著者
櫻井 博 苅部 治紀 加賀 玲子
出版者
神奈川県立生命の星・地球博物館(旧神奈川県立博物館)
雑誌
神奈川県立博物館研究報告(自然科学) (ISSN:04531906)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.47, pp.67-71, 2018-02-28 (Released:2021-04-30)

近年国内に定着した侵略的外来種ムネアカハラビロカマキリHierodula sp. の導入経路は、これまで明らかにされていなかったが、筆者らは、今回本種のものと考えられる卵鞘を、市販の竹箒から確認し、それが正常に孵化すること、その形態・色彩が既知の本種幼虫のものと合致することを明らかにした。竹帚が導入経路の主要なものであれば、本種が通常の外来種の拡散パターンと異なり、同時多発的に各所で確認されたことの合理的な説明ができる。
著者
苅部 治紀 森 英章 加賀 玲子
出版者
東京都立大学小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.44, pp.23-41, 2021-06-30

アニジマイナゴは、2011年に小笠原諸島固有属種として記載された種で、父島列島兄島のみから知られている。この種は一般的なイナゴ類と異なり、樹木であるシマイスノキのみを採餌する。本報告では、筆者らの調査でこれまでに明らかになった野生下での生態、生活環について記述する。本種は日中タコノキの葉鞘に潜み、周囲の食樹シマイスノキの間を往来し、タコノキをねぐらのように利用している可能性がある。このような行動は夜間に見られ、夜行性であること、幼虫の孵化と成長の追跡状況から年1化であることが明らかになった。一方、近年のグリーンアノールの兄島における増加で、同種の個体密度が増加した地域では姿を消している。
著者
荒谷 邦雄 細谷 忠嗣 楠見 淳子 苅部 治紀
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

近年、日本でも国外外来種に対する規制や防除がようやく本格化したが、国内外来種への対応は大きく遅れている。 移入先に容易に定着し地域固有の個体群とも交雑が生じる上に交雑個体の識別が極めて困難な国内外来種はまさに「見えない脅威」であり、その対策は急務である。そこで本研究では、意図的に導入されたペット昆虫を対象に、形態測定学や分子遺伝学的な手法を利用して、国内外来種の実態把握や生態リスク評価、交雑個体の検出、在来個体群の進化的重要単位の認識などを実施し、国内外来種の「見えない脅威」の可視化とそのリスク管理を試み、在来の多様性保全のための効率的かつ効果的なペット昆虫問題の拡大防止策の提言を目指した。
著者
加藤 英寿 堀越 和夫 朱宮 丈晴 天野 和明 宗像 充 加藤 朗子 苅部 治紀 中野 秀人 可知 直毅
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.1-29, 2008-03
被引用文献数
1

2007年6月、東京都環境局と首都大学東京は南硫黄島自然環境調査を実施した。南硫黄島で山頂部を含む上陸調査が行われたのは1982年以来25年ぶり、史上3回目である。その厳しく危険な自然環境故に、調査時の安全確保が最大の課題となったが、現地情報がほとんど無い中での計画立案はほとんど手探りの状態で、準備も困難を極めた。また貴重な手つかずの自然を守るため、調査隊が南硫黄島に外来生物を持ち込まない、そして南硫黄島の生物を持ち出して父島などに放さないための対策にも細心の注意を払った。幸いにして今回の調査では事故もなく、数多くの学術成果を得て帰ってくることができたが、調査隊が経験した困難・危険は、通常の調査では考えられないことばかりであった。よって今後の調査の参考となるように、今回の調査を改めて振り返り、準備段階から調査実施までの過程について、反省点も含めてできる限り詳細に記録した。
著者
苅部 治紀 加賀 玲子
出版者
神奈川県立生命の星・地球博物館(旧神奈川県立博物館)
雑誌
神奈川県立博物館研究報告(自然科学) (ISSN:04531906)
巻号頁・発行日
vol.2021, no.50, pp.137-141, 2021 (Released:2021-03-30)

キバネツノトンボは、良好な草地に生息するアミメカゲロウ目の大型の昆虫で、各地で激減している種である。神奈川県内では過去に 12 地点から記録があるが、近年の記録がごくわずかしかないことから、神奈川県レッドデータ生物調査報告書 2006 では絶滅危惧I類に選定されている。筆者らは 2017 年に本種を確認以降、県内各所で本種の現状について集中的に調査を行ってきた。その結果、県北部の相模原市緑区旧藤野町地域を中心に 20 か所で確認することができた。一方、類似の環境があっても確認できない地域がほとんどであり、その分布は局限されていた。本県における本種の現存環境は人為的な草刈りが継続されている草地で、その環境は多様であるが、産地の安定性は脆弱で、産地数は増えたものの、分布の局所性とともに、絶滅危惧度は依然高いものと判断された。
著者
森 英章 岸本 年郎 寺田 剛 永野 裕 苅部 治紀 川上 和人
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 = Ogasawara research (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.46, pp.95-108, 2020-03

2019年9月、西之島において、初めて専門家による陸上節足動物の上陸調査が行われた。2013年より度重なる火山活動によってほぼすべての地域が溶岩に覆われた一方、一部草地が残された。定量調査と定性調査を並行して実施し、旧島部に残存する節足動物を確認するとともに、新たに形成された大地への進出状況を明らかにすることとした。4綱15目28科33種の陸上節足動物を確認した。うち21種は同島から初めて確認された。既存の記録を加えるとこれまでに西之島から確認された陸上節足動物は少なくとも44種となる。特に2013年噴火後に新たに形成された植生のない溶岩台地において海鳥の死体下よりトビムシ、ササラダニ等の土壌分解者が発見されたことは一次遷移の過程に関する新たな視座を提示するものである。一方、外来種であるワモンゴキブリが残存していることが確認され、対策の実施が望まれる。トラップを用いた定量調査も行われたことにより今後の継続的なモニタリングの基礎情報となる。
著者
西原 昇吾 苅部 治紀 鷲谷 いづみ
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.143-157, 2006-12-05 (Released:2018-02-09)
参考文献数
91
被引用文献数
6

水田および周辺のため池などの一時的-永続的止水域に生息するゲンゴロウ類は、休耕田の乾燥化、ため池の管理放棄、大規模開発、採集圧や侵略的外来種の侵入などの様々な要因が重なり、現在では危機的な生息状況にある。全国各都道府県から刊行された最新のRDBを比較検討したところ、スジゲンゴロウは8府県、コガタノゲンゴロウは6府県、シャープゲンゴロウモドキは4都府県、ゲンゴロウは2県で絶滅種として掲載されていた。神奈川県では、さらにツブゲンゴロウなど4種類の小型種もRDB掲載種であった。比較的情報の多いシャープゲンゴロウモドキについて現地調査および文献収集によって現状把握を試みたところ、戦前に知られていた生息地はすべて消失していることが判明した。1984年の千葉県での再発見以降、生息地の発見が各地で相次いだが、その後、それらの生息地は急速に失われ(全国6割減)、石川県以外で生息が認められた県においても、各県に残されている生息地はそれぞれ数ヶ所以下であることも明らかになった。比較的多くの生息地が残されている石川県においても、休耕田の乾燥化、ため池の管理放棄、大規模開発、採集庄や侵略的外来種の侵入などによって一層の減少が危倶される状況であった。一方、保全条例の制定や休耕田の湛水化など、保全に向けた取り組みも進展し始めている。本稿では、ゲンゴロウ類と共存するための農村整備のあり方についても考察した。
著者
森 英章 岸本 年郎 寺田 剛 永野 裕 苅部 治紀 川上 和人
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 = Ogasawara research (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.46, pp.95-108, 2020-03

2019年9月、西之島において、初めて専門家による陸上節足動物の上陸調査が行われた。2013年より度重なる火山活動によってほぼすべての地域が溶岩に覆われた一方、一部草地が残された。定量調査と定性調査を並行して実施し、旧島部に残存する節足動物を確認するとともに、新たに形成された大地への進出状況を明らかにすることとした。4綱15目28科33種の陸上節足動物を確認した。うち21種は同島から初めて確認された。既存の記録を加えるとこれまでに西之島から確認された陸上節足動物は少なくとも44種となる。特に2013年噴火後に新たに形成された植生のない溶岩台地において海鳥の死体下よりトビムシ、ササラダニ等の土壌分解者が発見されたことは一次遷移の過程に関する新たな視座を提示するものである。一方、外来種であるワモンゴキブリが残存していることが確認され、対策の実施が望まれる。トラップを用いた定量調査も行われたことにより今後の継続的なモニタリングの基礎情報となる。
著者
苅部 治紀 松本 浩一
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.135-143, 2008-03

南硫黄島において、25年ぶりの昆虫相調査を実施した。今回は調査日程も5日間と短かったこともあり、各種トラップを併用し、効率的な調査を心がけた。その結果、現在までに同定されたものだけで67種の昆虫が確認され、このうちの22種は島新記録であった。また、島固有とされるミナミイオウヒメカタゾウムシ(固有属種)、ミナミイオウトラカミキリ(固有亜種)は、健在であったが、前者は前回調査で報告されたものと比較して、きわめて少数の確認にとどまった。島の昆虫相については、まだまだ解明度は低く、長期的な環境モニタリングのためにも、今後の調査の充実が望まれるとともに、生態面の調査も進めていくべきであろう。