著者
片岡 竜太
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.204-216, 1988-12-26 (Released:2013-02-19)
参考文献数
49
被引用文献数
3

臨床応用可能な開鼻声の定量的評価法を確立するために,口蓋裂あるいは先天性鼻咽腔閉鎖不全症による開鼻声患者18例と健常人17例の発声した母音/i/について声道伝達特性を観察するためにケプストラム分析を行い,得られたスペクトルエンベロープに1/3オクターブ分析を加え,開鼻声の周波数特性を求めた.次に20人の聴取者による開鼻声の聴覚心理実験を行い,得られた主観評価量と声道伝達特性を表わす物理量の関連を検討したところ次の結果が得られた.1)開鼻声のスペクトルエンベロープの特徴は健常音声のスペクトルエンベロープと比較して第1,第2フォルマント間のレベルの上昇と,第2,第3フォルマントを含む帯域のレベルの低下であった.2)開鼻声の聴覚心理実験を行い得られた5段階評価値を因子分析したところ,開鼻声を表現する2次元心理空間上に2つの因子が存在し,第1因子は全聴取者に共通した聴覚心理上の因子であり,第2因子は聴取者間の個人差を表わす因子であると考えられた.そのうち第1因子を主観評価量とした.3)開鼻声の主観評価量と1/3オクターブ分析から得られた物理量の相関を検討したところ,第1フォルマントの含まれる帯域から2/3-4/3オクターブ帯域の平均レベル(物理評価量L1)および第1フォルマントの含まれる帯域から9/3-11/3オクターブの帯域の平均レベル(物理評価量L2)と主観評価量に高い相関が認められた.
著者
山下 夕香里 道 健一 今井 智子 鈴木 規子 吉田 広
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.204-216, 1983-12-24 (Released:2013-02-19)
参考文献数
37

いわゆる粘膜下口蓋裂を含めた先天性鼻咽腔閉鎖不全症(Congenital Velopharyngeal Incompetence以下CVPI)のなかには,著しい開鼻声を伴う構音障害,心奇型などの合併奇型に加えて精神発達の遅れを伴う症例が多いとされているが詳細な報告はほとんどみられない.そこでわれわれはCVPIの診断基準を定義した上で,鼻咽腔形態・機能および顔貌に関する客観的な計測結果が明らかとなっているCVPI15例,対照群として唇顎口蓋裂症例18例(Cleft Lip and Palate以下CLP)を対象症例とし,4才2ヶ月-13才2ヶ月時に,WPPSIまたは,WISC-R,ITPA言語学習能力診断検査,Frostig視知覚発達検査(DTVP)を行い,鼻咽腔形態による分類型、Calnanの3徴候,特徴的顔貌所見別に精神発達について比較検討を行った.その結果,顔貌所見別では特徴的顔貌群はその他の群およびCLP群に比べ1%水準で有意に低い値を示した.鼻咽腔形態による分類型別では軟口蓋の長さと咽頭腔の深さとの関係が不均衡なII型群が低い値を示し,Calnanの3徴候別では無徴候,1徴候群が低い値を示した.以上の結果より特徴的顔貌所見を有する症例とその他の症例との間には精神発達に著しい相違がみられ,さらに鼻咽腔形態、Calnanの3徴候と精神発達との関連性も示唆された.われわれは従来より鼻咽腔形態,顔面形態の客観的分折によりCVPIの中の1つのカテゴリーとしての特徴的顔貌の存在を証明し報告してきたが,今回はさらにこれらの特徴的顔貌を呈する症例において精神発達の遅れが認められ疾患としての独立性が0層明らかとされた.これらのことよりわれわれは先天性鼻咽腔閉鎖不全,特徴的顔貌,精神発達の遅れなどの所見がみられる症例を新しい症候群として一括して扱うことを提唱したい.
著者
杉本 修一
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.343-357, 1989-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
50

妊娠母体の貧血が,口唇,口唇裂発生に及ぼす影響について検討するために,口唇,口蓋裂自然発生疾患モデルマウスであるA/J系,CL/Fr系マウスに遺伝性貧血モデルマウスであるC57BL6/J-Wv/+系マウスの貧血遺伝子を導入してA/J-Wv/+/AG,CL/Fr-Wv/+/AG2系統のコンジェニックマウス系統を開発してその血液性状,吸収胚数,死亡胎仔数,口唇,口蓋裂発現率を追及し,以下の結果を得た。1.新開発疾患モデルマウスの妊娠前の血液性状は,貧血遺伝子供給源であるC57BL6/J-Wv/+系マウスと類似し,貧血を示していた。また本疾患発生に最も影響すると考えられる妊娠10日の血液性状も,貧血遺伝子供給源であるC57BL6/J-Wv/+系マウスと類似し,貧血を示していた。2.新開発疾患モデルマウスの生存胎仔数,吸収胚数,死亡胎仔数は,おのおの源系統であるAIJ系,CL/Fr系マウスとの比較において有意な差を認めなかった。3.A/J-Wv+/AG系マウスは源系統のA/J系マウスと同様に口唇裂単独は皆無であったが,片側性口唇・口蓋裂と口蓋裂は有意差をもって発現率が上昇した。CL/Fr-Wv/+/AG系マウスは源系統のCL/Fr系マウスに比し口唇裂単独の発現率に有意差を認めなかったが,口唇・口蓋裂の合計と口蓋裂は有意差をもって発現率が上昇した。4.以上より,母獣の貧血は口唇裂単独の発現率に関連を認めないが,口蓋裂の発現率を上昇させることが示唆された。
著者
高田 訓 根本 隆一 滝沢 知由 沼崎 浩之 大野 朝也
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.35-41, 1996-01-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
20

これまで高齢者の未手術口蓋裂の鼻咽腔閉鎖機能を検索した報告は少なく,更に無歯顎者の鼻咽腔閉鎖不全症患者に発音補整装置を装着し治療を行った報告は殆どない.今回我々は,78歳の女性で無歯顎の口蓋裂未手術例に対し,スピーチエイドに類似した全部床義歯を装着し,装着前後の鼻咽腔閉鎖機能について検索した.その結果,1)Blowingでは呼気流量で約50%,呼気流出時間で約25%,最大呼気流量速度(PF)では約63%増加した.2)ファイバースコープ所見では,子音の一部で鼻咽腔閉鎖が認められるようになった.3)語音発語明瞭度は29.0%から58.0%に改善し,患者の十分な満足を得ることができた.
著者
宮崎 正 小浜 源郁 手島 貞一 大橋 靖 高橋 庄二郎 道 健一 待田 順治 河合 幹 筒井 英夫 下里 常弘 田代 英雄 田縁 昭 西尾 順太郎
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.191-195, 1985-12-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
1

昭和56年-57年の口唇裂口蓋裂の発生率について全国15都道府県の1009産科医療機関を対象に調査を行い,以下の結果を得た.1.調査施設における全出産数(死産も含む)は384,230名で,そのうち口唇裂口蓋裂児は701名で発生率は0.182%であった.2.各裂型ごとの発生率は口唇裂0.052%,口唇口蓋裂0.086%,口蓋裂0.037%であった.3.調査地域を東日本と西日本に区分し,地域別発生率を比較すると,西日本の方がやや高率に本症が発生する傾向が見られた.
著者
高戸 毅 朴 修三 北野 市子 加藤 光剛 古森 孝英 須佐美 隆史 宮本 学
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.57-65, 1994-04-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
47

現在,口蓋裂は手術法の進歩,言語管理の徹底により,その多くが鼻咽腔閉鎖機能を獲得し,正常な構音発達を遂げている.初回手術のみで鼻咽腔閉鎖機能を獲得するものは90%前後とする報告が本邦では多い.残りの数%は,初回手術後も十分な鼻咽腔閉鎖機能が獲得できず,その多くは二次手術が必要となる.その際われわれは,鼻咽腔閉鎖機能改善を目的として,咽頭弁手術を行ってきた.鼻咽膣閉鎖機能不全が疑われる症例には,4~5歳に発音時にセファログラムおよび鼻咽腔ファイバースコープ下の鼻咽膣運動の評価を行い,鼻咽腔閉鎖機能不全症を最終的に判定し,咽頭弁手術を施行している.今回われわれは,就学前に咽頭弁手術を施行し,5年以上経過観察を施行した37症例について,術後の合併症および言語成績に関し検討を加えた.その結果,1年後に全例に開鼻声の減少などの改善を認め,日常会話レベルでも鼻咽腔閉鎖機能に問題が無くなったのは,二次手術例で約83%,5年後では約92%と良好な結果を示した.咽頭弁術後も閉鎖機能不全を残した症例で,術式による差は特に認められなかった.むしろ,こうした症例の多くに精神発達遅滞や,心奇形など,他に奇形を伴っていることが特徴的であった.合併症として,鼻閉・口呼吸が術後1年目で7例に,5年目でも4例に認められた.術後,呼吸困難や睡眠時無呼吸症を呈した症例はなかった.また術後5年目までに鼻咽腔閉鎖機能不全を再発した症例はなかった.今回の調査では,重篤な合併症は認められなかったが,扁桃肥大や小顎症などに対しては術前に睡眠時ポリグラフ検査などが必要と考えられる.また術後の顎発育抑制についても,慎重な経過観察が今後とも必要と考えられる.
著者
西原 一秀 後藤 尊広 宮本 昇 佐藤 範幸
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.33-40, 2021

2011年から2019年までの9年間に琉球大学病院歯科口腔外科を受診した口唇裂・口蓋裂一次症例183名について臨床統計学的解析を行った。また,2014年から開始した産科の往診システムの効果を検討し,以下の結果を得た。<br>1.9年間に当科を受診した一次症例は183名であった。<br>2.裂型別患者数では183名中,口唇(顎)裂が82名(44.8%),口唇口蓋裂が59名(32.2%),口蓋裂が42名(23.0%)であった。<br>3.男女比は,男性92名,女性91名で1.01:1とほぼ同数であった。<br>4.初診時年齢は,61名(33.3%)が生後7日未満に受診していた。<br>5.出生時体重は,平均2,978.4gで,3,000g〜3,499gが71名(39.4%)と最も多かった。<br>6.母親の出産時年齢は,平均31.5歳で,30歳から34歳が49名(29.3%)と最も多かった。<br>7.先天異常を合併した患者は,22名(12.0%)に認められた。<br>8.手術総件数は554件で,手術内訳は口唇形成術が130件(22.3%)と最も多かった。<br>9.2014年から開始した往診数は45件で,その活動は患者家族の精神的負担を軽減できた。
著者
石川 保之 田坂 康之 川野 通夫 本庄 巖
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.199-205, 1986-12-26 (Released:2013-02-19)
参考文献数
14

口蓋裂例における鼻副鼻腔疾患の実態を調べるため, 口蓋裂患者101例を対象として, 前鼻鏡, レントゲン撮影(単純, 断層), 鼻腔通気度, 嗅裂内視鏡等の諸検査を行い, さらに, 鼻疾患と中耳の関係をみるために, 耳鏡検査, 標準純音聴力検査, インピーダンスオージオメトリーも行ったところ以下の結果を得た.1)唇顎口蓋裂は鼻中隔蛮曲症, 下甲介肥大を高率に伴う.2)口蓋裂患者は副鼻腔炎を高率に伴い, これは中耳疾患の病因の一つである可能性がある.3)副鼻腔炎の頻度は口蓋裂の裂型や鼻中隔蛮曲の有無とは相関がない.4)口蓋裂に高率に伴う副鼻腔炎, 鼻中隔蛮曲, 下甲介肥大は口蓋裂患者の鼻腔抵抗を高めている.5)口蓋裂患者の嗅覚障害は軽度で, この主因は副鼻腔炎による嗅裂の閉塞にあると思われる.
著者
佐藤 研一 今井 裕 石山 信之 小林 操 金沢 春幸
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.70-76, 1981-07-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
33

今回,われわれは極めて稀れ(本邦で9例)な奇形とされている下顎正中裂および下口唇正中裂の症例を経験したので報告した.患児は生後3ケ月女児,2児中第2子で同胞に異常は認められない.両親に血縁関係はなく,家系中にも異常を認めない.母親は妊娠2ケ月頃,転倒により腰部を打撲したことを除き,妊娠経過は順調であった.全身的には栄養発育状態は良好で,他部合併奇形などの異常を認めない.局所的には下口唇が正中で縦裂し,さらにその破裂下端部より願部にいたる腫瘤が認められたという(但し出産病院で腫瘤は切除) .下顎骨も正中離開し,そのため左右の下顎は個別に可動性を有していた.また,舌尖は下顎離開部を越え,その前方に附着し固定されていた.X線的には下顎骨正中離開を示すも,歯胚数の異常や舌骨の欠損は認められなかった.両親ならびに患児の染色体数は正常で,生後4ケ月目にZ-plastyによる下口唇形成術および舌小帯伸展術を施行した.術後経過は良好で現在に至っている.下顎裂に対する処置は,今後充分な観察の下に,下顎の発育を待ったうえ行う予定であり,併せてその論拠にっいての考察を附して報告した.
著者
高橋 庄二郎
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.49-61, 1990-07-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
80

口唇裂'口蓋裂は世界のすべての民族にみられる,最も頻度の高い顎顔面の先天奇形であり,日本人は理由は明らかでないが,口唇裂・口蓋裂の発生頻度の最も高い民族である.口唇裂・口蓋裂の発生機序と発生原因に関する最近の考え方が述べられた.口唇裂'口蓋裂の成因は異質性であり,そのため発生機序も複雑である.一般に,一次口蓋の破裂である口唇裂は内側鼻突起と外側鼻突起の下方端における癒合不全によって,二次口蓋の破裂である口蓋裂は口蓋板の接触不全によって生じると考えられている.口唇裂・口蓋裂に関連する症候群を除く通常の口唇裂・口蓋裂は一般に多因子しきいモデルで説明されている.日本人における口唇裂・口唇顎口蓋裂と単独口蓋裂を発端者とする家系調査の結果は多因子遺伝の予言によく一致し,前者の分離比分析の結果は弧発例の84.6%が単純な劣性遺伝様式で説明されえないことを示した.一方,実験動物において口唇裂・口蓋裂を誘発する環境因子が数多く見い出されている.ヒトでは妊娠母体の風疹ウイルス感染とステロイド剤および抗てんかん剤の服用が注目されるべきである.
著者
室伏 道仁 岡藤 範正 倉田 和之 近藤 昭二 杠 俊介 栗原 三郎
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.293-301, 2006-10-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
18

上顎骨の著しい劣成長を伴う両側性口唇口蓋裂二症例において,REDシステムによる上顎骨延長術を施術した際の,上顎骨および上顎骨に対する歯の移動様相を明確にするために検討を行ったので報告する.症例1は手術時年齢11歳6か月の女子.症例2は手術時年齢16歳8か月の女子.両症例とも顎裂部自家腸骨細片移植術を行った.また,症例2は延長終了22日後に下顎後退術を併せて施術した.骨延長術はREDシステムを応用し,延長装置を上顎歯列に固定した後,Le Fort I型骨切り術を施術し,朝夕0.5mmずつ1.Omm/日の割合で延長を行った.上顎骨と歯の移動様相を正確に評価するため,Le Fort I型骨切り術中にインプラントピンを骨切り線上下に計4本埋入し,骨内マーカーとした.術前から延長終了後2年までの側面セファロトレース上で検討を行った.延長終了時,上顎骨の延長量は症例1で前方11.2mm,下方1.3mm,症例2で前方7.5mm,下方2.6mmであった.延長後変化量は,症例1で-1.8mm(-16.0%)認められたが,症例2では,延長術後も+1.Omm(+13.3%)の前方移動が認められた.術中の歯の移動は両症例とも,水平方向より垂直方向への移動が多く認められた.
著者
北野 市子 朴 修三 加藤 光剛
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.1-7, 2009-04-30 (Released:2012-03-07)
参考文献数
11

22q11.2欠失症候群児の鼻咽腔閉鎖機能不全に対する初回手術として,咽頭弁形成術を施行した症例の,術後成績を左右する要因について,鼻咽腔閉鎖機能の改善および発話の改善の2点から検討した。対象および方法:粘膜下口蓋裂9例,先天性鼻咽腔閉鎖機能不全症16例であった。このうち鼻咽腔閉鎖機能(以下VPと略す)改善群は19例,VP非改善群は6例であった。また発話改善群は9例,発話非改善群は16例であった。これらそれぞれ2群間の手術年齢,知能,心疾患の有無,合併症の数,定頸,始歩,始語,術前に鼻孔を閉鎖して破裂音を産生することが可能であったか否か,について検討した。結論:鼻咽腔閉鎖機能の改善群・非改善群には各項目で統計的有意差は見出せなかった。しかし発話の改善については,知能,合併症の数,定頸月齢,術前に鼻孔を閉鎖して破裂音が産生可能であったか否か,などの項目で統計的有意差を認めた。咽頭弁形成術後の予後に,これらの要因が影響している可能性が示唆された。
著者
松村 香織 笹栗 正明 光安 岳志 新井 伸作 前野 亜実 中村 誠司
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日口蓋誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.212-216, 2016

断端神経腫は,末梢神経切断後に神経の中枢側断端に生ずる腫瘤である。口腔領域における報告はオトガイ孔部や下唇が主で,上唇の報告例は1例のみであった。今回,われわれは口唇形成術後に上唇に発生した断端神経腫の1例を経験したのでその概要を報告する。
著者
王 国民 高橋 浩二 和久本 雅彦 道 健一
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.37-55, 1991

声門破裂音音声の音響特性を評価することを目的として健常音声(10名)/ta/,/ka/および/ta/,/ka/の声門破裂音(14名)についてサウンドスペクトロラム(以下SG)およびコンピューターを用いた音声分析システムにより物理評価量を求めた後,言語治療士による聴覚心理実験を行い次の結論を得た。1.SGによる分析では/ta/,/ka/ともに声門破裂音ではVOT(voice onset time)が短い傾向が認められ,声門破裂音のおよそ1/3の音声サンプルにおいてスペクトログラムパターン上で後続母音のフォルマント成分が消えた後に摩擦子音に類似した不規則なfillの出現が認められた。2.コンピューターを用いた音声分析の結果では1)スペクトル包絡上に反映された子音部の周波数特性を数量化したSES(spectral envelope score)による比較では,-5dB以上の値を示した音声サンプルは正常構音/ta/では60%であったのに対し,/ta/,/ka/の声門破裂音,正常構音/ka/では17~37%と少なかった。2)VOTによる比較では,正常構音/ka/では全ての音声サンプルが20msec以上の値(平均44・61nsec)を示したのに対し,正常構音/ta/および/ta/,/ka/の声門破裂音では20msec以上の値を示したのは23~41%のサンフ.ルであり平均17,2~24.8msecであった。3)第2,第3フォルマントの選移量の差であるΔF2-ΔF3による比較では,正常構音/ta/では63%が200Hz以上の値を示したのに対し,/ta/,/ka/の声門破裂音,正常構音/ka/で200Hz以上の値を示したのは13~19%であった。3.声門破裂音音声に特徴的な「しめつけるような」歪みと破裂の明瞭さに着目した0対比較法による聴覚心理実験では,いずれの評価も有意であることが明らかなり,「しめつけるような」歪みの程度とVOTの間で負の相関が認められた。
著者
濱田 良樹 飯野 光喜 近藤 壽郎 石井 宏昭 高田 典彦 佐藤 淳一 中島 敏文 村上 夏帆 清水 一 渡邊 英継 黒田 祐子 中村 百々子 瀬戸 皖一
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.286-291, 2000

1994年~1999年の6年間に,鶴見大学歯学部付属病院第一口腔外科ならびに関連施設で施行された顎裂部骨移植に関して臨床統計的観察を行った。その結果,以下のような結論が得られた。<BR>1)総患者数は86例で,11歳以下の症例が22例25.6%,12~17歳が32例37.2%,18歳以上の成人症例が32例37.2%を占めていた。<BR>2)生着率は97.7%で,早期経過不良の2例はいずれも成人症例であった。成人症例への対応として,骨移植後の感染源となり得る歯と歯周病の管理が重要と考えられた。<BR>3)受診の動機としては,顎裂に関する他科からの紹介が86例中80例93.0%で,そのうち矯正歯科からの紹介が最も多く72.5%であった。一方,当初他疾患を主訴に来院したものが6例あり,いずれも顎裂部骨移植に関する知識は皆無であった。今後,関連各科との連携強化と患者への積極的な情報提供が必要と考えられた。<BR>4)顎裂部骨移植に関連する併用手術としては,顎矯正手術のほか,デンタルインプラントの埋入,口唇外鼻修正術などが,主に成人症例に対して施行されており,成人症例における顎裂部骨移植の臨床的意義が示唆された。
著者
篠原 ひとみ 松原 まなみ 内山 健志
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.12-21, 2011-04-25
被引用文献数
1

口唇裂・口蓋裂治療チームにおける授乳援助の実態および唇顎口蓋裂児の母乳育児に対する考えを明らかにすることを目的に,日本口蓋裂学会に登録されている全国の口唇裂・口蓋裂手術に携わる324の医療機関にアンケート調査を行った。その結果130施設から回答があり以下のような所見が得られた。<br>1.唇顎口蓋裂児の初診時の直接母乳の割合は,1割以下の施設が約50%であり,裂型に関係なく30%の施設は直接母乳の状態が把握できていなかった。<br>2.ほとんどの施設で授乳指導が行われ,約半数の施設は人工乳首の選択方法や専用乳首の使い方などのビン哺乳の指導だけであった。母乳栄養の指導は48%の施設が行っていた。<br>3.授乳困難時に勧めている乳首は72%がP型乳首で最も多く,次いでヌーク口蓋裂乳首39%,チュチュ口蓋裂用乳首34%であった。<br>4.口唇裂手術直後の授乳方法は35%が術前と同じ方法を行い,それ以外は傷の安静目的に細口哺食器,栄養チューブ,スプーンなどを使用していた。<br>5.唇顎口蓋裂児の直接母乳は82%の施設が「状況により可能」と考え,57%の施設が直接母乳の「援助が必要」と考えていた。<br>6.直接母乳に向けた改善策は,「出生直後からの診療チームのアドバイス」64%,「産科スタッフの授乳ケアの熟知」48%であったが,それを実施するための産院との連携システムがある施設は21%であった。また,直接母乳に向けた「口蓋床の改良」が48%であり,「専用乳首の改良」は33%であった。
著者
中山 二博 木佐貫 聡 黒江 和斗 伊藤 学而
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.339-348, 2001-10-30
被引用文献数
13

鹿児島大学歯学部附属病院矯正科は1980年4月に開設され,口唇裂口蓋裂を有する矯正患者についても治療を行ってきた.開設時から2000年3月までの20年間に受診した口唇裂口蓋裂患者の実態と経時変化を調査することを目的として,統計的観察を行い,以下の結果を得た.<BR>1.矯正科を受診した口唇裂口蓋裂の初診患者は624名で,同科の初診患者全体の7.8%を占めていた.ただし初診後に実際に矯正治療を開始した患者でみれば,その18.4%を占めていた.<BR>2.口唇裂口蓋裂の初診患者数には1980年度,1984年,1990年度,1995年度にピークがあったが,全体的には年を追って緩やかな減少傾向を示していた.<BR>3.口唇裂口蓋裂患者の初診時年齢は平均7歳6ケ月であったが,特に4歳児から7歳児までの乳歯咬合期後半と前歯群交代期の者が多かった.<BR>4.口唇裂口蓋裂の初診患者を,ほぼ乳歯咬合期に対応する0~5歳,混合歯列期に対応する6~11歳,永久歯咬合期に対応する12歳以降に区分して年次推移を見ると,最初の8年間は6~11歳の初診患者が多かったが後半の8年間では0~5歳が多くなっていた.<BR>5.口唇裂口蓋裂の初診患者の紹介元は,当院第一および第二口腔外科が8割以上を占めていた.<BR>6.裂型別頻度は,唇裂5.6%,唇顎裂21.4%,唇顎口蓋裂55.8%,口蓋裂17.0%であった.経時的には,唇顎口蓋裂が78.0%から36.1%に減少し,口蓋裂が6.3%から33.7%に増加していた.唇顎裂,唇顎口蓋裂の裂側は,両側20.1%,左側54.4%,右側25.5%であった.<BR>7.唇裂,唇顎口蓋裂では男子が多く,口蓋裂では女子が多かったが,唇顎裂では男女ほぼ同数であった.<BR>8.咬合異常は,反対咬合が68.8%,叢生が12.5%,上顎前突が10.4%であった.ただし,反対咬合は経時的に84.9%から44.6%に減少し,上顎前突は2.5%から16.9%に増加していた.
著者
坪倉 志乃 井藤 一江 岩谷 有子 小澤 奏 横山 智世子 木村 浩司 切通 正智 山内 和夫
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.132-143, 1990
被引用文献数
12

広島大学歯学部附属病院矯正科における口唇口蓋裂者の受診状況や上顎歯槽弓形態・crossbiteの状態を把握するために,昭和43年4月の開設から平成元年3月までの21年間に当科で治療を開始した口唇口蓋裂患者532名(男子288名,女子244名)を対象に統計的調査を行い,以下の結果を得た.<BR>1,当科で治療を開始した口唇口蓋裂患者は年間約30名であった.<BR>2.初診時年齢は6歳から8歳が半数を占めていた.<BR>3,口唇口蓋裂患者は,総患者数の10.7%であった.<BR>4.男女比は男子が僅かに女子より多かった.<BR>5.居住地の地域分布では広島県が77.3%を占め,その半数が広島市であった.<BR>6.紹介元の医療施設は広島大学医・歯学部附属病院が50%を占め,診療科別では大学病院または総合病院の口腔外科と歯科および開業歯科が50%を占めていた.<BR>7,一次形成手術を受けた病院は広島大学医・歯学部附属病院が50%を占め,科別では耳鼻科が45%を占めていた.<BR>8.裂型別頻度は,口唇裂1.1%,唇顎裂15.7%,唇顎口蓋裂70.8%,口蓋裂単独12.1% ,正中裂o.4%であった.<BR>9.裂の発生部位別頻度は,左側が最も多く唇顎裂中の65.1%,唇顎口蓋裂中の49,9%であった.次いで,右側(唇顎裂中の30.1%,唇顎口蓋裂中の26.7%),両側(唇顎裂中の4.8%,唇顎口蓋裂中の23.5%)の順であった.<BR>10.裂型別上顎歯槽弓形態は次のようであった.<BR>1)片側性唇顎裂患者は,butt-joint型が90.7%であった.<BR>2)片側性唇顎口蓋裂患者は,butt-joint型68.1%,collapse型22.1%であった.<BR>3)両側性唇顎口蓋裂患者は,butt-joint型32.1%,切爾骨突出型48.1%であった.<BR>11.Crossbiteは,片側性唇顎口蓋裂の97.3%,両側性唇顎口蓋裂の93.8%,口蓋裂単独の91.4%にみられた.