著者
黒澤 大輔 村上 栄一
出版者
一般社団法人 日本脊椎脊髄病学会
雑誌
Journal of Spine Research (ISSN:18847137)
巻号頁・発行日
vol.12, no.6, pp.808-813, 2021-06-20 (Released:2021-06-20)
参考文献数
27

仙腸関節は脊柱の基部で体幹と下肢の境界に存在し,わずかな関節運動で衝撃吸収装置として機能している.不意の動きや繰り返しの動作で関節に微小な不適合が生じて仙腸関節障害が発症する.多くは仙腸関節ブロックによる早期診断と徒手療法を含めた早期治療により解決するが,慢性・重症化して深刻なQOL低下をきたすことがある.難治例は1)外傷性の周囲靭帯・関節包の損傷,2)仙腸関節腔内の炎症,3)周囲靭帯付着部症という3つの病態メカニズムに分類して対応する.明らかな外傷を契機に発症した仙腸関節障害のうち,関節腔内へ注入した造影剤が容易に漏出する症例が存在し,特に若年者では外傷により不可逆的な関節の不適合および周囲靭帯・関節包の損傷が生じたことで,仙腸関節痛が慢性化している可能性がある.仙腸関節の微小な不適合が慢性的に持続すると,関節腔内の炎症を生じることがあり,同様に,仙結節靭帯および長後仙腸靭帯などの仙腸関節周囲靭帯に過剰な牽引力がかかり続けることで,足底腱膜炎と同様の難治性の靭帯付着部症が生じ得る.重症例に対しては関節腔内ブロック,体外衝撃波,仙腸関節固定術を検討する.
著者
村上 栄一
出版者
日本腰痛学会
雑誌
日本腰痛学会雑誌 (ISSN:13459074)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.40-47, 2007 (Released:2008-01-22)
参考文献数
24
被引用文献数
3 2

仙腸関節由来の痛みの腰痛に占める頻度は約10%で,若年者から高齢者までの男女に発症する.MRI,CTで特異的な画像所見が得られず見逃される例が多い.その自覚疼痛部位は仙腸関節裂隙の外縁部を中心とした腰殿部が多く,鼡径部の痛みも特徴的である.多くの例でdermatomeに一致しない下肢の痺れや痛みを伴う.また圧痛が上後腸骨棘およびその周辺,仙結節靱帯,腸骨筋部で多くみられる.患者自身に疼痛の最も強い部位を1本指でささせるone finger testで上後腸骨棘およびその腸骨側の近傍がこの痛みに特異的な指さし部位である.仙腸関節由来の疼痛の診断は自覚疼痛部位,仙腸関節への疼痛誘発テスト(Newton テスト変法, Gaenslen テスト, Patrick テスト)を参考に仙腸関節ブロックの効果で決定する.治療は骨盤ゴムベルトの装着や仙腸関節ブロックの保存療法が効果的であるが,これらの保存療法に抵抗し,日常生活や就労に著しい障害を伴う例には仙腸関節固定術が有効である.
著者
黒澤 大輔 村上 栄一
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.1231-1235, 2012-11-01

仙腸関節後方靱帯領域へのブロックで確定診断を得た仙腸関節障害45例を対象に、腰椎疾患との鑑別に有用な圧痛点について検討した。各圧痛点に母指で約4Kgの圧迫力を加えて圧痛の有無を2回検査した。対照は手術治療を行った腰椎疾患80例とした。その結果、圧痛の出現頻度は上後腸骨棘(PSIS)、長後仙腸靱帯(LPSL)、仙結節靱帯(STL)、腸骨筋の圧痛点で有意差を認めた。仙腸関節障害では45例中41例(91.1%)は圧痛点4ヶ所のうち1ヶ所以上が陽性であり、腰椎疾患80例中42例(52.5%)は圧痛点4ヶ所が全て陰性で、圧痛点4ヶ所が全て陽性であったのは1例のみであった。以上より、鑑別に有用な圧痛点はPSIS、LPSL、STL、腸骨筋で、それぞれ特異度が高く、いずれかが陽性であれば仙腸関節障害を疑い、仙腸関節ブロックを用いて確定診断を行う必要があると考えられた。
著者
黒澤 大輔 村上 栄一 古賀 公明 小澤 浩司
出版者
一般社団法人 日本脊椎脊髄病学会
雑誌
Journal of Spine Research (ISSN:18847137)
巻号頁・発行日
vol.12, no.6, pp.840-850, 2021-06-20 (Released:2021-06-20)
参考文献数
80

仙腸関節障害の多くは保存療法で解決するが,一部難治化した症例では仙腸関節固定術を要すことがある.低侵襲仙腸関節固定術のためのデバイスが開発されたことで,手術治療可能な腰臀部痛として仙腸関節障害が注目されるようになり,欧米を中心に手術件数が急増している.術後の成績を左右する因子として最も重要なのが,仙腸関節障害の確定診断である.本邦では日本仙腸関節研究会が診断アルゴリズムを提唱しており,最終的に仙腸関節ブロックで70%以上の疼痛軽快が得られれば確定診断に至る.低侵襲仙腸関節固定術として,iFUSEインプラントシステムⓇ(SI-BONE社,US)が欧米では最も多く使われ,多くの報告で成績が良好である.本邦で行われたパイロットスタディにおいて,手術の簡便さと低侵襲性が優れていることが確認できたが,側方アプローチによる骨盤内血管,神経損傷のリスク,高齢女性では仙骨側でのインプラントの緩みにより長期的な成績が不良となる可能性があることが分かった.インプラントが緩んだ際には,同じ側方アプローチでの低侵襲revision手術が困難であるため,慎重に手術の適応を選ぶべきであると考えられた.
著者
村上 栄一 菅野 晴夫 相澤 俊峰 奥野 洋史 野口 京子
出版者
日本腰痛学会
雑誌
日本腰痛学会雑誌 (ISSN:13459074)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.197-203, 2007 (Released:2008-01-22)
参考文献数
20
被引用文献数
1

仙腸関節ブロックや骨盤ベルトなどの保存療法の効果が持続せず,日常生活や就労に著しい障害のある仙腸関節性疼痛例に対して仙腸関節前方固定術を行った.男6例,女9例の15例で,年齢は平均49歳(30~86歳),罹病期間は平均3.9年(1~7年),術後経過期間は平均2.3年(6カ月~5年)であった.片側前方固定術を14例に,両側固定術(骨盤輪固定術)を1例に施行した.これらの症例について,関節癒合をCTで,また臨床症状をJOAスコア,VASによる疼痛の変化,Roland-Morris disability questionnaire(RDQ)で評価した.関節癒合は15例全例で得られていた.JOAスコアが術前平均5.6点(4~9点)から術後平均18点(7~24点)に,VASが84(70~93)から40(10~75)に,RDQ得点が21.1(17~23)から6.9(1~14)に改善した.仙腸関節前方固定術の成績は良好であり,保存療法に抵抗する症例には有効な治療法と考えられる.