著者
木林 和彦 中尾 賢一朗
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

穿通性頭部外傷では脳内に異物が残留することがあり、残留した異物は脳障害の原因となることが考えられる。鉛球を脳内に一定期間留置したモデル動物を作製し、脳の経時的な変化を組織学的・生化学的に解析した。ラットに全身麻酔を施し、大脳内に鉛球または硝子球1個を挿入した。12時間~4週間後に脳を摘出し、パラフィン切片を作製し、免疫染色とアポトーシス細胞の検出を行った。また、大脳皮質のグルタミン酸受容体遺伝子発現を解析した。その結果、脳組織にはNeuN陽性神経細胞の減少、炎症細胞の出現、アポトーシス細胞の出現、メタロチオネイン陽性星状膠細胞の増加等が観察された。また、鉛球留置で遺伝子の発現量が抑えられた。従って、脳内の鉛球は脳を障害することが判明した。
著者
木林 和彦
出版者
熊本大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

1)脳皮質挫傷による神経細胞死の機序(特に、アポトーシスの関与について):脳皮質挫傷7症例、脳皮質挫傷と類似の組織所見を呈する脳梗塞6症例及び正常対照5症例について約2週間ホルマリン固定した脳の肉眼検査を行い、損傷(病変)部位2個と定常部位13個の組織標本を作成して髄鞘染色と軸索染色を行った。神経細胞の虚血性変化は受傷後約6時間から始まり、軸索の腫張は12時間前後で起こり、境界明瞭な髄鞘の崩壊は約1日で形成されることを明らかにした。また、in situ end labeling法によるアポトーシスの検出と免疫組織化学法によるアポトーシス抑制因子bel-2の検出を行ったところ、皮質挫傷と梗塞の周辺部に神経細胞のアポトーシスと星状膠細胞のbel-2発現が観察された。今後検討を重ねて、皮質挫傷による神経細胞死の機序にはアポトーシスが関与し、星状膠細胞がbel-2を発現して神経細胞のアポトーシスを抑制していることを証明する。2)脳皮質挫傷に伴う深部白質損傷:瀰漫性軸索損傷の自験17症例の受傷機転と神経病理を検索した。瀰漫性軸索損傷の多くは頭部顔面への前後方向叉は上下方向の外力で生じ、受傷後生存期間と脳組織標本の関係から受傷後早期に脳橋内側毛帯に軸索腫張が出現することが判明した。以上の結果は法医解剖例の受傷機転の解析と瀰漫性軸索損傷の診断に役立っている。現在、脳皮質挫傷7症例について、脳の深部白質における軸索変性を抗ニューロフィラメント抗体を用いた免疫組織化学法によって検索しており、脳皮質挫傷には"intermediate coup contusion"と言われる深部白質損傷が高頻度に合併することを証明し、また瀰漫性軸索損傷との移動を明らかにする。
著者
木林 和彦
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では熱中症における脳神経障害に着目し,熱中症の脳内病態を形態学と分子生物学の両方の観点から捉え,熱中症患者の救命に寄与することを目的とする.また,熱中症に特異的な形態学的・生化学的変化を明らかし,法医鑑定の実務への貢献も目的としている.飲酒酌酊は熱中症の一要因であるので,本研究では,熱中症の形態的変化を捉えるために,熱中症とアルコール投与を組み合わせた実験系を検討した.マウスを熱中症マウス,エタノールを腹腔内投与(2g/kg)した熱中症マウス,エタノールを腹腔内投与したマウス及び食塩水を腹腔内投与したマウスの4群に分け,各群5匹とした.熱中症マウスとエタノールを腹腔内投与した熱中症マウスを全身麻酔し,40℃のインキュベータ中に45分間置いて直腸温を42℃とし,続けて37℃のインキュベータ中に15分間置いて直腸温を40℃以上とした.各群のマウスについて,血圧,直腸温度,血液ガス分圧,血液電解質及び血糖を経時的に測定した.各群のマウスを全身麻酔し,リン酸緩衝化パラホルムアルデヒドで灌流固定した.脳組織について多種類の一次抗体を用いたホールマウント免疫組織化学,通常の免疫組織化学,TUNEL法によるアポトーシスの検出を行って脳内細胞の変化の有無を調べた.熱中症マウスは,直腸温が40.6±0.2℃であり,代謝性アシドーシスと呼吸性アルカローシスとなった.エタノール投与した熱中症マウスは,直腸温が41.2±0.2℃であり,代謝性アシドーシスと呼吸不全となった.熱中症マウスは,脳の扁桃体中心核に神経細胞の活性化を示すc-fos陽性神経細胞が増加した.エタノール投与した熱中症マウスは,扁桃体中心核のc-fos陽性神経細胞がさらに増加した.本研究により,熱中症では脳の扁桃体中心核が活性化されることが判明した.また,エタノールは熱中症による扁桃体中心核の活性化を増強することも判った.扁桃体中心核には発熱を促進する役割があり,その活性化は熱中症における高体温と致死の機序に関与していると考えられた.扁桃体中心核の活性化は熱中症の剖検診断での指標となる可能性が示唆された.