著者
門谷 茂
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.151-155, 2006-02-28

瀬戸内海では,他の人口集中沿岸海域と同様に1950年代以降,流入する河川の栄養塩濃度(とりわけ,リン・窒素)は,上昇を続けその結果として,海域の栄養塩濃度を急上昇させた.とりわけ,60年代後半から赤潮の発生が頻繁に起こるようになり,1976年には年間299回を数えるまでになった.富栄養化は基礎生産の増大をもたらすだけでなく,光合成によって作られた膨大な有機物の多くが水柱内で消費されることなく海底に沈積し,そこで微生物分解されることにより溶存酸素濃度を減少させ,貧酸素水塊を作り出すことにも繋がった.この間の瀬戸内海における富栄養化を進行させてきたのは,陸からもたらされた窒素やリンであることは種々の環境モニター結果から明らかである.瀬戸内海の生物過程において決定的な役割を演じているのは,やはり陸上からの栄養塩負荷であった.一方,近年重要視されてきた外洋起源と言われる窒素やリンが,瀬戸内海の生物生産にどのように寄与しているかについての答えを得ることは,今後の環境行政を考える上でも,沿岸域の生物生産構造を理解する上でも極めて重要である.今後は,溶存無機態の窒素やリンがどのようなタイミングでどこからどれだけ流入しているのかについて,詳細に明らかにする必要がある.
著者
堤 裕昭 岡村 絵美子 小川 満代 高橋 徹 山口 一岩 門谷 茂 小橋 乃子 安達 貴浩 小松 利光
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.291-305, 2003-05-05
参考文献数
33
被引用文献数
27

九州西岸の有明海奥部海域において,近年夏季に発生する底層水の貧酸素化現象および頻発する赤潮の発生メカニズムを解明するため,2001年8月より2002年2月まで毎月1回,水質調査を行った。本調査期間中,8月上旬に底層で貧酸素水塊が,11月に珪藻赤潮がいずれも大雨の後に発生し,その発生過程を次のようにまとめた。1.夏季の貧酸素水塊 梅雨期の大雨→河川からの大量の淡水の流入→表層の塩分低下による成層構造の発達・夏季の気温上昇に伴う水温の成層構造の発達→底層水の貧酸素化 2.秋季の珪藻赤潮 秋季の大雨→河川からの大量の淡水の流入・大量の栄養塩の供給→低塩分・高栄養塩濃度の表層水の形成→赤潮の発生 1998年以降,秋季の赤潮は大規模化する傾向が認められる。有明海奥部海域では,塩分や水温による成層構造が発達した時に,海水交換に大きな変化が生じ,海水が滞留しがちになることで赤潮が発生している可能性が指摘される。
著者
鬼塚 剛 柳 哲雄 門谷 茂 山田 真知子 上田 直子 鈴木 學
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.403-417, 2002-05-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
28
被引用文献数
2

現在,洞海湾で水質浄化の試みとして,ムラサキイガイの養殖を行うことが計画されている。そこで,海域浄化に必要な養殖量とその効果を定量的に把握するために,鉛直2次元の数値生態系モデルを用いて洞海湾における物質循環の再現を行い,ムラサキイガイ養殖の有無による湾内物質循環の違いを調べた。その結果,ムラサキイガイ養殖量1,000トン以上で表層のクロロフィルa濃度は減少,湾奥底層の溶存酸素濃度は増加し始め,10,000トン養殖すれば赤潮防止に効果があり,貧酸素水塊の状態にも改善が見られることがわかった。10,000トン養殖時に,ムラサキイガイによる植物プランクトン摂食量は基礎生産量のおよそ2割に達し,2次生産量より大きい値であった。また,養殖しない場合と比較すると湾内有機物濃度が2~3割程度減少していた。洞海湾では工場からのTN(溶存・懸濁態窒素総量)負荷量が大きいため,ムラサキイガイ養殖による窒素除去効果は小さく,TN負荷量の約2%ほどであった。洞海湾が国の定めるTN環境基準を達成するためには,工場からのTN負荷量を削減しなければならないが,ムラサキイガイ養殖と工場からの負荷量削減の両方を組み合わせることで,より効果的に赤潮や貧酸素水塊の発生を防止できる。
著者
菅 夏海 柴沼 成一郎 山田 俊郎 檜垣 直幸 門谷 茂 Natsumi Suga Seiichiro Shibanuma Toshiro Yamada Naoyuki Higaki Shigeru Montani 北海道大学大学院環境科学院 北海道大学大学院環境科学院 株式会社西村組研究開発室 北海道立総合研究機構地質研究所 北海道大学大学院環境科学院 Graduate School of Environmental Science Hokkaido University Graduate School of Environmental Science Hokkaido University Nishimuragumi Co. Ltd. Geological Survey of Hokkaido Graduate School of Environmental Science Hokkaido University
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 = Umi no Kenkyu (Oceanography in Japan) (ISSN:21863105)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.19-36, 2011-01-05
参考文献数
28

北海道道東に位置する火散布沼(ひちりっぷぬま)はラムサール条約登録湿地の一部でありながらも, 沼内ではアサリをはじめとする様々な漁業生産活動が行われている非常に特異な汽水域である。本研究ではこの火散布沼にて, 潮位, 流速などの物理環境を調査するとともに, 水温, 塩分, 栄養塩, クロロフィルα濃度の時空間分布を詳しく示し, 火散布沼の水理構造と, その生物過程の基盤となる栄養塩の起源について考察した。一日に供給される淡水量は沼容積の0.9~8.0%であったのに対し, 一潮汐周期にて沼に流入する外海水は沼容積の34~59%であったことから, 火散布沼は淡水供給よりも潮汐による外海水の流出入の方が卓越した系であることが確認できた。また, 試料中の窒素/リン(N/P)比, ケイ素/窒素(Si/N)比は, 火散布沼はNが制限的に作用しやすい環境であることを示していた。塩分と栄養塩類の相関関係, および潮汐による栄養塩類の流出入フラックスから, 火散布沼への無機態Nの供給源として外海水及び沼内生物による再生産の重要性が示唆された。河川(淡水)からの栄養塩供給が汽水域の基礎生産を支えるという報告例が多いが, 淡水供給量が小さい火散布沼のような汽水域においては, その基礎生産は外海水や再生産によって供給される栄養塩に支えられており, 本稿は火散布沼を淡水から供給される栄養塩に支配されない汽水生態系システムの典型例として報告する。Monthly field observations and a 36-hour survey were conducted in the brackish lagoon of Hichirippu in the eastern part of Hokkaido, Japan (43°02'N, 145°00'E). The lagoon covers an area of 3.58km^2 and has a mean water depth of ca. 70cm. It is inhabited by many animals and benthic plants (e.g. short-necked clam, swan, and the Japanese red-crowned crane), and is designated as a wetland under the Ramsar Convention. The rich natural environment of the lagoon, with a catch yield of fish, shellfish and seaweeds of about 90ton/yr, should therefore be preserved as a fishery area. In Hichirippu lagoon, we investigated the spatial and temporal distribution of nutrients and physical properties. The daily volume of freshwater input was 0.9~8.0% of total volume of the lagoon, while the volume of water entering the lagoon on the rising tide per half tidal day was 34~59%. The N : P and Si : N ratios were nearly below 16 and higher than 1, respectively, indicating nitrogen limitation. Plots of nutrients vs. salinity suggested nitrate+nitrite supply from the adjacent sea (Pacific Ocean), while the origin of ammonium was neither the adjacent sea nor freshwater. The results of the 36-hour survey showed that tidal nitrate+nitrite influx and outflux was 4.3 and 3.1kmol/half tidal day, respectively. It implicates 1.2kmol/half tidal day was supplied to the lagoon. Tidal ammonium flux values are nearly conserved. This suggests that ammonium is mainly regenerated by clam excretion in summer. Previous studies generally have shown that the freshwater input plays an important role in controlling estuarine primary production. Our results suggest that in Hichirippu lagoon both the nutrient import from the adjacent sea and the processes of nutrient regeneration within the estuary have an important effect on the primary production rather than the freshwater input.
著者
山田 真知子 大坪 繭子 多田 邦尚 中野 義勝 松原 賢 飯田 直樹 遠藤 宜成 門谷 茂
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.25-33, 2017
被引用文献数
6

<p> 我が国5海域における珪藻<i>Skeletonema</i>属の種組成を,遺伝子解析(LSU rDNA D1-D3)と微細形態の特徴から種を同定し,明らかにした。亜熱帯域の沖縄海域では<i>S. grevillei</i>,温帯域の有明海,富山湾,女川湾および亜寒帯域の噴火湾では<i>S. dohrnii</i>が優占し,<i>S. japonicum</i>が混在した。高水温期に塩分の低かった有明海や富山湾では<i>S. costatum</i>が,塩分30以上の女川湾や噴火湾では順に<i>S. grevillei</i>と<i>S. pseudocostatum</i>が出現した。</p>
著者
山田 真知子 大坪 繭子 多田 邦尚 中野 義勝 松原 賢 飯田 直樹 遠藤 宜成 門谷 茂
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
pp.16-00040, (Released:2016-12-22)
参考文献数
36
被引用文献数
6

我が国5海域における珪藻Skeletonema属の種組成を,遺伝子解析(LSU rDNA D1-D3)と微細形態の特徴から種を同定し,明らかにした。亜熱帯域の沖縄海域ではS. grevillei,温帯域の有明海,富山湾,女川湾および亜寒帯域の噴火湾ではS. dohrniiが優占し,S. japonicumが混在した。高水温期に塩分の低かった有明海や富山湾ではS. costatumが,塩分30以上の女川湾や噴火湾では順にS. grevilleiとS. pseudocostatumが出現した。
著者
堤 裕昭 門谷 茂
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.59, no.8, pp.1343-1347, 1993-08-25 (Released:2008-02-29)
参考文献数
16
被引用文献数
23 23

We have attempted to promote the decomposition of organic matter deposited on the marine bottom below fish net pen culture by the biological activities of a deposit feeding capitellid polychaete, Capitella sp. 1. The organically enriched sediment was reproduced in the tub in the laboratory by the addition of moist pellets for fish culture on the sediment. We compared the chemical characteristics of the sediments between the experiments with and without Capitella. In these experiments, the Capitella colonies increased rapidly, and the biological activities such as feeding, reworking etc. efficiently decomposed the organic matter added on the sediment. The levels of organic matter of the sediment with Capitella fluctuated stably around the initial level throughout the period of the experiments for 60 days, while the levels in the experiments without Capitella gradually increased. The promotion of organic decomposition of the sediment in the experiments with Capitella also prevented the development of reduced conditions in the sediment. If we can re-establish a dense Capitella population on the bottom below the fish net pen quickly in the environmental recovery process from autumn to winter by releasing artificially cultured colonies of the worms, the potential of organic decomposition on the bottom will be significantly enhanced.
著者
堤 裕昭 門谷 茂 高橋 徹 小森田 智大
出版者
熊本県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

有明海奥部では、近年、中央部および東側の海域で海底堆積物表層の泥分の増加および赤潮プランクトン由来の有機物の堆積による有機物含量の増加が起きていた。これらの事実は、同海域における潮流の減・および海水の鉛直混合力の減少を示し、梅雨期や秋雨期に河川水の一時的な流入量の増加に対して、形成される塩分成層の強度が強まることを示唆している。海域への栄養塩流入量が増加しなくても、成層強度の強化による赤潮の頻発、海底における汚泥堆積、夏季における貧酸素水発生が起きるメカニズムが解明された。
著者
堤 裕昭 篠原 亮太 古賀 実 門谷 茂
出版者
熊本県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

2005年4月〜2007年12月に、有明海中央部〜奥部海域を縦断する方向に設定した9〜12調査地点において、冬季を除き毎月1〜2回水質調査を行うとともに、最奥部の4調査地点では海底環境および底生生物群集の定量調査を行った。この3年間で共通に見られた現象として、梅雨明け後の7月末〜8月上旬の小潮時に奥部海域の広範囲にわたって海域で貧酸素水が発生したことが挙げられる。2006年8月5日には、この海域の水面下5〜6m付近で無酸素層が観測され、海底直上でも1mg/Lを下回った場所が多かった。貧酸素水発生原因は、海底への有機物負荷の増大によって基質の有機物含量が増加したことと、酷暑のために表層水温が30℃を超え、梅雨期に増殖した珪藻類がその熱で死滅し、その死骸が水中に懸濁している間に分解されて酸素消費に拍車をかけたことが推測された。沿岸閉鎖性海域における貧酸素水発生の原因に関する従来からの理解は、赤潮発生に伴う海底への有機物負荷量の増大にあったが、近年の地球温暖化による夏季の水温上昇が、さらに深刻な貧酸素水が発生する事態を招く原因となりつつあることがわかった。毎年夏季における貧酸素水の発生によって、奥部海域の底生生物群集は、夏季に密度および湿重量が著しく減少し、冬季に一時的に回復する季節的なサイクルを繰り返している。しかしながら、年々、冬季の回復が鈍り、スピオ科の小型多毛類およびシズクガイ、チヨノハナガイなどの環境変動に適応性の高い小型の二枚貝類しか生息できない状況となっている。この底生生物群集の著しい衰退が、同海域における底生生物に依存した食物連鎖を崩壊しつつある。このまま夏季の貧酸素水発生が続けば、有明海では、もっとも底生生物が豊かに生息する奥部海域の浅海部より海底生態系が著しく衰退し、それが有明海全体の生態系の衰退をもたらして、近い将来、生物の乏しい海域が形成される可能性が指摘される。
著者
堤 裕昭 木村 千寿子 永田 紗矢香 佃 政則 山口 一岩 高橋 徹 木村 成延 立花 正生 小松 利光 門谷 茂
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.165-189, 2006-03-05
被引用文献数
6

有明海では,近年,秋季から初冬に大規模な赤潮が発生し,ノリ養殖漁業に大被害をおよぼしている。水産庁九州漁業調整事務所がまとめた過去の赤潮記録を用いた解析によって,冷却期(10月〜12月)に有明海で発生した赤潮は,1998年以降規模が急に大型化したことが判明した。しかし,赤潮の大規模化を招くような陸域からの栄養塩流入量の増加は,有明海奥部に注ぐ一級河川からの栄養塩負荷量や有明海沿岸での公共用水域水質測定の過去のデータには見られない。本研究では,2002年4月〜2003年4月に,有明海で全域にわたる精密な隔月水質調査を行なった。奥部では7月および10月〜12月において,流入した河川水が表層の塩分を低下させて成層化し,その表層で栄養塩濃度が急上昇して,大規模な赤潮が発生していた。2002年4月〜5月の諫早湾潮受け堤防の開門操作期間には,島原半島側に顕著な湾口流出流が観測された。本研究の調査結果は,1997年の潮受け堤防締めきりが有明海奥部の河口循環流を変化させ,塩分の低下した表層水を湾外へ流出し難くして,1998年以降,毎年冷却期に奥部で大規模な赤潮を起こしてきたことを示している。