著者
岡本 都 越智 友梨 久保 亨 杉浦 健太 宮川 和也 馬場 裕一 野口 達哉 弘田 隆省 濵田 知幸 山崎 直仁 北岡 裕章
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.386-392, 2021-04-15 (Released:2022-04-18)
参考文献数
15

Eclipseとは天体現象である日蝕や月蝕の‘蝕’を意味する.近年,左室駆出率が保たれた患者に,明らかな誘因なく一過性にごく短時間生じる急性機能性僧帽弁逆流の報告がなされ,Eclipsed mitral regurgitation(MR)と称されている.症例は60歳代女性.突然の胸部不快感にて救急受診した.来院時,心電図にて広範な誘導でのST低下を認め,また高感度心筋トロポニンTが0.131 ng/mLと上昇していた.心エコー図では左室駆出率は保たれていたが,左室基部に限局した全周性の壁運動低下および新規の重症MRを認めた.冠動脈造影では有意狭窄病変は認めなかった.ニトログリセリン持続投与開始後,胸部症状は消失し,翌日には心電図変化,心エコー図での左室基部の壁運動異常およびMRともに消失していた.以後も胸部症状や心電図変化,MRの再燃なく経過し,2週間後の外来時には高感度心筋トロポニンTも正常値となっていた.本症例の病態として,たこつぼ症候群(Basal type)や冠攣縮性狭心症の可能性も考慮されるが,いずれも典型的とはいえず,その臨床像および経過はEclipsed MRの報告例と酷似していた.Eclipsed MRは稀な病態ではあるが,重症例や再発例の報告もあり,本疾患の存在を理解しておくことは重要と考え,ここに報告する.
著者
杉浦 健太
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2018-04-25

2種の自由産卵を行う有性生殖クマムシ、Paramacrobiotus sp.とMacrobiotus shonaicusを用いて、雌雄配偶子とその接合子の観察を電子顕微鏡下で行った。その結果、Paramacrobiotus sp.の先体が極めて長く発達していること、両種の核がコイル状になっていることを見出した。また産卵直後の卵表面に精子が先体を介して結合している様子の撮影に初めて成功した。さらに交尾後のメスを解剖し、貯精嚢で精子の尾部が短縮化されることを確認した。これらの研究はクマムシの配偶子形態とその接合子を時系列に沿って明確に観察した初の研究であり、国際論文誌Zygoteに受理、公開された。精子の形態が種間で大きく異なることから、それらの形態が水中での遊泳に与える影響を調べるため、筑波大学下田臨海実験所の稲葉一男博士、柴小菊博士と共同で、交尾中の精子遊泳をハイスピードカメラにて撮影した。遊泳中は精子の頭部と尾部の結合点である中片を先頭として、直進と曲進を繰り返していることを明らかにした。また頭部、尾部ともに長いParamacrobiotus sp.の方がM. shonaicusに比べて遊泳速度が早かった。ソフトウェアによる解析では、遊泳中の頭部での運動はほとんどなく、尾部の運動のみを用いて遊泳していることが示唆された。交尾後15分経過したメスの総排泄孔を電子顕微鏡で観察すると、強く密集した精子が絡まりあって付着していたことから、長い頭部は遊泳よりむしろメス体内への移入まで総排泄孔に密集するために必要であると考えられた。これらの研究は2件の国内学会で発表し、現在国際論文誌への投稿準備中である。上記の研究に加えて、かねてより見出していたMilnesium属のクマムシ(オニクマムシ)の新種Milnesium pacificumと、タイプ種Milnesium tardigradumの日本初記録を論文としてまとめ、国際論文誌Zoological Scienceに受理、公開された。