著者
藤田 卓 高山 浩司 朱宮 丈晴 加藤 英寿
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.49-62, 2008-03
被引用文献数
1

2007年6月の南硫黄島調査において採集された約700点の維管束植物標本を固定した結果、現時点までに96種(未同定種も含む)が確認された。南硫黄島において初めて確認された植物は、ミズスギ、オオハナワラビ属の1種、コケシノブ科の1種、ホングウシダ、ナチシケシダ、シンクリノイガ、イネ科の1種、テンツキ属の1種、コクランの9種であった。過去に発表された植物リスト(大場、1983)と、今回の調査によって確認された種を合わせると、本島には、シダ植物44種、双子葉植物59種、単子葉植物26種、合計129種が記録された。これらの中には18種の絶滅危惧種(準絶滅危惧も含む)とともに数種の外来植物も含まれ、特に25年前には全く確認されなかったシンクリノイガが島内に広く生育していることが確認された。これらの外来植物は鳥や風・海流などを介して運ばれた可能性が高いことから、今後も周辺の島から新たな植物が侵入することが懸念される。
著者
加藤 英寿 堀越 和夫 朱宮 丈晴 天野 和明 宗像 充 加藤 朗子 苅部 治紀 中野 秀人 可知 直毅
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.1-29, 2008-03
被引用文献数
1

2007年6月、東京都環境局と首都大学東京は南硫黄島自然環境調査を実施した。南硫黄島で山頂部を含む上陸調査が行われたのは1982年以来25年ぶり、史上3回目である。その厳しく危険な自然環境故に、調査時の安全確保が最大の課題となったが、現地情報がほとんど無い中での計画立案はほとんど手探りの状態で、準備も困難を極めた。また貴重な手つかずの自然を守るため、調査隊が南硫黄島に外来生物を持ち込まない、そして南硫黄島の生物を持ち出して父島などに放さないための対策にも細心の注意を払った。幸いにして今回の調査では事故もなく、数多くの学術成果を得て帰ってくることができたが、調査隊が経験した困難・危険は、通常の調査では考えられないことばかりであった。よって今後の調査の参考となるように、今回の調査を改めて振り返り、準備段階から調査実施までの過程について、反省点も含めてできる限り詳細に記録した。
著者
朱宮 丈晴 高山 浩二 藤田 卓 加藤 英寿
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.63-87, 2008-03

南硫黄島における垂直分布に沿った温度・湿度と上壌環境といった環境要因、群落組成と構造の変化および相互の対応関係を解析した。調査期間中(2007年6月19日〜25日)の気温の平均値から逓減率を求めたところ標高500m以上の3つの地点で湿潤断熱減率(0.47℃/100m)を示した。また、5%ごとの湿度の測定値頻度を求め、標高別にみてみると、標高500m以上の3つの地点で95%〜100%の頻度が最も高かった。ただし、山頂部は強風の影響で雲霧の発生が不安定であると考えられ747mと比較して湿度の変動係数が大きかった。12cm (45.8%)、20cm (40.8%)における表層土壌の土壌水分は山頂部で最も高かった。こうした環境に対応して木本層(胸高1.3m以上)、草本層(胸高1.3m未満)、着生層の群落組成と構造を解析した。クラスター分析によって木本層の群落はP1(911m)〜P3(521m)、P4(375m)、P5(59m)という3つのグループに区分され、雲霧林が一つのグループとして区分できた。ただし、P1、P2ではコブガシ、エダウチヘゴが共優占していたが、P3はコブガシだけが優占していた。これは雲霧林内では常緑広葉樹の成長が抑制されためシダ植物が林冠構成種として共存しているのかもしれない。また、着生層の種数は標高が減少するとともに急激に減少した。群落構造は山頂部で最大直径が大きく、最大樹高は減少しており、強風などの影響が考えられた。着生層種数/総種数(0.56〜0.40)、着生層種数/草本層種数(0.88〜0.55)から500m以上の雲霧林では、各着生層種数比が高かった。したがって、林床が暗く、空中湿度高い雲霧林では草本層より着生層の発達が著しいと考えられた。