著者
村川 佳太 上原 光司 重留 美咲 米田 哲也 欅 篤
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C-92_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】 近年、介護予防分野や老年医学分野では「フレイル」が注目されている。フレイルは大きく3つに分類され、身体的フレイル、精神・心理的フレイル、社会的フレイルがある。フレイルの原因とされている老化は氷山の一角に過ぎず、その背景に潜む因子との関係を明らかにすることが、介護予防対策を進めるうえで重要となる。フレイルの第一段階とされているのが、社会的孤立などの社会的フレイルであり、今回、当院初期もの忘れ外来における社会的孤立の発現率、社会的孤立者の歩行能力について検討する。 【方法】 2012 年7 月から2016年6月の間に、当院初期もの忘れ外来を初回受診された187名(男性79名、平均年齢77.4歳±5.3)。社会的孤立を日本語版LSNS-6にて評価し、12点未満を孤立群、12点以上を非孤立群とした。評価項目は性別、年齢、世帯、BMI、転倒歴、運動習慣、診断名、10m歩行、TUG、MMSE、LSAとし比較。さらに、目的変数を孤立群、非孤立群とした単変量ロジスティック回帰分析を行い、p<0.1であった、運動習慣、10m歩行、TUG、LSAを説明変数として多変量解析を実施した。なお、10m歩行、TUG、LSAにおいては中央値で2値に分類した。 【結果】 社会孤立発現率は32%(60/187)であった。なお、診断時、正常加齢とされた者の孤立者は0%であり、統計解析の対象からは除外した。孤立群と非孤立群の2群比較では10m歩行(p<0.005)、TUG(p<0.05)、LSA(p<0.005)、運動習慣(p<0.005)となった。ロジスティック回帰分析では、性別と年齢を調節因子とした結果、10m歩行6.5秒以上(OR:3.24、95%CI1.25-8.38、p<0.05)、運動習慣なし(OR:2.12、95%CI1.04-4.34、p<0.05)となった。 【結論】 社会的孤立、活動範囲の狭小化、身体機能低下が負の連鎖となる可能性が考えられた。反対に活動範囲を維持、拡大することが、社会的孤立や身体機能低下を予防する一つの手段になることが示唆された。このような社会的背景を考慮した場合、臨床での介入のみでは限界があり、地域をも巻き込んでの包括的にアプローチしていく必要がある。多職種や地域と連携し、予防の視点を患者、家族へ伝えていくことが今後一層重要になってくると考える。 【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、各対象者には本研究の施行及び目的を説明し、研究参加への同意を得た。なお、本研究は社会医療法人愛仁会高槻病院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:2016-36)。