著者
村岡 輝三 小井川 広志 ちょ 斗変
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

(1)平成6年-7年の急激な円高など企業を取り巻く経営環境は大きく変転し、かつ厳しさを増している。本研究計画は中部圏中堅企業を対象に、地場企業がこうした経営環境の変転の中にあって、如何なる対応を講じ、また事態に対する認識をもっているか、を重点的にアンケート調査を行い、その回答にもとづき整理・分析し把握したことに最大の成果を挙げたと考える(「冊子」の付録1-3に収録)。(2)アンケート調査は「円高対策」「企業経営」「地域協力」の三分野、25項目、114質問からなっているが、1000社を超える企業が対象に選ばれ、304社の回答をえた。その結果、つぎの四つのタイプを検出した。すなわち(a)「国際環境変化反応型&国際化積極的企業群」、(b)「国際環境変化反応型&国際化消極的企業群」、(c)「国際環境変化鈍感型&国際化積極的企業群」、(d)「国際環境変化鈍感型&国際化消極的企業群」である。よって中部圏中堅企業の「円高」対応(「冊子」の第4章に収録)ならびに環境激変中の企業像(「冊子」の第5章に収録)が明らかにされた。(3)一方、「地域協力」のモーメントに関する企業の対応についても、アンケートの調査からは一定の認識と関心が窺われた。概ねASEAN、APEC、NIESの順位で知られていることと、時期的に1980代に知ったことが相対的多数を占めたいいることなど、かなり興味の深い回答の結果が明らかにされた(「冊子」の第1章に収録)。この方面の調査研究が希少であるゆえに、この方面の吟味と調査の追跡が望まれる。(4)一方、東アジア経済それ自体の全体像の把握と課題提起も、上記の調査との関連で欠かせない。「再編成と転機」(「冊子」の第2章に収録)と「新時代の課題」(「冊子」の第3章に収録)はこの方面の研究成果が示される。貿易依存時代から直接投資時代への段階移行と通貨政策が通商政策と並んで対外経済政策の重要課題である点が把握され、その知見が看取できる。
著者
村岡 輝三
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

本研究は台湾の1989年の「調査」(中華民国経済部投資審議会『僑外投資事業運営状況調査及対我国経済発展貢献分析報告、民国78年』台北、1991年7月)資料を基本に、「華僑・華人」の企業投資と資金運営の実態について、統計的検証を通じて明かしするところに意図がおかれている。研究の内容構成は、さしずめ、つぎの8節に分けて把握される。すなわち(1)問題の提起、(2)統計的検証と限界、(3)全般的推移と業種別分布、(4)資産負債の構造、(5)財務収支の構造、(6)資本における産業の構造と市場の構造、(7)経営の効率と金融保険業の突出、(8)残された研究課題、がそれである。1993年12月現在、台湾に対する「華僑」投資は累計2,382件、26億889万ドルを記録。一方、台湾企業の中国大陸向け投資は60億ドルに達した。台湾がいわば「中継」基地として対中投資の重要な役割を演じていることがこの数字から十分推測できる。台湾における「華人・華僑」企業経営に焦点を合わせた理由のひとつはこの点にある。いまひとつは、「華人・華僑」の企業経営に関する統計的調査は台湾しかなく、ほかに選択肢がないことである。それだけに上記の台湾の「調査」報告は貴重な資料である。本研究がさしずめ台湾に焦点を合わせた理由は上記の二点にある。一方、1989年はバブル経済たけなわの局面にあり、その点で以上の作業は台湾における「華僑」系企業の「事業運営」の実態が明かにされると共に、バブル経済と「華僑」資本の「活動」との関係が一定程度浮き彫りできることも本研究の大きな成果である。このように本研究はいくつかの点において特色ある内容が期待できる。以上の研究はほぼ予定通り順調運ばれている。400字原稿用紙50枚程度にまとめて八千代国際大学の紀要特集号に載せることがほぼ決まっており、鋭意執筆中である。
著者
〓 斗燮 小井川 広志 村岡 輝三
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究は昨今の東アジア経済の構造転換を「直接投資時代」への移行段階として規定し、その本質を企業連携、産業金融、地域協力という三つの局面において総合的な把握を試みた。この場合、直接投資の雁行型拡大により好調を続けてきたアジア経済が1997年タイの通貨危機以降、地域全体が構造的な危機を露呈している現状に鑑み、以下の三つの追求すべき課題を設定した。(1)「アジア型発展」モデルが90年代の後半に急激に機能不全に陥った理由は?。再び成長基調に乗せるための条件と問題点は何か。(2)経済成長の持続化ためには成長段階に合わせて人材の質を高める必要があるが、学校教育と企業内教育とどちらが有効であろうか。(3)「アジア型発展」モデルは、究極的には日本企業による企業内国際分業の展開及び高度化にその本質がある。今後の直接投資は、大企業よりは中堅中小企業による国境を越えた成長戦略がカギになるものと考えられるが、彼らの国際化を支える競争優位や企業文化とは何か。以上の三つの課題に対する我々の答えは以下の通りである。(1)「アジア経済」の成長は、アメリカ、日本、アジア諸国の3者(トライアングル)による技術、資本、地域協力の枠組みに内在する「協力」と「緊張」の好循環によるもの。しかし、昨今の通貨危機のなかで既存のトライアングルが持つ弱点がはっきりしてきた。特に、金融・通貨面での対応能力が脆弱である点が明らかになった。対応策としては、地域経済路力機構(ASEANやAPEC)の機能強化、共通通貨や通貨圏の設置などが不可欠であるが、問題は2大勢力の円(日本)と人民元(華人経済)が共通目的に向けて協力できるかである。(2)日本の高度成長は質の高い人材を長期安定的に供給できた点に負うところが大きいが、教育投資による経済的効果に関する定量分析によれば、いわゆる学校教育による労働生産性の増加効果はそれほど大きくない。企業内教育(OJTを含む)の重要性を示唆する結果である。(3)中堅企業の国際化がアジア経済を再び成長軌道に乗せるには非常に重要なファクターである。高い競争力を持つ中部圏の製造企業11社に対するヒヤリング調査から以下の点が確認された。第一は、全体として国際化にはまだ消極的であること。第二は、ある特定技術分野に特化した専業企業が多いこと。第三は、カリスマ的な創業者による独特の組織文化を共有していること。第四は、上位文化として製造業や熟練の継承に好都合の地域文化(中部圏)が存在していること。アジア経済の再生には、こうした中堅企業の対アジア進出と組織文化の地域的な拡散が大きく寄与するものと考えられる。