著者
木下 恵美子 木下 英司 小池 透
出版者
日本電気泳動学会
雑誌
電気泳動 (ISSN:21892628)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.71-79, 2022 (Released:2022-11-02)
参考文献数
40

外来タンパク質を発現には,細胞あるいは無細胞系のタンパク質発現系を利用できる.目的のタンパク質がリン酸化などの翻訳後修飾を要する場合には系の選択が重要である.私たちは,ヒトSrcファミリーキナーゼ(SFKs) 8種類を,2種類の細胞ベースのタンパク質発現系と4種類の無細胞タンパク質発現系で合成し,それらのリン酸化状態をリン酸基親和性電気泳動法Phos-tag SDS-PAGEで解析した.真核細胞由来の系では,発現したキナーゼに翻訳後修飾に基づく複数のリン酸化状態が存在した.それぞれのキナーゼのリン酸化状態は,発現系によって明らかに異なった.キナーゼ活性の有無は,キナーゼと発現系の両方の特性に依存していた.これらの結果は,無細胞タンパク質合成系を利用したプロテオーム解析,特に翻訳後修飾を必要とするタンパク質の解析に対して重要な情報である.
著者
木下 英司
出版者
日本プロテオーム学会
雑誌
日本プロテオーム学会誌 (ISSN:24322776)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.49-60, 2019 (Released:2019-12-11)
参考文献数
32

Phos-tagは,中性の水溶液中においてリン酸モノエステルジアニオンを選択的に捕捉する機能性分子である.Phos-tagのリン酸モノエステルジアニオンに対する親和性は,生体中に存在する他のアニオン,たとえば,カルボン酸アニオンに対するそれよりも1万倍以上大きい.これまでに筆者らは,Phos-tagを基盤としたリン酸化プロテオミクスに有用な技術を開発し,実用化している.本稿では,これまでに実用化した主な3つの技術について概説する.1つめは,Phos-tagに親水性のクロマトグラフィー用担体を導入した誘導体(Phos-tagポリマービーズ)を用いてリン酸化ペプチドやリン酸化タンパク質を分離濃縮する技術,2つめはPhos-tagビオチンを用いて各種アレイ上に存在するリン酸化ペプチドやリン酸化タンパク質を検出する技術,3つ目はPhos-tagアクリルアミドを用いた電気泳動によってリン酸化タンパク質を分離検出する技術である.これらの3つの技術が,リン酸化プロテオミクス,ひいては生命科学研究に大きく貢献することを期待している.