著者
長尾 徹
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.94-102, 2017-09-15 (Released:2017-09-27)
参考文献数
35
被引用文献数
2 2

口腔咽頭がんの罹患率は,世界全体では全がんの6番目に位置している。いまだに進行がんが多く,その生存率は全がんの平均より低い。口腔がんの早期診断,予防策としての口腔がん検診の科学的根拠はいまだ明らかになっていない。2016年ニューヨークでWHOの共催の下に,Global Oral Cancer Forumと題する口腔がんの早期発見,予防に関する世界会議が開催された。その中で口腔がん検診が重要課題として取り上げられた。口腔がん検診の有効性は,口腔潜在性悪性病変のがん化を予測するsurrogate marker,視覚的検査の補助診断の開発が鍵となる。歯科診療所におけるハイリスク(喫煙)グループの個別型口腔がん検診は増分費用効果比の算出から費用対効果は高いと評価されている。一方で,喫煙習慣を有する集団をいかに定期的に歯科診療所の検診の場に勧奨するか,個別検診をどこでどのように実施するか今後の研究を検討する必要がある。
著者
仲盛 健治 砂川 元 平塚 博義 新崎 章 新垣 敬一 狩野 岳史 Kuang Hai
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.49-55, 2004-06-01 (Released:2010-05-31)
参考文献数
18
被引用文献数
5 2

carboplatin (CBDCA) の選択的動脈内投与・放射線同時併用療法を行った口腔扁平上皮癌43例の副作用発現様式について検討した。CBDCAの投与量はAUC4.5としてCaivertの計算式により算出した。放射線療法は高エネルギーX線を2Gy/day x5/weekまたは1.5Gyx2/day x5/weekの外照射とし総線量は30Gyとした。対象症例は口腔扁平上皮癌43例で男性33例, 女性10例, 年齢は30歳から86歳にわたり平均63.3歳であった。CBDCA総投与量は最低260mgから最高740mgであった。口内炎対策には各種含嗽剤を組み合わせて適用し, 29例にはアンサー20注を併用した。主な副作用として血液毒性, 皮膚炎, 口内炎が見られた。口内炎は全例に認められ, Grade3以上の障害は6例, 治療中断症例は1例であった。
著者
伏見 千宙 多田 雄一郎 増淵 達夫 松木 崇 菅野 千敬 岡田 拓郎 佐々木 剛史 丹羽 一友 町田 智正 三浦 弘規 後藤 俊行 黒坂 正生 鎌田 信悦 小高 利絵 矢郷 香
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.232-236, 2016-12-15 (Released:2016-12-29)
参考文献数
13
被引用文献数
1

当科にて救済手術を施行した口腔扁平上皮癌深部再発症例27例の検討を行った。救済手術後の1年生存率は75%,2年生存率は61%であった。無病生存期間は中央値10.9か月(2.6か月~61.3か月)であった。予後不良因子は術後病理断端陽性・近接および,原発巣亜部位が舌・口腔底・頰粘膜であった。原発巣再々発部位は,後方および副咽頭間隙が88%を占めており,後方の安全域の設定,副咽頭間隙郭清も考慮すべきと考えられた。
著者
宮崎 晃亘 小林 淳一 山本 崇 道振 義貴 佐々木 敬則 仲盛 健治 廣橋 良彦 鳥越 俊彦 佐藤 昇志 平塚 博義
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.117-122, 2011-12-15 (Released:2012-01-24)
参考文献数
7

Survivinはinhibitor of apoptosis protein(IAP)ファミリーに属する分子で,各種悪性腫瘍において強い発現を認めるが,成人正常臓器ではほとんど発現を認めない。われわれはサバイビンが理想的がん抗原であり,survivin由来のHLA-A24拘束性survivin-2B80-88(AYACNTSTL)がcytotoxic T lymphocyte(CTL)応答を誘導することを以前に報告した。この研究結果をもとに,2003年9月に進行・再発口腔がん患者に対してsurvivin-2Bペプチドを用いた臨床試験を開始し,安全性と抗腫瘍効果を評価した。survivin-2Bペプチドは14日間隔で計6回接種した。その結果,口腔がん患者に対するペプチド単剤投与の安全性が確認されるとともに,その有効性が示唆された。さらに,2006年9月にsurvivin-2Bペプチドに不完全フロイントアジュバント(IFA)とinterferon(IFN)-αを併用した臨床試験を開始した。survivin-2BペプチドとIFAの混合液を14日間隔で計4回接種し,IFN-αは週2回あるいは1回皮下投与した。現在のところ,重篤な有害事象は出現していない。IFAとIFN-αを併用した臨床試験では,単剤投与と比較してペプチド特異的CTLを効率良く誘導し,安全性も容認されることが示唆された。本療法は口腔がん患者に対する新たな治療法の一つとして有用と考えられた。
著者
小村 健 原田 浩之 生田 稔 島本 裕彰 富岡 寛文 釘本 琢磨
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.132-139, 2014-12-15 (Released:2015-01-09)
参考文献数
10
被引用文献数
1

今日,口腔の進行再発癌に対して最も高い根治性を希求しうる治療としては,唯一,手術療法と考えられる。しかし進行再発癌であるがゆえに切除範囲や手術侵襲も大きくなり,術後の機能面や整容面での障害も大きくなる。また可能なら術後に放射線療法や化学療法などの補助療法が考慮されるが,その予後は悪い。原発巣再発癌の手術適応については,rT1-4aと一部のrT4b(咀嚼筋間隙浸潤や翼状突起浸潤例は適応あり,頭蓋底浸潤例や内頸動脈包含例は適応なし)と考えてきた。進行原発巣再発(rT3,rT4)例で救済手術を施行しえた症例の治療結果は,他院初回治療例では13例中9例が無病生存し,当科初回治療例では9例中5例が無病生存中であった。進行局所再発癌の手術においては拡大手術が必要となり,それに伴い再建手術が必須となる。一次治療において手術が行われている症例では,再建皮弁や吻合血管にも制約が加わることがあり,術前には十分なICとともに,周到な治療計画の立案と,術後には支持療法を含めより慎重な管理が必要と考えられる。
著者
鵜澤 成一 鈴木 美保 中久木 康一 道 泰之 山城 正司 原田 清
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.151-159, 2013-12-15 (Released:2014-01-30)
参考文献数
12
被引用文献数
5 1

前腕皮弁は薄くしなやかな皮弁であり,長い血管柄を有するため頭頸部再建に多用されている皮弁の1つである。当科では,1987年から頭頸部領域の欠損に対し,遊離皮弁を用いた再建手術を行っている。2012年9月までにおいて395例に対し,401皮弁の移植手術を行ってきた。皮弁の内訳は,前腕皮弁193例,腹直筋皮弁155例,肩甲骨複合皮弁42例,腓骨皮弁8例,前外側大腿皮弁2例,広背筋皮弁1例であり,前腕皮弁が最も多く用いられていた。前腕皮弁を用いた再建手術の適応としては,おおむね半側までの舌口底欠損,頰粘膜,中咽頭欠損などであり,さまざまな頭頸部領域の欠損に用いることが可能であった。前腕皮弁移植における生着率は99%(191例/193例)であったが,口腔内の創部哆開などの合併症は39例(20.1%)に生じており,また,皮弁採取部の合併症は27例(13.9%)に生じていた。今回の概説では,当科における前腕皮弁の採取法,適応,再建時の工夫などについて概説し,さらに,今後の課題について述べてゆく。
著者
辺見 卓男 町田 智正 武田 宗矩 北詰 栄里 猪俣 徹 石垣 佳希 荘司 洋文 添野 雄一 出雲 俊之 柳下 寿郎
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.63-70, 2020 (Released:2020-09-22)
参考文献数
27

口腔扁平上皮癌の予後判断に用いられる病理組織学的因子の一つに,浸潤様式分類がある。本邦では口腔癌取扱い規約に収載されているYK分類や,腺癌の予後指標として知られるINF,近年,口腔扁平上皮癌への適応が報告された簇出などがある。一方,AJCC 第8版では,予後に関連する因子としてWPOI-5が新規収載された。本報告ではpT1/T2舌扁平上皮癌を対象として,これら4つの浸潤様式分類に基づく判定結果を比較し,予後指標としての有用性について検討した。4つの浸潤様式分類に基づき3名の口腔病理専門医が独立して判定した。YK-4C,INF c,簇出5個以上,WPOI-5陽性と判定された各群では,その他の判定群と比較し高率に頸部リンパ節転移を生じ,生存率の低下を示した。従って,これら4つの判定は予後不良のリスク因子であると考えられた。一方,YK-4C群,INF c群,簇出5個以上群,WPOI-5陽性群の4群の予後を比較すると頸部リンパ節転移率,生存率に統計学的有意差はみられず,YK分類,INF,簇出,WPOI-5の予後指標としての有用性はほぼ同等であると考えられた。4つの浸潤様式分類における相互関係を検討すると,YK分類,INF,簇出には一定の相関関係が認められ,これら3つの浸潤様式分類とWPOI-5は独立していることが示唆された。同一症例に4つの浸潤様式分類を併用判定すると,YK-4C,INF c,簇出5個以上,WPOI-5陽性の判定が重複する症例が大部分であった。以上よりpT1/T2舌扁平上皮癌に対する予後判断では,浸潤様式分類は複数を併用することが望ましく,実際に併用する場合にはWPOI-5と他の3つの浸潤様式分類のいずれかを組み合わせる方法が有効と考えられた。
著者
出雲 俊之 柳下 寿郎 八木原 一博
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.64-76, 2012 (Released:2012-11-01)
参考文献数
31
被引用文献数
9 6

粘膜癌において,予後を左右する最も大きな因子はリンパ節転移だが,予後やリンパ節転移に相関する原発巣の因子としては,深達度と浸潤様式が重要である。口腔癌取扱い規約の臨床型分類には発育様式分類が用いられているが,これは従来からあった臨床視診型分類を基盤として,「分けることができて,分けることに意味のある分類」とのコンセプトのもとに,普遍性・再現性のある表在型・外向型・内向型の3型に再編したものである。現在この臨床発育様式分類については,内向型の中に特に予後不良な一群があり,肉眼像,組織像,病態などを踏まえた1病型としうるか否かが検討されている。この仕事は学術委員会WG1において進めていく予定であるので,ここでは次世代の臨床型分類として,浸潤様式を反映した新分類について解説する。私は,臨床型分類は浸潤様式を反映した分類にversion upされるべきであると考えている。外科病理学的仕事の進んだ消化管癌では,シルエット分類が臨床型分類として用いられているが,これは粘膜面の形態と浸潤様式を組み合わせた分類である。口腔扁平上皮癌で悪性度分類として使われている浸潤様式分類(YK分類)は,実はこのシルエット分類に相当し,次代の臨床型分類となりうるものと考えられる。肉眼所見や画像所見は目で見るものではなく,外科病理学的な知識を織り込んで読むものであり,臨床型分類とは,口腔癌に対する全ての知見の集大成としてあるべきものであろう。
著者
長谷川 和樹
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.69-77, 2014-09-15 (Released:2014-10-01)
参考文献数
13
被引用文献数
4 2

下顎骨の切除は咀嚼のみならず審美性,嚥下,構音など多くの機能に障害を生じることとなる。そのため下顎骨欠損の硬性再建を行うことは患者さんのQOLを回復するための非常に有効な手段となる。現在下顎骨の再建には腸骨,腓骨,肩甲骨など様々な部位の血管柄付骨皮弁が用いられている。しかしどの骨皮弁もそれぞれ長所,短所があり,必ずしも一つの皮弁にてすべての症例に適応できうるものではない。肩甲骨皮弁は口腔顎顔面外科領域の硬組織再建に広く用いられている骨皮弁の一つである。その栄養血管である肩甲下動静脈は二つの枝(胸背動脈,肩甲回旋動脈)に分かれ,さらに胸背動脈はAngular branchや前鋸筋枝を分岐する。そのためこの血管系は肩甲回旋動脈による肩甲骨弁,Angular branchによる肩甲骨弁,両者の血管柄を持つ肩甲骨弁,広背筋皮弁など様々な皮弁を栄養することができ,さらにこれらの皮弁を組み合わせた複合皮弁としても用いることができる。今回は当科にて行っている肩甲骨皮弁を用いた下顎再建につき,オトガイ部を含めた区域切除後の再建術式を中心として解説,さらに解剖,本皮弁の特徴,適応なども含め検討し紹介する。
著者
古川 浩平 鳴瀬 智史 津田 翔真 片瀬 直樹 柳本 惣市 梅田 正博
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.57-63, 2022 (Released:2022-03-22)
参考文献数
29

ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)はランゲルハンス細胞がモノクローナル性に異常増殖する稀な疾患である。今回われわれは,開口障害を伴ったLCHの1例を経験したため報告する。 患者は8歳女児で開口障害を主訴に来院した。造影CTおよびMRIで左側頭骨および頰骨に骨破壊を伴う腫瘍性病変を認め,FDG-PET/CTで左側側頭部および複数の頸部リンパ節にFDGの集積を認めた。全身麻酔下に側頭部腫瘍の生検を施行し,LCHの病理組織学的診断を得て,画像検査と併せLCH(多臓器型)と診断した。診断後より多剤併用化学療法を54週間施行し,完全寛解の効果判定を得た。化学療法終了後3年経過し,再発なく経過良好である。
著者
中村 守厳 松尾 勝久 喜久田 翔伍 篠﨑 勝美 轟 圭太 関 直子 楠川 仁悟
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.187-193, 2021 (Released:2021-12-22)
参考文献数
26

肺の癌性リンパ管症は,リンパ管に癌細胞が浸潤して多発性の塞栓をきたした状態で,臨床的に極めて予後不良である。肺の癌性リンパ管症の原発巣は乳癌・胃癌・肺癌が多い。口腔扁平上皮癌の遠隔転移や生命予後には,頸部リンパ節転移の転移個数,節外浸潤,Level Ⅳ・Ⅴへの転移が関与すると報告されている。今回われわれは,舌癌の多発性頸部リンパ節転移治療後に肺の癌性リンパ管症を発症した1例を経験したので,その概要を報告する。症例は72歳,男性。舌扁平上皮癌(T2N0M0)に対して舌部分切除術が施行された後,4か月で多発性の頸部リンパ節転移が発症した。舌扁平上皮癌(rT0N3bM0)の診断にて,全身麻酔下に根治的全頸部郭清術を施行した。病理組織検査では,郭清組織内に47個の転移リンパ節を認め,術後補助療法として同時化学放射線療法を施行した。治療終了後6日目,喀痰増加や呼吸苦の症状を訴えられ,胸部CTにて両側肺野に小葉間隔壁肥厚,胸水と縦隔リンパ節の腫大を認めた。胸水穿刺細胞診と胸部CTの結果より,肺の癌性リンパ管症と診断した。呼吸器症状が生じてから16日後に,呼吸不全の進行にて永眠された。肺の癌性リンパ管症は,リンパ管に癌細胞が浸潤して多発性の塞栓をきたした状態で,臨床的に極めて予後不良である。肺の癌性リンパ管症の原発巣は乳癌・胃癌・肺癌が多い。口腔扁平上皮癌の遠隔転移や生命予後には,頸部リンパ節転移の転移個数,節外浸潤,Level Ⅳ・Ⅴへの転移が関与すると報告されている。今回われわれは,舌癌の多発性頸部リンパ節転移治療後に肺の癌性リンパ管症を発症した1例を経験したので,その概要を報告する。症例は72歳,男性。舌扁平上皮癌(T2N0M0)に対して舌部分切除術が施行された後,4か月で多発性の頸部リンパ節転移が発症した。舌扁平上皮癌(rT0N3bM0)の診断にて,全身麻酔下に根治的全頸部郭清術を施行した。病理組織検査では,郭清組織内に47個の転移リンパ節を認め,術後補助療法として同時化学放射線療法を施行した。治療終了後6日目,喀痰増加や呼吸苦の症状を訴えられ,胸部CTにて両側肺野に小葉間隔壁肥厚,胸水と縦隔リンパ節の腫大を認めた。胸水穿刺細胞診と胸部CTの結果より,肺の癌性リンパ管症と診断した。呼吸器症状が生じてから16日後に,呼吸不全の進行にて永眠された。
著者
仲宗根 敏幸 又吉 亮 宮本 昇 後藤 新平 平野 惣大 牧志 祥子 中村 博幸
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.151-158, 2021

神経節細胞腫(GN)は,交感神経系または副交感神経系の神経節から発生すると考えられているまれな良性神経腫瘍である。3歳の時,副腎と右眼窩周囲骨に腫瘍を認め,神経芽腫(NB)Stage Ⅳと診断された。化学療法後,腫瘍を切除し,副腎の神経節芽腫(GNB)と眼窩周囲骨のGNの病理組織学的診断を得た。腫瘍は初発から21年後に頭蓋内硬膜で再発し,生検組織からGNと診断された。顎骨内のGNは,24年後に左側下顎,27年後に右側下顎で明らかとなり,切除された。病理組織学的には,腫瘍は成熟した神経節細胞で構成されていた。さらに,免疫組織化学で腫瘍細胞は,vimentin, S-100,neurofilament,Anti-Glia Fibrillary Acidic Protein (GFAP)およびsynaptophysinに対して陽性であり,α-Smooth muscle actin(α-SMA)およびCytokeratin AE1/AE3に対して陰性であった。Ki-67 labeling index (LI)は1%であった。最終診断としてGNであった。本症例は,一連の臨床経過から副腎腫瘍であったNBが両側下顎骨に転移し,長期経過をたどってGNとして発生した非常にまれな症例である。
著者
箕輪 和行 岡田 和樹
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.256-263, 2016-12-15 (Released:2016-12-29)
参考文献数
7
被引用文献数
3

エナメル上皮腫は一般的に顎骨内に発生するため,視診,触診による評価は難しく,画像診断の役割は大きい。エナメル上皮腫の診療ガイドラインにおいてエナメル上皮腫の診断に有用な画像検査は,検討の結果,口内法エックス線撮影,パノラマエックス線撮影,CTおよびMRIの全てとなったが,各診断モダリティーの特性を活かした診断を行うことが重要となる。エナメル上皮腫との鑑別が画像上,特に必要な疾患は,頻度を考慮し,角化囊胞性歯原性腫瘍,含歯性囊胞,歯根囊胞となった。エナメル上皮腫の画像所見と予後に関する報告は少ないが,単房性のエナメル上皮腫に比べ多房性のエナメル上皮腫の再発率が高いとの報告がみられ,また,良性エナメル上皮腫から悪性転化が存在する場合は予後不良であった。転移性(悪性)エナメル上皮腫は,臨床的に転移を呈するが,良性のエナメル上皮腫と同様の画像所見を示した。エナメル上皮癌は,境界不明瞭,骨破壊および周囲組織への浸潤など悪性を示唆する画像所見を呈した。
著者
林 信 上田 倫弘 山下 徹郎 矢島 和宜
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.160-165, 2013
被引用文献数
1

前外側大腿皮弁(Anterolateral Thigh Flap:ALT)は穿通枝皮弁で,比較的薄くしなやかで口腔再建術に適した皮弁である。組織量は前腕皮弁と腹直筋皮弁のほぼ中間であり,ALTの選択肢を持つことにより患者の体格,欠損量に適合した的確な再建が可能となる。皮弁採取創は一期的縫縮が可能で,比較的露出されない部位であるため,整容的にも認容される。穿通枝皮弁であるため皮弁挙上には技術を要するが,血管のバリエーションを含めた解剖の熟知,3D-CTAやカラードップラーなどの術前検査,拡大視による挙上,などにより安全・確実な挙上は可能である。口腔再建に際し選択肢の1つとして備えておく必要のある皮弁であると考える。
著者
本田 一文
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.134-143, 2020 (Released:2020-12-22)
参考文献数
54

後発転移を予防する目的に補助化学療法が実施されるが,そもそも原発巣が完全に切除されているのであれば,後発転移の有無は腫瘍が持つ個性である転移活性に依存する可能性が高い。すなわち,原発巣の腫瘍個性が分子生物学的にプロファイルできれば,最適な補助化学療法に対する戦略を提供できる可能性がある。 われわれは,高転移性の乳がん,大腸がん,卵巣がん,膵がん,肺がん,唾液腺がん,舌がんで遺伝子増幅するアクチン束状化分子ACTN4の単離を行った。ACTN4タンパク質の高発現は,がん転移に関与する細胞突起の形成を誘導する。カナダで実施された非小細胞肺がんの補助化学療法に対するランダム化比較試験のトランスクリプトームのサブグループ解析では,ACTN4の高発現グループでのみで補助化学療法の上乗せ効果が確認できた。ACTN4の遺伝子増幅を検出するFISHプローブを開発し,I期肺腺がんの転移活性を予測し,適切な補助化学療法に資するバイオマーカーの臨床開発を開始した。 遺伝子増幅により後発転移を予測できるのは,非小細胞肺がんだけではない。口腔がんについても後発転移ハイリスク集団を同定することで,適切な治療戦略を提示できる可能性はある。本バイオマーカーの臨床的意義について紹介する。
著者
中山 英二 大内 知之 賀来 亨 柴田 考典 有末 眞 永易 裕樹 安彦 善裕 上野 繭美 河津 俊幸 吉浦 一紀 浅香 雄一郎 上田 倫弘 山下 徹郎 仲盛 健治 平塚 博義 針谷 靖史 関口 隆
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.59-68, 2011-09-15 (Released:2011-10-20)
参考文献数
6
被引用文献数
5 4

唾液腺腫瘍は病理組織像が多彩であり,また,一つの腫瘍型の中にも多様な組織成分が混在するので,唾液腺腫瘍の病理組織学的診断は難しいことがある。それゆえ,唾液腺腫瘍において,良性と悪性の画像鑑別診断もまた困難なことがある。境界が画像上でほとんど明瞭のようであっても,実際は微妙に不明瞭である唾液腺腫瘍は悪性腫瘍のことがある。そこで,唾液腺腫瘍の画像診断においては,画像上の境界の明瞭度は非常に重要で,境界の明瞭度の注意深い判定は必須である。境界の明瞭度はCTではなく,超音波検査とMRIで判定されるべきである。さらに,CTとMRIでは,可能であれば,DICOMビューワー上で最適な画像表示状態で観察されるべきである。大唾液腺腫瘍について:耳下腺腫瘍では良性腫瘍が70%以上であり,顎下腺腫瘍では40%が悪性で,舌下腺腫瘍では80%が悪性である。この事実は唾液腺腫瘍の画像診断をする上で重要である。境界が必ずしも明瞭とはいえない耳下腺腫瘍は悪性を疑う。画像所見が舌下腺から発生したことを示す病変は悪性腫瘍と診断されるべきである。小唾液腺腫瘍について:腫瘍が小さい場合はたとえ悪性でも境界が明瞭なことがしばしばである。そこで,病変の境界が明瞭である画像所見は,その病変が良性である証拠とはならない。口蓋部の悪性唾液腺腫瘍では,画像所見として検出できない微妙な骨浸潤があることに特に注意を払う必要がある。口唇と頬部の唾液腺腫瘍には超音波検査が最も有用である。顎骨内に粘表皮癌が発生することについても注意したい。
著者
高橋 浩二
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.245-254, 2009-12-15 (Released:2012-03-27)
参考文献数
28
被引用文献数
1 2

昭和大学歯学部口腔リハビリテーション科は摂食・嚥下障害,言語障害,呼吸障害(閉塞性睡眠時無呼吸症候群)に対応する診療科として平成16年に開設された。当科の平成19年度の外来初診患者459(576)名のうち摂食・嚥下障害を主訴とした患者数は233(238)名で,このうち頭頸部腫瘍術後患者は59(66)名であった。(カッコ内は平成20年度)当科では開設以来,外来診療のみならず摂食・嚥下障害に対する入院加療を行っており,今回のシンポジウムでは経口摂取不能あるいは困難と他院で診断され,当科で入院加療を行った頭頸部癌術後嚥下障害5症例を紹介するとともに摂食・嚥下リハビリテーションにおける当科での取り組みについて述べた。本項では頭頸部癌治療後の摂食・嚥下障害の特徴とその対応も合わせて報告した。
著者
佐藤 祐介 太田 嘉英 倉林 宏考 佐々木 剛史 伊澤 和三 山崎 浩史
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.149-155, 2010-12-15 (Released:2011-10-20)
参考文献数
29

今回われわれは,頸動脈間隙の高位に発生した頸部迷走神経鞘腫の1例を報告する。症例は,71歳,女性。咽頭部違和感を主訴として来院した。口腔内所見として,左口蓋咽頭弓に約50×60mm大,無痛性腫瘤を認めた。腫瘤は,CTおよびMRにて左頸動脈間隙を占拠していた。また,腫瘤は総頸動脈および内頸静脈を解離させ,頭蓋底まで及んでいた。われわれは,subcutaneous mandibulotomy approachを用いて切除し得た。病理組織学的診断は,神経鞘腫であった。術後,嚥下障害および嗄声を認めたが,リハビリテーションを行い,経口摂取可能な状態まで改善した。術後,約2年経過した現在,再発は認めていない。
著者
内田 堅一郎 河井 由衣 上山 吉哉
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.135-140, 2017-09-15 (Released:2017-09-27)
参考文献数
8

重度肥満患者の気道管理はしばしば困難を伴う。気管切開を行う際には肥厚した脂肪組織が気管へのアプローチを困難にするとともに,頸部の屈曲や進展を行う際に気管カニューレが気管孔から脱離する危険性がある。重度肥満を合併した進行下顎歯肉癌症例の周術期に,脂肪切除術を併用した気管切開術を施行し気道管理を行った1例を報告する。患者は43歳の男性である。近医歯科で診断された下顎歯肉癌の治療を目的として受診した。身長171cm,体重108kg,BMI:36.8と重度肥満を合併していた。CT像では,皮膚表面と気管の距離は第2気管軟骨輪レベルで約5cmであった。諸検査の後,左側下顎歯肉癌(T4aN2bM0)と診断した。気管切開術,左側下顎区域切除術,全頸部郭清術変法およびチタン製プレートと前外側大腿皮弁を用いた再建術を施行した。手術時に,横切開とカニューレの脱落を予防するための脂肪組織切除を併用した中気管切開術を施行した。術後は,挿入長を適合させるために調節可能な気管カニューレを使用した。術後15日目に,経過良好につき気管切開を併用した気道管理を終了した。
著者
遠藤 有美 小松 賢一 福井 朗 小林 恒 中山 勝憲 中野 靖子 木村 博人
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.313-318, 1996-12-15 (Released:2010-05-31)
参考文献数
25
被引用文献数
3 1

他臓器の悪性腫瘍が顎・口腔領域に転移することは比較的まれである。顎骨への転移性腫瘍の原発臓器は, 乳房, 肺, 副腎の順に多く, 口腔領域に初発症状を呈する転移性肝細胞癌はきわめてまれである。今回, 著者らは, 下唇の知覚麻痺を初発症状とする下顎骨への転移性肝細胞癌の一例を経験したので臨床経過ならびに文献的考察を報告する。患者は59歳, 男性で, 歯科, 麻酔科, 耳鼻科, 神経内科を経て, 当科を紹介された。X線所見で4に近接する骨に, びまん性の骨吸収像を認めた。下顎骨より採取した生検標本の病理組織学的所見で下顎骨の転移性肝細胞癌の診断を得た。肝癌が口腔領域に転移した場合の初発症状として, 腫脹, 出血が多いとされていたが, 1957年から1996年における下顎骨に転移した肝細胞癌の報告では27症例中5症例に, 三叉神経の知覚麻痺を認めた。さらに50歳代の男性に多く, 発生部位としては下顎骨体部と下顎枝に多いことが明らかとなった。