4年の林分で最多で、いずれにおいても林齢とともに減少した。有剣ハチ類の多くは若齢林分を好んで出現したが、より林齢の高い林分に偏って出現する種も見られた。
著者
末吉 修三
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.209-216, 2018

本研究の目的は、事務所の内装写真を用いた聞き取り調査で得られたテキストデータの解析における対応分析活用の有用性を確かめることである。このテキストデータはすでに公表されているが、次のようにして得られた。被験者に対して20枚の事務所内装写真を提示し、類似の印象を持つグループに分けさせた。その後、グループごとに、事務所内装写真から想像できる会社およびそこで働く人々の印象を答えさせた。このテキストデータの形態素解析によって、「木材」、「柱」、「天井」、「家具」、「机」、「椅子」、「絵画」および「植物」が使用頻度の高い名詞として抽出された。これらは、事務所内装写真の印象を決定づける被写体と考えられる。また、写真から受ける印象を表現する形容詞として、「あたたかい」、「静か」、「快適」、「友好的」、「明るい」、「暗い」、「冷たい」および「堅苦しい」の使用頻度が高いことがわかった。これら使用頻度の高い語と写真番号について対応分析を行うとともに、聞き取り調査で用いた写真の色分析を行った。対応分析によって、内装写真の印象を区別することができた。さらに、対応分析と内装写真の色分析を組み合わせることによって、被験者が「木材」の黄赤系の鮮やかな色彩に注目して、事務所内装写真を分類していることがわかった。これらの結果は、対応分析がテキストデータに基づく木質内装の視覚的影響の評価に有用であることを示唆するものである。
著者
谷本 丈夫 豊田 武司 渡辺 富夫 飯田 滋生 苅住 昇 千葉 春美
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
no.369, pp.1-61, 1995-03

本研究は,熱帯・亜熱帯地域における造林技術,小笠原諸島の固有種と景観の保護,保全技術の確立に必要な基礎的情報を得ることを目的に,1971年に小笠原諸島父島に設定された林業試験場(現森林総合研究所)小笠原試験地において植生区分及び遷移,群落構造などについて固定試験地を中心に調査・解析を行った。父島における立地環境からみた自然植生は,海岸植生,山地風衝型植生など五つの型に分けられ,これらに加え導入種であるリュウキュウマツ,ギンネム林などの人為植生を併せて10型の植生型が認められた。小笠原試験地の植生は山地緩斜地型が多く,山地風衝型植生は少ない。防風林に取りまかれた畑地跡には,乾燥する尾根を中心に天然更新したリュウキュウマツ林が多く,人為的要素の強い群落が特徴的であった。マツノザイセンチュウ病によるマツ枯れは,これらの景観を一変させ,ウラジロエノキなどの陽樹,ヒメツバキ,キバンジロウなど母樹の多い樹種の侵入,タマシダなどの林床植生を繁茂させ,新たな種の侵入を阻害していた。マツ類は畑地放棄跡など新たに侵入定着できる立地環境が少なく,小規模な崩壊地などで生育するものと思われた。同じく導入種であるギンネムは,一度植栽されると容易には遷移が進行せず,林分が維持され分布の拡大は少なかったが,アカギは適潤地の林冠疎開地に容易に侵入していた。一方,母樹から遠い畑地の放棄地には,いまだにつる植物や草本に覆われているなど,遷移の進行に及ぼす母樹の位置,種子の散布力,結実量などの役割が評価できる資料が得られた。小笠原の自然植生は,戦中,戦後と急速な入為的影響を受け,特殊な立地環境とあいまって植物社会の成立過程が複雑であり,その維持と復元には積極的な更新補助手段を加えることが必要であることが示唆され,小笠原試験地の継続調査で得られる成果はその基礎的情報として重要な役割を果たす。
著者
勝木 俊雄 岩本 宏二郎 石井 幸夫
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.7-48, 2011-03
被引用文献数
1

多摩森林科学園のサクラ保存林では全国の主な名木や栽培品種を収集し、およそ600栽培ライン1600個体のサクラを植栽している。サクラの栽培品種に対してその開花期はきわめて重要な特性であるが、'染井吉野'の開花期以外の観測例は少ない。多摩森林科学園では、開花期の観測を1981年から総計で494個体に対しておこなってきた。そこで2010年までの30年間の494個体の平均開花日と平均満開日、および欠測が少ない148個体の各年の開花日・満開日を公表する。
著者
井上 大成
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.238-246, 2003-12

茨城県北茨城市の小川学術参考林とその周辺地域(小川地域)で、1996年~2002年までチョウ類相を調査した。成虫の主要飛翔時期に233日(約1135時間)の野外調査を行った結果、97種が記録された。科別の内訳は、セセリチョウ科16種、アゲハチョウ科8種、シロチョウ科7種、シジミチョウ科30種、タテハチョウ科23種、テングチョウ科1種、マダラチョウ科1種、ジャノメチョウ科11種だった。これらのうち、17種(森林性13種、草原性4種)は茨城県の、7種(森林性2種、草原性5種)は環境省のレッドデータリスト掲載種だった。また、生息場所として原生林を好むと考えられる種が6種、自然草原を好むと考えられる種が4種記録された。文献調査の結果とあわせて、この地域には現在約100種のチョウが生息していると推定されたが、これは実質的に茨城県でみられるチョウ全種の約94%にあたる。この地域がこのような豊富なチョウ類相をもつ背景とチョウ類の保護について議論した。
著者
関伸一
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告
巻号頁・発行日
vol.10(4), no.421, 2011-12
著者
小林 政広 吉永 秀一郎 伊藤 優子 篠宮 佳樹 相澤 州平 岡本 透 釣田 竜也
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.333-373, 2018

茨城県城里町に位置する桂不動谷津流域における2001年から2014年の降水および渓流水の主要溶存成分濃度および流入量についてまとめ、各年の平均値の変化傾向を解析した。降水中の非海塩性硫酸イオンおよび無機態窒素イオンの流入量はともに変動しながら減少する傾向が認められた。渓流水中の硫酸イオン濃度は2011年までほぼ一定であったが2012年および2013年の間伐施業時に上昇した。硝酸イオンは間伐前減少傾向にあったが間伐以降上昇に転じた。間伐時の濃度上昇はカリウムイオンおよびカルシウムイオンでも認められた。ケイ素濃度は年平均値の変動が小さく、緩やかに上昇する傾向が認められた。