著者
堤 裕昭 木村 千寿子 永田 紗矢香 佃 政則 山口 一岩 高橋 徹 木村 成延 立花 正生 小松 利光 門谷 茂
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.165-189, 2006-03-05
被引用文献数
6

有明海では,近年,秋季から初冬に大規模な赤潮が発生し,ノリ養殖漁業に大被害をおよぼしている。水産庁九州漁業調整事務所がまとめた過去の赤潮記録を用いた解析によって,冷却期(10月〜12月)に有明海で発生した赤潮は,1998年以降規模が急に大型化したことが判明した。しかし,赤潮の大規模化を招くような陸域からの栄養塩流入量の増加は,有明海奥部に注ぐ一級河川からの栄養塩負荷量や有明海沿岸での公共用水域水質測定の過去のデータには見られない。本研究では,2002年4月〜2003年4月に,有明海で全域にわたる精密な隔月水質調査を行なった。奥部では7月および10月〜12月において,流入した河川水が表層の塩分を低下させて成層化し,その表層で栄養塩濃度が急上昇して,大規模な赤潮が発生していた。2002年4月〜5月の諫早湾潮受け堤防の開門操作期間には,島原半島側に顕著な湾口流出流が観測された。本研究の調査結果は,1997年の潮受け堤防締めきりが有明海奥部の河口循環流を変化させ,塩分の低下した表層水を湾外へ流出し難くして,1998年以降,毎年冷却期に奥部で大規模な赤潮を起こしてきたことを示している。