著者
村嶌 由直 大田 伊久雄
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

1990年世界農林業センサスは林業離れの実態を全体的に明らかにしたが,その中で地域的に新たな発展の動きも見られた。本研究は,'90年代の全体像を地域的に解明するとともに,地域的にあるいは経営体として確立している"地域林業"および林家・法人に焦点をあて,その成立基盤を解明した。高度産業社会においては都市への人口流出,不在村所有・サラリーマン林家の増加,こうした状況は零細所有者の森林管理を困難にしている。一方では、森林のもつ多機能の発揮のために森林管理が緊急に対処されなければならない課題になっている。木材生産局面からみると、戦後造林が利活用段階に入った南九州(宮崎・熊本など)およびまだその段階への移行過程にある東北(宮崎・岩手など)の林業に地域区分が可能であるが,林業発展へのベクトルがみられるのは一つのまとまりをもつ地域単位を基礎とした場合であり,そこに上層組合員に支持された森林組合が果たしている役割が極めて大きい。加えて地方自治体による側面的な支えによって前進を確実にしている。しかし,林業経営が成立する地域は限定的で,試算される林業の内部収益率の低さから言えば全地域的である。60年代半ばから70年代にかけて公的造林が森林造成に,あるいは地域振興に大きく寄与したが、21世紀を迎える今日,放棄され森林管理を公的に進める手だては見い出し難い。一部で模索されているのが、下流の「水」の受益者・市町村が上流域の森林整備のために財政的に支援するものであり,「流域」を単位とした森林管理の道である。
著者
村嶌 由直 森 義昭 岡田 秀二
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

本研究は,一つは北米における育成的林業の成立過程と,それの採取的林業との併存構造を解明し,木材の対日輸出の経済力を問うこと,あと一つはその結果として,それが日本国内でどのような問題を生んでいるか,とりわけ日本林業との競争関係を解明することであった。明らかになった点をあげると以下のようである。1. 北米における採取的林業から育成的林業への展開は,old growthの生産から second growth の生産へ移行しつつ,その過程でアメリカ国内市場における地域問競争の激化と対日輸出の拡大をよんでいる。2. また一方,old growthの生産は環境保護を求める動きのもとで制約を受け,国公有林の生産規制へと発展している。その結果,輸出は木材企業(紙パルプ多国籍企業)の売り手独占的な構造になり,比較優位をより確実なものにさせている。3. しかも,80年代半ばからの円高ドル安移行とその定着は,製品輸入に中心を移しつつ,より外材化を進めた。それが日本の国内自給率を4分の1段階へといっそう後退させる結果になっている。4. しかし,円高現象は日本の企業の海外活動を活発化させた。日本の紙パルプ企業の北米企業の工場買収や,経営参加,さらには発展途上国における植林など新たな動きが展開した。製材企業や木材問屋の中にも海外投資を展開する企業が現れた。5. こうした外材中心の市場体制のもとで日本林業は後退傾向を強めているし,建築用の木材市場をみたとき輸入製品,国内挽き製品,国産材製品の三者が激しく競争を展開している。この中で日本の森林資源の管理の在り方が問われている。