著者
佐藤 祐基
出版者
Hokkaido University(北海道大学)
巻号頁・発行日
2013-03-25

本論文では,児童・青年期の気分障害と広汎性発達障害に関する臨床的研究を行った.まず,第1 章では,児童・青年期の気分障害と広汎性発達障害の概要について紹介し,本論文の目的について述べた.第2 章では,小児科発達障害クリニックの中にある児童精神科外来を初診した児童・青年期の大うつ病性障害の症例47 例を対象に,後方視的なカルテ調査を行った.児童・青年期の大うつ病性障害は,広汎性発達障害や不安障害,注意欠如・多動性障害などの併存障害と,相互に密接な関係があることが推察された.特に,従来考えられてきたよりも広汎性発達障害との併存率は高いと思われた.また,大うつ病性障害で受診し,社会的ひきこもりの症状をもつ場合は併存障害に注意して診断を検討する必要があると考えられた.転帰については,1 年以上の治療を継続することが症状の改善に有効であることが明らかとなった.ただし,併存障害がある場合は,ない場合と比べて,症状が改善しづらい傾向があることが示唆された.第3 章では,児童・青年期の双極性障害について,児童期と青年期の比較をしながら,診断や併存障害,経過,および転帰について検討することを目的とした.児童・青年期の双極性障害の症例30 例を対象に,後方視的なカルテ調査を行った.診断については,特定不能の双極性障害が最も多かった.併存障害として,広汎性発達障害が最も高い割合で確認された.転帰については,平均して約2 年7 カ月の治療期間に,半数以上の症例が改善を示した.児童期発症の双極性障害は,広汎性発達障害と注意欠如・多動性障害の併存が多く見られ,躁病相とうつ病相が混合した経過をたどりやすいと考えられた.青年期発症の双極性障害は,不安障害を単独で併存する場合が多く,経過については児童期と比べて躁病相とうつ病相の区別が明瞭となりやすいと考えられた.第4 章では,気分障害と広汎性発達障害を併存した青年期の事例について,筆者が臨床心理士の立場から臨床心理学的援助を行うことで,学校適応が高まった経過について振り返り,効果的な支援について検証することを目的とした.心理面接は週1 回,1 時間という枠組みで,約2 年間に渡って行われた.心理支援を独自に工夫することによって,学校など社会的な場面での適応が改善されるようになった.結論として,第5 章で本論文のまとめを行った.児童・青年期の気分障害は,広汎性発達障害などの併存障害と,相互に密接な関係があることが推察された.児童・青年期の気分障害の転帰については,一定期間の治療を行うことで,半数以上の症例が改善していた.気分障害と広汎性発達障害が併存した場合の実際の支援については,臨床心理学的援助を個人の症状に合わせて行うことによって,社会適応の改善に繋がる場合があることが示された.
出版者
Hokkaido University(北海道大学)
巻号頁・発行日
2007-03-23

現代の町並み色彩をめぐる根本的な課題は、建築の素材色に規定されていた時代から自由な塗装色の時代へと変わった中で、個性的で魅力ある、すぐれた町並み色彩とは何か、また、そのような町並み色彩をどのようにすれば形成できるのかにある。この課題に対して、塗装色の時代になって以降現在までの100 年余の間に、地域や人々の間で色彩が生活文化としてどのように培われてきたのかを掘り起こし、解き明かすことがなによりもまず求められている。本研究の目的は、地域において人々が日常生活の中で建物の塗装色とどのようにかかわりあってきたのかをとらえ、町並みにおける人々と色彩との歴史的、文化的、生活的な関係を明らかにし、その中からこれからの町並み色彩のあり方を見出そうとすることにある。具体的には、塗装色の代表例であるペンキが、建物の維持管理上必要な数年単位の塗り替えという、住民の周期的な生活行為が直接的に町並みの形成、維持にむすびつく、生活景の一つの典型タイプであることに着目し、日本において洋風の木造下見板張り建築様式とともにペンキが導入された明治期から現在までの間に、どのように町並みの色彩として形成され、変容してきたのかを明らかにする。そして、その変容過程の中で、町並みの形成、維持にかかわる色彩選択、決定の原理を抽出し、特徴ある色彩形成のしくみをとらえようとするものである。本論文は全9章で構成しており、各章の概要は以下のとおりである。第1章では、課題の提示と研究の目的、動機と意義、方法、論文の構成について論述するとともに、主題に関する既往研究について概括し、本研究の位置づけをおこなった。第2章では、ペンキ色彩の町並みの変容を実証する主要な、かつ簡便な方法として、「時層色環」という新しい概念を提示し、その調査、分析の手法について具体的に論述した。時層色環とは、木造下見板張り建物の外壁等のペンキ塗膜を紙やすりで円環状に削ることによって得られる、同心円状の模様をした古いペンキ層のことであるが、そこにはペンキ色彩にまつわる人々の生活や地域の歴史が蓄積されており、その分析によってペンキ色彩と時代、地域の環境やコミュニティ、人々の生活との関係をさぐることができる。第3章から5章では、時層色環の調査・分析手法を用い、日本の代表的な木造下見板張り建物ペンキ色彩からなる町並みとして、一般庶民の住宅群で構成されている函館市西部地区と外国人の住宅群、いわゆる異人館で構成されている神戸市北野町山本通地区、これらの原型と考えられるアメリカ・ボストン周辺地区の3地区をとりあげ、19 世紀半ば頃から現在までの町並み色彩の変容過程を分析し、比較考察をおこなった。その結果、3地区の下見板張り建築は歴史的なつながりがあり、形式が類似しているが、町並み色彩の特徴はそれぞれ異なり、そこには地域の歴史、文化や住民の生活、意識が反映されていること、また時代によって町並み色彩が変化するのは共通していることを明らかにした。第3章では、函館市西部地区において、多くの建物が数年単位でペンキを塗り替える際に以前とは異なる色を使い、町並み全体としては20 年から30 年の周期で色彩が変化していること、大火や戦争による色の選択の不自由な時代を除き、平時には多様な色彩の町並みが形成されていたことが明らかになり、この変化と多様さの中で一定の調和を保っているところに町並み色彩の特質があることをとらえた。また、多様な中にも、とくに戦後はパステル調のピンク系や緑系の特徴的な色の使用がみとめられ、それは地区の代表的な建物や船舶の色が住民に評価され、受容されて地域に広がるという、コミュニティによる地域環境価値評価型の町並み色彩形成がとらえられた。第4章では、神戸市北野町山本通地区において、従来外壁のオフホワイト系やライトベージュ系の統一的な色彩が特徴とされてきたが、1960 年代以前にはこれらとはまったく異なる多様な色彩が使われ、そこには様々な外国人の色彩文化の反映による外来文化主導型の町並み色彩が形成されていたこと、1960 年代以降は、戦争による外国人の国外退去や異人館の取り壊しなどの急激な環境変貌に対する住民の結束の表現として、地域コミュニティ主導型の統一的な町並み色彩へと変化したことを明らかにした。第5章では、アメリカ・ボストン周辺地区において、19 世紀後半にはヴィクトリアン様式の時代の流行であった茶系、緑系の暗色の、様式建築文化主導型の町並み色彩が形成されていたが、20 世紀半ば以降は灰系、白系の色への変化がみられ、これは戸建住宅地の豊かな緑の周辺自然環境調和型、あるいは住民が憧憬する組積造の石のイメージ表現型などへの町並み色彩変容であることをとらえた。第6章では、函館市西部地区における色彩選択、決定のしかたを人々の暮らしとのかかわりから詳細に分析し、ペンキ塗装が住民の生活レベルで様々な意味や物語をもち、住民がその記憶を基盤として塗装業者、近隣と色彩選択時に対話、相談をし、建物や周辺環境の特質に対して価値評価をおこなうという構造をとらえ、それが特徴ある町並み色彩の形成、維持のしくみとして働いていることを明らかにした。町並み色彩の特徴をたもつには、この構造的なしくみを維持することが必要であるが、函館市西部地区において近年、下見板張り建物の減少などの変化にともない、このしくみが弱体化する傾向にある。第7章では、こういう状況の中で、1990 年代以降に新しく展開されてきた市民によるペンキ塗りボランティア活動と行政による町並み色彩コントロールが、従来のしくみの構造を補強、継承し、町並み色彩の特徴をたもつ役割を果たしていることを明らかにした。第8章では、町並み色彩計画のあり方について論述している。前章までの成果から、町並み色彩は地域の歴史、文化が表現され、地域コミュニティ単位の固有性をもち、地域住民の社会的な生活意識が視覚的に表現され、現象的にも実体的にも変化し、生活の物語として地域住民の生活との濃密なかかわりをもつ、複合的、重層的なものであるととらえ、これを「生活環境色彩」と定義づけた。従来の町並み色彩計画論における「自然環境色彩」と「近代科学色彩」の2 つの原理に、この「生活環境色彩」を加えて枠組みを広げることにより、地域住民が日常生活とのかかわりの中で色彩をより身近なものとしてとらえ、町並みへの関心を高める効果が期待でき、これら3 軸の関係から町並み色彩計画のあり方を考える必要性、重要性を論じた。第9章では、本研究の要約をおこない、結論として、(1) 町並み色彩変容研究の方法論として、時層色環の調査・分析手法を開発した。(2) その手法を用いて、函館、神戸、アメリカの3 地区における町並み色彩の歴史的変遷の事実を解明した。町並み色彩はそれぞれの地区によって異なる固有性をもっていると同時に、不変的なものではなく、時代によって変化するものであることがとらえられた。(3) 町並み色彩の形成、変容には地域の歴史、文化や住民の生活、意識が反映されていることを実証的、具体的にあきらかにした。とくに、住民の生活とのかかわりから、それぞれの色彩がもつ意味や物語をとらえた。(4) 特徴ある町並み色彩を形成し、維持するしくみとして、住民らの多様な主体による協議と、地域の環境の特質やコミュニティとの関係の中で価値評価がおこなわれる色彩選択、決定のシステムをあきらかにした。(5) このような町並み色彩のあり方を生活環境色彩という新たな概念で示し、それを取り込んだ町並み色彩計画論を展開した。すぐれた町並み色彩の形成には、建物群の色彩の調和という物的環境の意匠的側面の整備にとどまるものではなく、生活環境色彩を地域の中に発見し、それを育成していくことが重要であることを論じた
著者
松谷 悠佑
出版者
Hokkaido University(北海道大学)
巻号頁・発行日
2018-03-22

Ionizing radiations (particularly X-rays) contribute to not only image diagnosis but also radiation therapy in medical practices, whilst biological effects such as cell kill and mutation after exposure to the ionizing radiations are induced in mammalian cells. Cell kill is one of cell responses caused by some mis-repaired lesions and non-reparable lesions after exposure, which is one of endpoints to discuss non-stochastic effects according to International Commission on Radiological Protection (ICRP). After the accident of Fukushima 1st Nuclear Power Plant (F1-NPP) following the earthquake and tsunami on 11th March, 2011, biological effects (radio-sensitivity) under the protracted (long-term) exposure to low-dose ionizing radiations have drawn a keen interest of the public. Generally interpreted, radio-sensitivity decreases as dose or dose-rate (fluence rate) is decreased. However, recent biological experiments show several reversal radio-sensitivity in low-dose and low-dose-rate range. Evaluation of the reversal radio-sensitivity is a crucial issue from the standpoints of radiation therapy and radiation protection. In this study, focusing on the time course of cell responses during the protracted exposure at various dose-rates, cell responses and radio-sensitivity were investigated by the combination of in vitro experimental study and model analysis. To investigate the time course of cell responses and reversal radio-sensitivity, two main subjects were discussed in this study: one is cell responses and radio-sensitivity under 250 kVp X-rays (standard radiation) protracted exposure at various dose-rates, and the other is development of mathematical modelling considering targeted (energy deposition along radiation particle track) and non-targeted effects (intercellular communication) in wide dose range. Cell-cycle study showed dose-rate dependence of cell-cycle dynamics in one of the mammalian cell lines, Chinese hamster ovary (CHO-K1), during the exposure at various dose-rates of 0.186-6.0 Gy/h. DNA damage checkpointers through cell cycle depend on the magnitude of dose-rate and the CHO-K1 cells exhibit following cell responses: (i) an cell accumulation in G2 phase during exposure at lower dose-rates (e.g., 0.186 and 1.0 Gy/h), (ii) the delay of DNA synthesis and an accumulation of the cells in S/G2 during the exposure at intermediate dose-rate (e.g., 3.0 Gy/h), and (iii) the blocks of cell cycle progressing in G1/M and G2/M checkpoints and the delay of DNA synthesis during the exposure at higher dose (e.g., 6.0 Gy/h). The CHO-K1 cells exhibit reversal radio-sensitivity (inverse dose-rate effects: IDREs) with a subtly high radio-sensitivity under exposure at 1.0 Gy/h and an unexpected greater radio-resistance under the exposure at 3.0 Gy/h. The model analysis gives the theoretical explanations that this tendency is caused by the change of DNA amount per nucleus and increases in SLDR (sub-lethal damage repair) rate associated with the fraction of cells in S phase during long-term exposure. Taking account of both the higher radio-sensitivity under 1.0 Gy/h exposure and the radio-resistance after exposure to 3.0 Gy/h, the changes in cell-cycle distribution during exposure might play a key rule of modulating the cell survival curve and are possibly responsible for IDREs. The involvement of intercellular communication between hit cells and hon-hit cells (non-targeted effects) in reversal radio-sensitivity was also evaluated. To analyse the mechanism of non-targeted effects, the integrated cell-killing model considering DNA-targeted and non-targeted effects was developed. A couple of new features of this integrated model are given as follows: (i) the traditional stochastic hit theory with linear-quadratic (LQ) relation is adopted to describe the hit probability to emit cell-killing signals, (ii) the repair kinetics of signal-induced DNA lesions is incorporated, and (iii) repair efficiency for lesions induced by intercellular communication is much lower than that in DNA-targeted effects of radiation. Based on this framework, the present model provides quantitative formulae that enable us to describe a series of cell responses such as signal kinetics, DNA repair kinetics and cell survival. The model was verified by comparing with experimental data of signals, DNA damage number per nucleus and cell kill, suggesting that (i) the LQ relation has a potential to express hit mechanism in non-targeted effects and (ii) the low repair efficiency in non-hit cells is intricately related with low-dose hyper radio-sensitivity (HRS). From the model estimation, it was shown that the low-dose HRS is enhanced more as the DNA repair efficiency in non-hit cells is lower, providing new clues to understand the cell responses in non-targeted effects. In this thesis, the investigations to estimate the contribution of cell-cycle dynamics and low-dose HRS to reversal of radio-sensitivity after long-term exposure are summarised. Through the analysis by the integrated cell-killing model, a couple of new interpretations for cell responses under low-dose or protracted exposure were presented. This study would contribute to more precise understandings of cell responses after the long-term exposure and low-dose exposure to ionizing radiations.
著者
小川 将司
出版者
Hokkaido University(北海道大学)
巻号頁・発行日
2015-03-25

Recently, inverters which are the key technology component in power electronics are widely used in many fields for energy saving. The switching speed of next-generation switching devices is expected to improve to 10-fold that of conventional Si IGBTs by using wide band gap semiconductors, which are SiC and GaN. These devices can improve PWM inverter carrier frequency which is difficult to operate conventional inverters. High-frequency PWM inverter can output high response waveform and be downsized. However, High-frequency PWM inverters will increase output voltage distortion and EMI(electromagnetic interference). Major reasons of these problems are dead-time and common-mode voltage. Dead-time is essential for inverters to prevent a short circuit induced by delaying the time of devices. Dead-time generates output voltage error which is proportional to the carriar frequency. Common-mode current, which caused by common-mode voltage, flows through the loop consisting of main circuit, ground-line and power source. Therefore, common-mode current injects into other devices connecting to same power source and causes conducted EMI. Furthermore, the high-frequency common-mode current flowing in the main circuit may cause radiated EMI. To solve above problems, this paper describes the following topics using 100 kHz PWM inverter. 1. A novel feedback-type dead-time compensation method with high-speed and high-response is proposed. The basic operation of proposed method is matching the pulse width of the output signal to that of input signal. If the short pulses, which are shorter than minimum output pulse of PWM inverter, are input, proposed method generates an output pulse after a few input pulses so that the average voltage of output signal equal to the input signal. Therefore, proposed method has no compensation limit theoretically. Experimental result using PWM signal shows that proposed method has low voltage distortion and high-voltage utilization factor characteristics. 2. To cancel the common-mode voltage which causes common-mode noise, active common-noise canceler(ACC) is applied to 100 kHz PWM inverter. An ACC for 100 kHz PWM inverter is designed and constructed for compare with an ACC for 10 kHz PWM inverter. Although the weight of a part of the ACC for 100 kHz PWM inverter is 16% of that of the ACC for 10 kHz PWM inverter, the prototype ACC cancels the common-mode voltage equivalent to the ACC for 10 kHz PWM inverter. A new circuit configuration of the ACC for 100 kHz SVPWM inverter is proposed. A new circuit configuration has small size because it operates without another power supply and large parts. Combination of above 2 methods, high-frequency PWM inverter reducing distortion and noise will be developed.