著者
杉本 修一
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.343-357, 1989-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
50

妊娠母体の貧血が,口唇,口唇裂発生に及ぼす影響について検討するために,口唇,口蓋裂自然発生疾患モデルマウスであるA/J系,CL/Fr系マウスに遺伝性貧血モデルマウスであるC57BL6/J-Wv/+系マウスの貧血遺伝子を導入してA/J-Wv/+/AG,CL/Fr-Wv/+/AG2系統のコンジェニックマウス系統を開発してその血液性状,吸収胚数,死亡胎仔数,口唇,口蓋裂発現率を追及し,以下の結果を得た。1.新開発疾患モデルマウスの妊娠前の血液性状は,貧血遺伝子供給源であるC57BL6/J-Wv/+系マウスと類似し,貧血を示していた。また本疾患発生に最も影響すると考えられる妊娠10日の血液性状も,貧血遺伝子供給源であるC57BL6/J-Wv/+系マウスと類似し,貧血を示していた。2.新開発疾患モデルマウスの生存胎仔数,吸収胚数,死亡胎仔数は,おのおの源系統であるAIJ系,CL/Fr系マウスとの比較において有意な差を認めなかった。3.A/J-Wv+/AG系マウスは源系統のA/J系マウスと同様に口唇裂単独は皆無であったが,片側性口唇・口蓋裂と口蓋裂は有意差をもって発現率が上昇した。CL/Fr-Wv/+/AG系マウスは源系統のCL/Fr系マウスに比し口唇裂単独の発現率に有意差を認めなかったが,口唇・口蓋裂の合計と口蓋裂は有意差をもって発現率が上昇した。4.以上より,母獣の貧血は口唇裂単独の発現率に関連を認めないが,口蓋裂の発現率を上昇させることが示唆された。