著者
西澤 千惠子 立松 洋子 望月 美左子 宇都宮 由佳 篠原 壽子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.31, 2019

<p>【目的】伝統的な地域の料理が伝承されにくくなっている現在,大分県の次世代に伝え継ぐ家庭料理を暮しの背景と共に記録し,家庭料理研究の基礎研究,家庭や教育現場でも利用可能な資料とする。</p><p>【方法】本研究は,平成24〜26年度に大分県内8地域における昭和35〜45年頃までに定着していた家庭料理について,60歳代以上を対象とし聞き書き調査を行なった結果から,大分県で食されていた副菜とその特徴について検討した。</p><p>【結果および考察】大分県は九州の北東部に位置し,東側は遠浅の瀬戸内海とリアス式海岸の豊後水道に面し,西側が九州山地で,その間に平野や盆地が点在するという自然豊かな地域のため,新鮮で豊富な食材に恵まれている。当時は流通網が発達しておらず,県内全域に食材が行き渡ることは難しく,その土地で季節ごとに入手・収穫した食材を大切に保存して利用していた。これらを先人の知恵に基づいてバラエティーに富んだ料理にしてきた。生産量日本一の干し椎茸を使い「含め煮」や「辛子漬け」に,瀬戸内海で採れる海藻イギス草を固めて「いぎす」にした。内陸地域では,身近にあるドングリを粉状にしてアクを除いて保存しておく。ここに水を加えて加熱しながら練ると,海藻から作った「いぎす」に似た「かたぎの実のいぎす」になる。また,早春に採れる海藻クロメを様々な工夫を凝らして食感と味を保ちながら,目先を変えた料理として食べていた。「きらすまめし」は大豆を余す所なくおいしく食べようとした倹約料理であり,「オランダ」は大分の方言「おらぶ(大きな声を出す)」から名付けられた野菜料理である。現在,家庭で日常的に作られている料理がある一方,ほとんど作られなくなっている副菜も多い。</p>