著者
木暮 照正
出版者
福島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

人間が外界を理解する上で,視覚情報を一時的に保持し,後々の判断に利用できることは,日常生活を恙無く過ごすためにも重要な基本的認知能力の一つである.本研究の目的は,この視覚短期記憶機構の加齢変容を解明することである.平成16年度(最終年度)の到達点は,前年度までの研究成果を踏まえて,1)20歳台から高齢期に至るまでの各年齢層を対象とし,物体性及び空間性の視覚短期記憶機構の加齢変容について実験心理学的に検討すること,及び2)加齢シミュレーション研究も併用し,機構の解明にアプローチすることの2点である.(加齢シミュレーション研究とは,健常若年者を実験対象とし,課題難易度を調節して仮想的に高齢群と同等のレベルまで認知成績を低下させ,背景にある認知メカニズムを精査する手法である.)まず1)に関して,物体性視覚短期記憶については,記銘する特徴によって加齢変容が異なる傾向が見られた.色特徴のみを短期保持する場合に加齢変容(成績低下)が著しく,線分の方位のみを短期保持する場合には加齢変容は認められなかった.一方,空間性視覚短期記憶(物体間の空間関係情報の短期保持)については,顕著な加齢変容は認められなかった.2)に関しては,若年者群を対象に物体性短期記憶における空間成分の手がかりを操作する実験を実施した.物体の特徴(色や方位)を短期保持する場合に,事前にどの位置に刺激が出てくるのか,あるいは,どの位置に刺激が出ていたのかを指示することで記憶成績が変化するかどうかを検証した.その結果,空間位置の事前予告では成績は向上せず,事後の指示ではむしろ成績を低下させるものの,事前予告は事後指示の負の効果を相殺することが分かった.以上の知見を総合的に考察すると,視覚短期記憶における空間成分(刺激の布置や刺激間の空間的関係性など)が短期保持の成績を左右する重要な要因であることが示唆されたといえる.
著者
木暮 照正
出版者
福島大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では,日常生活での問題解決力の基盤の一つである認知的柔軟性(文脈状況に合わせて視点や注意を柔軟に切り替えることができる能力),とくに直面する問題にどのように対処しようとするかという点に着目し,成人の学習経験がこの認知的柔軟性の生涯発達変化に及ぼす影響関係について,質問紙及びオンライン型のアンケート法を用いて検討した。自己学習(インフォーマルな学び)に対して意欲や満足感が高い成人学習者は,直面する日常的な問題に対して柔軟な対処をとることができる可能性が示唆された。