著者
田中 寛大 松尾 理代 久須美 房子 月田 和人 末長 敏彦
出版者
公益財団法人 天理よろづ相談所 医学研究所
雑誌
天理医学紀要 (ISSN:13441817)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.88-96, 2017-12-25 (Released:2017-12-25)
参考文献数
29
被引用文献数
1

背景: 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis; ALS)患者の呼吸困難緩和に対して非侵襲的陽圧換気や 気管切開下陽圧換気が有効であるが,モルヒネが必要になることもある.ALSの苦痛緩和に対して以前からモルヒネが推奨されているが,客観的データの報告は乏しい.本研究の目的はALS患者の呼吸困難緩和におけるモルヒネの有用性を検討することである.方法: 呼吸困難緩和のためにモルヒネを導入したALS患者連続10名を後方視的に調査した.モルヒネの導入と 使用にあたっては,神経内科医師・看護師と,多専門職種から成る疼痛等緩和ケア対策チームが協働して対応し, 十分なインフォームドコンセントを行なった.呼吸困難緩和は,ALS Functional Rating Scale-Revised の呼吸困難サブスケールの上昇が1ポイント以上と定義した.モルヒネの有害事象を調査した.結果: 年齢中央値74.5歳(54–79歳),罹病期間中央値647日(113–1308日),Palliative Performance Scale 中央値40(10–50),体重中央値49.0 kg(35.0–55.4 kg)であった.全例で導入時製剤は塩酸モルヒネであり,内服での用量中央値は10 mg/日(6–20 mg/日),1 回量中央値は2.5 mg(2–5 mg)であった.持続皮下注射での初日用量中央値は4.8 mg/日(2.4–12 mg/日)であった.呼吸困難緩和は9名(90%)で得られた.1日最大用量中央値は内服で21.5 mg(8–35 mg),持続皮下注射で4.75 mg(2.4–24 mg)であった.有害事象としての呼吸抑制,嘔気,傾眠はなかった.便秘を全例で認めたが薬物治療で対応可能であった.せん妄を3名で認めた.結論: モルヒネはALSの呼吸困難緩和に有用と考えられるが,多専門職種での対応と十分なインフォームドコン セントが重要である.
著者
和田 裕子 末長 敏彦 橋本 修治
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.147-151, 2003-02-01

要旨 ジアゼパムやクロナゼパム治療に抵抗性のgeneralized spasmによるのけ反り発作に対して,ヒト免疫グロブリン(IVIG)静注療法が奏効した抗GAD抗体陽性のstiff-person症候群の男性例を報告した。本例は58歳時に右下肢と腰背部の筋硬直で発症し,ジアゼパム6mg内服で軽快していた。63歳時に再び,両下肢と腰部の筋硬直,のけ反り発作,左下肢に限局したpainful spasmが出現した。ジアゼパム18mg/日とクロナゼパム2.0mg/日の内服でpainful spasmは消失し,筋硬直も軽度改善したが,のけ反り発作に対しては無効であった。IVIG療法開始3日目にはのけ反り発作は消失し,つづいて筋硬直も改善し,10日目には階段昇降が可能になった。本例のように難治性ののけ反り発作を有する例に対してもIVIG療法は有用であると考えた。
著者
田中 寛大 橋本 修治 原田 譲 景山 卓 末長 敏彦
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.8, pp.492-498, 2018 (Released:2018-08-31)
参考文献数
15

左頭頂側頭葉梗塞の既往がある69歳女性.急性発症の右上下肢疼痛と運動麻痺,右同名半盲を訴え来院した.発作時脳波で左半球後半部に持続性のてんかん性異常波を認めた.発作時MRIで左中心後回の拡散制限を,99mTc-ECD SPECTで左頭頂葉の過灌流を認めた.以上より,右上下肢疼痛は焦点性てんかんの発作症状であり,疼痛は左一次体性感覚野に由来すると考えた.運動麻痺については一次運動野自体の異常興奮による機能障害の関与を考え,同名半盲にも同様の機序を想定した.本例は,感覚症状を伴う運動麻痺が急性に出現した時,stroke mimicとして,てんかん発作を考慮すべきことを示している.