著者
村上 義夫
出版者
The Surface Science Society of Japan
雑誌
表面科学 (ISSN:03885321)
巻号頁・発行日
vol.12, no.8, pp.520-524, 1991-10-10 (Released:2009-08-07)
参考文献数
10

拡散ポンプ油などの液体を真空中で円滑に蒸発させることはそれほど簡単ではない。真空中で加熱された液体の表面には蒸発が盛んに起こるworkingareaと静かで蒸発があまり起こらないtorpid areaが共存していることが多く,torpid areaが優勢な場合にはしばしば爆発的な沸騰(突沸)を起こす。そこで,液体を過熱せずに(熱分解させずに)安定的に多量の蒸気を得るためには,加熱法に何らかの工夫が必要である。本稿では,25年ほど前に行われた研究に基づいて,まず,液体の蒸発面にみられるtorpid現象と突沸現象について概説し,つぎにこれらの特異な現象の防止に環状ヒーター採用のボイラーが有効であることを述べる。筆者らが考案したボイラーには,底部にヒーターがまったく存在せず,ボイラーの周囲の液面より少し高い位置に帯状のヒーターが取り付けられている。このような加熱方法を採用すると,液体の蒸発量が多くなるにつれて,ボイラー内の液体はぐるぐると円周方向に回転するようになり,ちょうど攪拌装置を用いたときのような状況を呈する。最後に,この研究にまつわる筆者の二,三の思い出についても紹介する。