著者
本田 一文
出版者
日本プロテオーム学会
雑誌
日本プロテオーム学会誌 (ISSN:24322776)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.37-46, 2022 (Released:2023-01-14)
参考文献数
24

膵がんは難治がんである.手術可能な膵がんやそのリスク集団を囲い込みができる血液バイオマーカーを開発できれば,効率的な膵がん検診法の開発につながり,死亡率を減少できる可能性がある.膵がん患者とそのリスク集団,類縁良性疾患,健常者の血液中の循環ペプチドを網羅的にスクリーニングし,膵がんならびにそのリスク集団でapolipoprotein-A2二量体のC末端アミノ酸が特殊な切断を受けることを発見した(apolipoprotein-A2 isoforms; apoA2-i).同知見を臨床応用するために,apoA2-iの切断状態を定量分析するenzyme-linked immuno-sorbent assay(ELISA)検査系を構築し,その臨床開発を進めている.体外診断用医薬品(in vitro diagnostics; IVD)新規測定項目の薬事承認取得には,臨床性能試験が必要であり,独立行政法人医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency, PMDA)とプロトコル相談を経て臨床性能試験を実施する.がん早期発見に資するバイオマーカーを社会実装するために「がん早期発見迅速検証プラットフォーム(Platform of Evaluation for Biomarker of Cancer Early Detection, P-EBED)」を構築し,バイオマーカーシーズの臨床性能検証やIVD申請支援を開始した.本稿では,上記について概説する.
著者
本田 一文
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.134-143, 2020 (Released:2020-12-22)
参考文献数
54

後発転移を予防する目的に補助化学療法が実施されるが,そもそも原発巣が完全に切除されているのであれば,後発転移の有無は腫瘍が持つ個性である転移活性に依存する可能性が高い。すなわち,原発巣の腫瘍個性が分子生物学的にプロファイルできれば,最適な補助化学療法に対する戦略を提供できる可能性がある。 われわれは,高転移性の乳がん,大腸がん,卵巣がん,膵がん,肺がん,唾液腺がん,舌がんで遺伝子増幅するアクチン束状化分子ACTN4の単離を行った。ACTN4タンパク質の高発現は,がん転移に関与する細胞突起の形成を誘導する。カナダで実施された非小細胞肺がんの補助化学療法に対するランダム化比較試験のトランスクリプトームのサブグループ解析では,ACTN4の高発現グループでのみで補助化学療法の上乗せ効果が確認できた。ACTN4の遺伝子増幅を検出するFISHプローブを開発し,I期肺腺がんの転移活性を予測し,適切な補助化学療法に資するバイオマーカーの臨床開発を開始した。 遺伝子増幅により後発転移を予測できるのは,非小細胞肺がんだけではない。口腔がんについても後発転移ハイリスク集団を同定することで,適切な治療戦略を提示できる可能性はある。本バイオマーカーの臨床的意義について紹介する。