著者
杉山 高志 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2202, (Released:2022-11-12)
参考文献数
36

本稿は,高知県黒潮町で展開された防災活動に対して参与観察を行い,Days-Afterの視座から分析を試みたものである。Days-Afterとは,まだ起こっていない災害現象を,もう起こったこととして捉える姿勢・語り方のことであり,災害の発生を確率として捉えるのではなく,将来必ず起こるものとして捉えて語る視点のことである。この視点は,災害の発生が不可避だととらえるものであり,時として災害に対する諦めを引き起こしかねない視点である。しかし,本稿では,逆説的ではあるが,災害の発生を確実なものとして捉えるDays-Afterの視点が,黒潮町の住民を防災に対する前向きな態度に変容させていたことを明らかにした。具体的には,黒潮町の会所地区における防災活動と,黒潮町の住民が作成した津波についての絵画を対象に分析を行った。その結果,南海トラフ地震が将来的に不可避であることを学習する過程で,巨大な津波想定に対する葛藤は生じていたものの,防災活動を通じて住民は自らの生活を振り返り日常生活の価値を再発見し,発災後にも生き残った未来を想起していたことがわかった。
著者
杉山 高志 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.si4-6, (Released:2018-06-26)
参考文献数
11
被引用文献数
8

本研究では,東日本大震災の発生以降,日本社会が直面する最大の防災課題として位置づけられた津波からの避難行動を研究対象として,以下のことを示した。まず,避難訓練を支援するために開発したスマートフォンアプリ「逃げトレ」について紹介した。次に,「逃げトレ」が,避難行動の分析・改善の鍵を握る人間系(避難行動)と自然系(津波挙動)との相互関係を,実際に避難する当事者に対して可視化するためのインタラクション表現ツールであることを示した。その上で,「逃げトレ」の効果性,とりわけ,これまでの避難対策や手法―たとえば,ハザードマップや従来型の集団一斉訓練など―に対する優位性を,「コミットメント」(特定のシナリオを絶対視し,そこに没入する傾向性)と「コンティンジェンシー」(それを相対視し,そこから離脱する傾向性)を鍵概念として明らかにした。最後に,人間科学と自然科学の性質のちがいにも言及しながら,「逃げトレ」が担保する「コミットメント」と「コンティンジェンシー」の相乗作用は,「想定外」に対する対応原理としても重要であることを指摘した。
著者
杉山 高志 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.49-63, 2023 (Released:2023-04-27)
参考文献数
36

本稿は,高知県黒潮町で展開された防災活動に対して参与観察を行い,Days-Afterの視座から分析を試みたものである。Days-Afterとは,まだ起こっていない災害現象を,もう起こったこととして捉える姿勢・語り方のことであり,災害の発生を確率として捉えるのではなく,将来必ず起こるものとして捉えて語る視点のことである。この視点は,災害の発生が不可避だととらえるものであり,時として災害に対する諦めを引き起こしかねない視点である。しかし,本稿では,逆説的ではあるが,災害の発生を確実なものとして捉えるDays-Afterの視点が,黒潮町の住民を防災に対する前向きな態度に変容させていたことを明らかにした。具体的には,黒潮町の会所地区における防災活動と,黒潮町の住民が作成した津波についての絵画を対象に分析を行った。その結果,南海トラフ地震が将来的に不可避であることを学習する過程で,巨大な津波想定に対する葛藤は生じていたものの,防災活動を通じて住民は自らの生活を振り返り日常生活の価値を再発見し,発災後にも生き残った未来を想起していたことがわかった。
著者
杉山 高志 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.135-146, 2019 (Released:2019-03-26)
参考文献数
11
被引用文献数
6 8

本研究では,東日本大震災の発生以降,日本社会が直面する最大の防災課題として位置づけられた津波からの避難行動を研究対象として,以下のことを示した。まず,避難訓練を支援するために開発したスマートフォンアプリ「逃げトレ」について紹介した。次に,「逃げトレ」が,避難行動の分析・改善の鍵を握る人間系(避難行動)と自然系(津波挙動)との相互関係を,実際に避難する当事者に対して可視化するためのインタラクション表現ツールであることを示した。その上で,「逃げトレ」の効果性,とりわけ,これまでの避難対策や手法―たとえば,ハザードマップや従来型の集団一斉訓練など―に対する優位性を,「コミットメント」(特定のシナリオを絶対視し,そこに没入する傾向性)と「コンティンジェンシー」(それを相対視し,そこから離脱する傾向性)を鍵概念として明らかにした。最後に,人間科学と自然科学の性質のちがいにも言及しながら,「逃げトレ」が担保する「コミットメント」と「コンティンジェンシー」の相乗作用は,「想定外」に対する対応原理としても重要であることを指摘した。