著者
井田 齊 朝日田 卓 林崎 健一
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

絶滅種・希少種の系統を解析する目的で,ホルマリン固定後長期保存された魚類標本からのDNA抽出法および多型の解析手法に関して検討を行った。DNA抽出に関しては(1)組織の物理的粉砕,(2)組織溶解に先立つホルムアルデヒドの不活化処理,(3)プロティナーゼKによる組織溶解の条件の最適化,(4)組織溶解液からのDNAの回収条件の最適化の4点に関して手法の改良を行った。その結果(1)物理的な組織の粉砕は組織溶解を容易にするが,DNAをも切断する可能性があり避ける方が良く,(2)トリス・グリシンバッファーの処理法を工夫して短時間で効率的にホルムアルデヒドの除去が可能となるようプロトコルを改変した。(3)DTT添加した4M尿素を含むバッファーを用いて高温でプロティナーゼKの連続添加が最適であった。(4)回収されたDNAの収量とその精製度がPCR反応の可否に大きく影響した。エタノール沈殿等の回収法では精製度は低く,シリカマトリックス等を用いた精製では収量が極めて少なかった。しかしハイドロキシアパタイトを用いたDNA回収ではシリカマトリックスを用いた場合に匹敵する精製度が得られ,かつDNA収量も多く好成績であった。mtDNAのチトクロームb領域の一部のPCR増幅を行ったところ,20年前までのシロザケ標本に関しては約500塩基対の増幅が可能であった。PCR反応によるDNA増幅の長さには回収されたDNAの状態により限度が異なり,リュキュウアユ,クニマス等の特に古い標本ではmtDNAの約500塩基対の増幅も可能ではなかった。核DNAのマイクロサテライト領域では,解析にせいぜい500塩基対までといった短い断片が解析に用いられることから,ホルマリン標本を用いた系統解析,特に近縁種間の系統解析にはマイクロサテライト解析を行うことが有効であると考えられ,現在解析中である。
著者
朝日田 卓 山下 洋
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

従来の形態学的手法では種判別が困難であった甲殻類消化管内容物から、ヒラメDNAを種特異的PCR法により効率的に検出する手法を開発した。また、実際のフィールド調査の際に欠かせない、大量のサンプルを効率的に処理することが可能な検出法の開発に、DNA-DNAハイブリダイゼーション法とELISA法を応用することにより成功した。本手法は、エビジャコ等の肉食性甲殻類による捕食後(水温20℃の条件下)8〜10時間程度までのサンプルからヒラメDNAを検出可能であり、PCRによる増幅後最大2000サンプル程度まで一回の検出反応で処理可能である。エビジャコ胃内容物の顕微鏡による観察においてほとんど内容物が確認できなかったサンプルからもヒラメDNAを検出できたが、消化が進んで内容物が確認できないサンプルからの検出は一般に不可能で当たり前と考えられる。この結果は、消化によるDNAの検出阻害の影響を極限まで排除できたことを示しており、従来捕食後4時間程度までのサンプルが限界であった検出可能範囲を大幅に拡大することが可能となった。これにより、ヒラメ被食生態の解明のためのフィールド調査への適用が可能となった。ヒラメの天然稚魚および放流種苗の被食実態の一端を明らかにする目的で実施したフィールド調査結果から、被食者および甲殻類捕食者の生態学的知見などを得ることが出来た。宮古湾の調査結果からは、ヒラメ稚魚の着底時期や砂浜浅海域での成長、エビジャコの生息密度や体長組成、ヒラメ稚魚とエビジャコとの生態的関係などについて新知見を得た。若狭湾の調査からは、キンセンガニが積極的捕食者ではなくスカベンジャー的な生態的地位を占めることや、カミナリイカや他の魚類などがヒラメ放流種苗の強力な捕食者であることなどの新知見を多く得た。これらの情報は、異体類被食研究やより効果的な種苗放流技術の開発に非常に有用であると考えられる。