著者
木戸 伸英
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.1-6, 2018-03-30 (Released:2018-07-21)
参考文献数
19

私は動物園獣医師として10年程働いてきた。私の働いている環境は,特別恵まれた環境ではなく,極めて一般的な環境で,経験できる症例の数も限られるし,扱えるお金の額も多くない。しかし,そのような環境でも,いくつかの実績を論文として残すことができた。主には動物園で飼育動物の診療を行う傍らで経験した症例に関する論文と,神奈川県からの委託事業で横浜市が行っている傷病鳥獣保護事業で得た知見を論文にしたものがある。加えて,わずかではあるが,動物園で働く飼育員の論文投稿を手伝うこともできた。なぜ論文の作成にこだわるかというと,動物園では経験できる事柄が限られ,しかも過去の報告を調べても十分な情報を得られることが少ない。それ故に,論文として情報を広く公開することは非常に重要で,その情報が誰かの助けになるかもしれないし,あるいは新たな知見を得る手掛かりになるかもしれない。動物園や水族館では新たなことに挑戦する機会が多いと思うが,挑戦した事柄を論文として残し,広く知ってもらうことが大切だと考えている。こういった点で私自身は多少なりとも動物園や野生動物医学の発展に貢献できたのではないかと思っている。そして,今後もその努力を続けていきたいと考えている。
著者
木戸 伸英
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.71-75, 2018-09-28 (Released:2018-12-05)
参考文献数
2

現在,日本の動物園・水族館が主体となって調査・研究を行う機会は,それ程多くないと感じている。その理由としては,研究費や人手不足等様々な問題があるだろうが,最も大きな原因はノウハウが不足している,という点にあると思う。本稿では筆者が動物園で勤務しながら行ってきた次の五つの調査・研究活動の手法(①目的を持つ,②データを集める,③データを整理して方向付けする,④結果の意味を考える,⑤口頭発表・論文発表を行う)を紹介することで,将来動物園・水族館での調査・研究活動の活性化に寄与できればと期待している。動物園・水族館で調査・研究を行う事は,得られた知見を社会に還元する意義と共に,働く職員のスキルアップ,あるいは専門性を高めるためにも有益であると考える。今後多くの方々が積極的に調査・研究活動に取り組んで頂ければ幸いである。
著者
木戸 伸英 山本 裕彦 亀ヶ谷 千尋 大浦 篤志 飯野 雄治 山本 芳郎
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.121-126, 2010

10か月齢のオスのスーチョワンバーラル(<I>Pseudois nayaur szechuanensis</I>)が,排尿困難の症状を示した。身体検査,血清生化学検査およびX線検査の結果から尿道閉塞が示唆され,尿道切開術が行われた。術後,重篤な尿毒症が認められたが,輸液療法により治癒した。結石は炭酸カルシウムにより形成されていた。尿道切開術は上行性泌尿器感染症の危険性が低く,排尿や繁殖といった正常な行動を維持することができる。術後2年経過したが,本バーラルは正常な排尿を続けている。