著者
李 広微 金 明哲
出版者
情報知識学会
雑誌
情報知識学会誌 (ISSN:09171436)
巻号頁・発行日
pp.2021_019, (Released:2021-05-21)
参考文献数
22

助詞は文章の表現特性・文体様式の特徴を把握するうえで重要な要素であり,その経時変化の考察は,言語及び文体の変遷過程の一端を明らかにすることにつながる.本研究では,百余年間にわたった近現代小説を分析対象とし,モデリングを通して助詞の経時変化を捉え,小説の言語表現及び文体との関わりについて考察を試みた.具体的には,1910年から2014年に出版された小説のコーパスを作成し,助詞の使用データ状況について計量分析を行った.計量分析には,まず系統樹分析を通して,助詞の使用に明らかな変化が発生していることを確認したうえで,主な変動要素を特定するため,elastic net回帰分析を用いて,助詞に関するモデルを作成し,モデル構築に大きく寄与する助詞項目を抽出し,分析を試みた.観察された結果は言語学や文体学に関わる問題を考えるヒントになり得ることが示された.
著者
李 広微 金 明哲
出版者
計量国語学会
雑誌
計量国語学 (ISSN:04534611)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.19-32, 2019

「国民作家」と呼ばれる夏目漱石の個性的な文体は,多くの読者を魅了し,模作され続けている.水村美苗が漱石の未完の小説『明暗』を模倣して書いた『続明暗』は,その文体模倣の完成度の高さから注目を浴びた.本稿では,計量的アプローチを用いて,水村が文体模倣のためどのような点を工夫していたか,『明暗』と『続明暗』二作品の文体にどのような異同があるかをめぐって,コーパス言語学の観点から分析を展開した.文の長さ,タグ付き形態素,品詞の構成及び文節パターンについて計量分析を行った.その結果,ほかの比較テキストに対照して,『続明暗』は文の長さ,語彙,品詞,構文などに於いて,『明暗』に似ている部分やその度合,残存されている水村の表現特徴などを見つけ出すことができた.