- 著者
-
本田 一文
- 出版者
- 一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
- 雑誌
- 日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
- 巻号頁・発行日
- vol.32, no.4, pp.134-143, 2020 (Released:2020-12-22)
- 参考文献数
- 54
後発転移を予防する目的に補助化学療法が実施されるが,そもそも原発巣が完全に切除されているのであれば,後発転移の有無は腫瘍が持つ個性である転移活性に依存する可能性が高い。すなわち,原発巣の腫瘍個性が分子生物学的にプロファイルできれば,最適な補助化学療法に対する戦略を提供できる可能性がある。
われわれは,高転移性の乳がん,大腸がん,卵巣がん,膵がん,肺がん,唾液腺がん,舌がんで遺伝子増幅するアクチン束状化分子ACTN4の単離を行った。ACTN4タンパク質の高発現は,がん転移に関与する細胞突起の形成を誘導する。カナダで実施された非小細胞肺がんの補助化学療法に対するランダム化比較試験のトランスクリプトームのサブグループ解析では,ACTN4の高発現グループでのみで補助化学療法の上乗せ効果が確認できた。ACTN4の遺伝子増幅を検出するFISHプローブを開発し,I期肺腺がんの転移活性を予測し,適切な補助化学療法に資するバイオマーカーの臨床開発を開始した。
遺伝子増幅により後発転移を予測できるのは,非小細胞肺がんだけではない。口腔がんについても後発転移ハイリスク集団を同定することで,適切な治療戦略を提示できる可能性はある。本バイオマーカーの臨床的意義について紹介する。