著者
田中 和広 東田 優記 村上 裕晃
出版者
日本水文科学会
雑誌
日本水文科学会誌 (ISSN:13429612)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.137-150, 2013-11-30 (Released:2014-01-16)
参考文献数
21
被引用文献数
3 5

紀伊半島の中央構造線近傍に湧出する流体は水質,酸素水素同位体比,ヘリウム同位体比などにより,スラブ起源と考えられる有馬型熱水が混入していることが想定される。本研究では地下水や河川水の地化学特性の検討を行うとともに,露頭における地質学的観察結果にもとづき,流体の上昇経路の検討を行った。流体は幅15 km以内に分布するMTLおよびそれに平行な分岐断層に伴われる断層破砕帯に沿って上昇する。その結果,北部の分岐断層からは主に高塩濃度のNaCl型およびCa(HCO3)2型地下水が,南部のMTLからは一部にCl-の溶存量の高い地下水を含むCaSO4型とCa(HCO3)2型地下水が湧出する。流体は,被圧された局所地下水流動系による希釈を受け,河川と断層の交差する箇所で局地的に湧出している。断層破砕帯中のカタクレーサイトや微小割れ目は方解石脈に充填されており,流体は断層破砕帯を上昇する際に,これらにも浸透し,炭酸カルシウムを沈殿させたものと考えられ,その結果,上昇経路は閉塞され,流出箇所の移動を引き起こしたものと考えられる。
著者
村上 裕晃 田中 和広
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.415-433, 2015-11-30 (Released:2016-02-01)
参考文献数
49
被引用文献数
1 3

島根県津和野地域では,塩濃度の高い鉱泉水がガスを伴い自噴している。この鉱泉水とガスについて,湧出箇所と地化学的特徴を調査した。津和野地域の鉱泉水は最大で海水の約半分程度の塩濃度を示す。自噴するガスは二酸化炭素が主成分である。これらの特徴に加え,鉱泉水の水素・酸素同位体比は天水線から外れる組成を示し,希ガス同位体比からマントル由来のヘリウムの混入が示唆される。これらの地化学的特徴と周辺の地質構造から津和野地域の高塩濃度流体の成因を考察すると,津和野地域の高塩濃度流体には地下深部から供給される流体が含まれていると考えられる。しかし,津和野地域の高塩濃度流体に深部流体が含まれているとしても,その寄与量は最大でも4分の1程度である。また,高塩濃度流体の指標となる塩化物イオンのフラックスが活断層周辺で最も高いことから,高塩濃度流体は活断層を主要な水みちとして移動していると推測される。ただし地表付近において,高塩濃度流体は活断層周辺の亀裂も利用していると考えられる。
著者
天野 由記 南條 功 村上 裕晃 藪内 聡 横田 秀晴 佐々木 祥人 岩月 輝希
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.207-228, 2012 (Released:2012-12-14)
参考文献数
43
被引用文献数
1 3

北海道幌延町において,堆積岩を対象とした深地層の研究施設を利用して,地上からの地球化学調査技術の妥当性を検証した。また,地下施設建設が周辺の地球化学状態に及ぼす影響について考察した。地上からのボーリング調査について,調査数量と水質深度分布の予測向上の関係を整理した結果,3本程度の基本ボーリング調査と断層・割れ目帯など高透水性の水理地質構造を対象とした追加ボーリング調査により,数キロメータースケールの調査解析断面の水質分布について不確実性も含めて評価できることが明らかになった。地下施設建設に伴う地下水の塩分濃度,pH,酸化還元状態の擾乱を観察した結果,一部の高透水性地質構造の周辺において,地下坑道への湧水による水圧や塩分濃度の変化が確認された。この変化量は事前の予測解析結果と整合的であった。これらの成果は,他の堆積岩地域における地上からのボーリング調査や地下施設建設時の地球化学調査の計画監理にも参照可能と考えられる。