著者
木原 太史 梅崎 英城 平山 英子 西嶋 美昭 森 清 前原 洋二 吉田 健治
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C1006, 2005 (Released:2005-04-27)

【目的】肩関節の激痛を訴え来院する患者の中で、石灰沈着性腱炎は日常よく遭遇する疾患である。従来、保存療法として、急性期には局所安静、非ステロイド系消炎鎮痛剤の内服、局麻剤やステロイドの局注、沈着した石灰の穿刺・吸引を行った。疼痛が持続した慢性期には、関節拘縮防止のための関節可動域訓練や観血的に石灰沈着物を摘出する方法がとられていた。しかし、局注を多用することによる腱・軟部組織の変性や、穿刺、吸引による腱板の医原性の断裂などの問題が起こる危険性があった。近年、体外衝撃波治療(extracorporeal shock wave therapy)(以下ESWT)による石灰沈着性腱炎に対しての治療法がヨーロッパを中心に行われている。今回、当院でも石灰沈着性腱炎に対し、ESWTを施行し、疼痛緩和、機能向上に対し効果が得られたため、若干の知見と考察を加えてここに報告する。【方法】当院外来患者のうち、石灰沈着性腱炎と診断された7名(男性3名、女性4名)に対し、ESWTを施行した。平均年齢60±9.9歳(50-79歳)、発症から治療までの平均日数37±67.4日(1-182日)であり、患者に説明と同意を得てESWTを施行した。機器は低エネルギー体外衝撃波治療機器「Orthospec(オルソスペック)メディスペック社」を用い、X-Pにて石灰の沈着部位を確認し、その沈着上の皮膚に機器の外膜を直接当てて衝撃波を照射した。照射は約1回/Wの間隔で、平均1.7+1.1回(1-4回)行った。患者の満足が得られるか、医師の中止指示が出るまで行い、治療期間の平均は5.7±5.6日(1-15日)であった。評価は疼痛(4ポイントスケール)、機能(日本整形外科学会肩関節評価表)(以下日整会表と略す)を用いた。【結果】ESWTを1回施行後、4ポイントスケールは有意に低下した(p=0.0465)。機能面では、日整会表の合計点が有意に改善した(p=0.0291)。日整会表の中でも、肩関節可動域の屈曲、外転は有意に改善した。(屈曲:p=0.03、外転:p=0.0053)。ESWT実施後、発赤など副作用の訴えはなかった。【考察】当院では、現在までに、92例の疼痛性疾患に対しESWTを試行してきた。その中でも、今回は7名の石灰沈着性腱炎に着目し報告したが、疼痛緩和、機能改善に対し効果を得ている。疼痛緩和後のX-Pにて確認すると、沈着していた石灰像が粉砕、縮小化されており、このために疼痛緩和、機能改善が得られたと思われる。さらに治療期間の短さや、ESWT終了後1ヶ月での副作用なども見られていない事などから、ESWTは石灰沈着性腱炎に対して有効な治療法であるといえる。
著者
木原 太史
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100051-48100051, 2013

【はじめに、目的】橈骨遠位端骨折などの患者の運動療法を行う際、手関節の背屈・掌屈の関節可動域(以下、ROM)の角度が改善しても、日常生活動作の中で、なかなかうまく動作が改善しない事を経験する。日本リハビリテーション医学会が制定するROM検査法では、手関節の掌屈・背屈は、前腕中間位にて測定するように定められている。だが、日常生活動作の中で、前腕中間位で動作する事は少ないように感じる。今回、前腕の肢位の違いにて手関節背屈のROM角度(以下、手背屈ROM角)に差があるのかを比較検討し、その因子について検証するため、前腕の屈筋群に着目し、筋腹を直接圧迫するダイレクトストレッチ法(以下、ストレッチ)を実施することで、手背屈ROM角がどう変化するのかを測定し、検証を行った。若干の知見を得たのでここに報告する。【方法】対象は手関節に問題のない健常成人29名(男性17名、女性12名、平均年齢31.3±7.9歳)とした。まず、29名の左右の手関節背屈ROM角を、前腕の中間位、回内位、回外位で測定した。また、その背屈運動時に、同時に起こっている手関節の橈側・尺側への偏位角度(以下、偏位角)も測定した。その後、背屈時の拮抗筋となる前腕の屈筋群に対して、患者の痛みを伴わない程度の弱いストレッチを行い、手背屈ROM角の変化を測定した。ストレッチの強さは、防御性筋収縮反応が出ない程度の強さで、伸張時間は、各筋腹に対して20秒×3か所の合計1分間行った。29名の対象者のうち、ストレッチを(1)橈側手根屈筋に対して行った10名(以下、FCR群)、(2)尺側手根屈筋に対しての10名(以下、FCU群)、(3)長母指屈筋に対しての9名(以下、FPLM群)、(4)深指屈筋に対しての9名(以下、FDP群)に実施した。その後、ストレッチ前後の手背屈ROM角について統計処理を行った。統計処理は、対応のあるt検定を用い、危険率5%未満を有意差有りとした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には今回の研究に対して十分な説明を行い、同意を得た。【結果】(1)前腕の肢位による手背屈ROM角は、平均で回外位58.09±7.57°、回内位64.83±8.15°、中間位77.7±6.43°であり、手背屈ROM角は、回外位<回内位<中間位となり、中間位が最も大きかった。それぞれp<0.0001と有意差があった。(2)また、その時の偏位角は、平均で、回外位20.65±8.28°(橈側偏位)、中間位6.54±6.36°(橈側偏位)、回内位16.39±6.97°(尺側偏位)であった。偏位角においても、それぞれの肢位で、p<0.0001と有意差があった。ストレッチ実施前後での変化として、有意差が出たものとしては、(3)前腕中間位で、手背屈ROM角は、FDP群が、78,29±9.52°→84.14±6.04°、偏位角は、FPLM 群が、6.29±6.18°→2.71±2.56°(橈側偏位)へと角度の変化が見られた。同じように、(4)前腕回内位で、手背屈ROM角は、FCR群が63.4±2.76°→70.8±3.85°、FPLM群が64.86±8.03°→68.57±6.9°、偏位角は、FPLM 群が、14±2.31°→9.71±6.21°(橈側偏位)、(5)前腕回外位で、手背屈ROM角は、FCR群が55.2±4.02°→63.1±8.64°へと変化が見られた。前腕回外位での偏位角は、どの筋群においても、特に有意差は見られなかった。【考察】手背屈ROM角を前腕中間位、回内位、回外位で測定した結果、前腕の肢位により、有意差が見られ、前腕中間位での背屈角度が最も大きかった。これは、前腕の肢位による橈骨と尺骨の骨関係により筋の走行も変化するため、筋の伸張による制限も因子の1つと考えられる。それを検証するために、前腕の3つの肢位にて、各手関節屈筋群に対し、ストレッチを行い、手背屈ROM角と偏位角の変化を見た。前腕回内位では、手背屈ROM角はFCR群とFPLM群に、偏位角はFPLM群に変化が見らえた。これは、橈側の浅層と深層の筋の伸張感が回内位での手背屈ROM角の制限因子の1つになっていることが考えられる。また、前腕回外位でも、手背屈ROM角はFCR群に有意差が見られたことで、回外位においても、橈側の筋であるFCRが因子の1つとなっていることがわかる。【理学療法学研究としての意義】以上のことより、手背屈動作にて、浅層の橈側手根屈筋とともに、深層の筋である長母指屈筋が、筋によるROMの制限因子を考える上で重要であり、前腕のどの肢位においても、これらの筋へのアプローチを考えていく必要があるといえる。
著者
木原 太史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1537, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】橈骨遠位端骨折などの患者の運動療法を行う際,手関節の背屈の関節可動域(以下,ROM)の角度が改善しても,日常生活動作の中で,なかなか動作が改善しない事を経験する。日本リハビリテーション医学会が制定するROM検査法では,手関節の背屈は,前腕中間位にて測定するように定められている。だが,日常生活動作の中で,前腕中間位で動作する事は少ないように感じる。今回,前腕の肢位の違いにて手関節背屈のROM角度(以下,手背屈ROM角)に有意差があるのかを比較検討し,その因子について検証するため,前腕の屈筋群と母指の外転筋群に着目し,筋腹を直接圧迫するダイレクトストレッチ法(以下,ストレッチ)を実施することで,手背屈ROM角がどう変化するのかを測定し,検証を行った。前腕の肢位による手背屈ROM角の有意差だけではなく,母指の外転筋群の手背屈ROM角の影響など,若干の知見を得たのでここに報告する。【方法】対象は手関節に問題のない健常成人42名(男性22名,女性20名,平均年齢30.5±9.2歳)とした。まず,42名の左右の手関節背屈ROM角を,前腕の中間位,回内位,回外位で測定した。また,その背屈運動時に,同時に起こっている手関節の橈側・尺側への偏位角度(以下,偏位角)も測定した。その結果,42名左右の手関節ROM角に有意差がなかったことから,左右手の84肢に対し,7つのグループにわけ,背屈時の拮抗筋となる前腕の屈筋群と母指外転筋群に対して,患者の痛みを伴わない程度の弱いストレッチを行い,手背屈ROM角の変化を測定した。ストレッチの強さは,防御性筋収縮反応が出ない程度の強さで,伸張時間は,各筋腹に対して20秒×3か所の合計1分間行った。ストレッチは,(1)橈側手根屈筋に対して行った群(以下,FCR群),(2)尺側手根屈筋に対しての群(以下,FCU群),(3)長母指屈筋に対しての群(以下,FPLM群),(4)深指屈筋に対しての群(以下,FDP群)(5)長母指外転筋に対しての群(以下,APL群)(6)短母指伸筋に対しての群(以下,EPB群),に実施した。比較対象として,(7)ストレッチ非実施群を設けた。その後,ストレッチ前後の手背屈ROM角について統計処理を行った。統計処理は,対応のあるt検定を用い,危険率5%未満を有意差ありとした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には今回の研究に対して十分な説明を行い,同意を得た。【結果】(1)前腕の肢位による手背屈ROM角は,平均で中間位75.79±6.85°>回内位63.79±6.68°>回外位56.21+6.78°であった。それぞれp<0.0001と有意差があった。(2)また,その時の偏位角は,平均で,回外位19.93±5.4°(橈側偏位)>回内位17.33±4.72°(尺側偏位)>中間位4.6±65.98°(尺側偏位)であった。偏位角においても,それぞれの肢位で,p<0.0001と有意差があった(3)ストレッチ実施前後での変化として,それぞれの肢位にて,有意差が出ており,ストレッチによる角度の変化が出ていた。(4)母指外転筋群である長母指屈筋と長母指外転筋において,前腕中間位と回内位において,p<0.0001と有意差があった。回外位においては,有意差はなかった。(5)特に長母指外転筋においては,ストレッチ後の手背屈ROM角の変化値と偏位角の変化値においてR=0.83と相関が見られた。【考察】今回,前腕の肢位により,手背屈ROM角の有意差が見られた。また,背屈する際,橈側へ,尺側へと偏位する事が分り,偏位の仕方も前腕の肢位によって違いがあることが分った。これは,前腕回内外時に,橈骨が尺骨の周りを回ることで,骨のアライメントが変化し,また,それにより橈骨と尺骨に付着する前腕の筋に対して,筋の張力や長さに影響を与えると思われる。特に前腕回内時に,手背屈の動作筋であり,手背屈の拮抗筋とは思われていない母指外転筋において,手背屈の制限因子となりえるという事がわかった。これは,長母指外転筋が,起始部である尺骨の骨間縁と橈骨の後面から,筋が始まり,その後,前腕の背側面を走行し,橈骨茎状突起の遠位橈側面を通り,停止である第1中手骨底の外側面に着くためであると考えられる。つまり,前腕回内位により,橈骨が尺骨の周りを回り,内側へ動き,そのため,長母指外転筋の筋腹や遠位腱が伸張され,手背屈時に制限因子となりえる事を示している。【理学療法学研究としての意義】今回,前腕肢位の違いによる,手背屈ROM角の有意差が分った。日常生活においては,中間位だけではなく,回内位,回外位と使用することも多い。前腕回内位において,手背屈ROM角をリハビリする際,前腕の屈筋だけではなく,母指の外転筋に対してもアプローチする事で,手背屈ROM角の改善を得られ,患者の日常生活の改善につながると考えられる。