著者
村津 蘭
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.86, no.4, pp.635-653, 2022-03-31 (Released:2022-07-20)
参考文献数
54

本論は、ベナン共和国南部のペンテコステ・カリスマ系教会のデリヴァランス・ミサにおける憑依を対象に、妖術師、在来信仰の神々が「悪魔」として現れ、現実に参与する様態を情動と想像力、記憶に着目して明らかにする。近年興隆するサハラ以南アフリカのペンテコステ・カリスマ系教会では、妖術師を始めとする在来の諸霊を悪魔とみなし、悪魔との闘いを強調する傾向が強く見られる。先行研究はその現象を政治・経済の急激な変動や、それに伴う苦悩を説明するイディオムとして理解し、身近な出来事と社会背景を接合する想像力として描く傾向があった。しかし、想像の様態を現実理解のための言説として扱うことは、現実自体が想像と様々な人間・非人間の絡まり合いの中で構成されているというダイナミクスを捨象する危険性を孕む。これらの点を踏まえ、本論は現実を形作る知覚に作用する想像力の特徴に焦点をあて、それが働く条件と過程における調整のあり方を、情動と環境の応答の中から明らかにする。それにより、悪魔・妖術との闘いという実践は、妖術師という想像を使って社会・政治の問題を説明するという単純なものではなく、想像、記憶、そして情動が応答的に動く中で妖術師や霊的存在をモノとして立ち上げるという過程であり、またその立ち現れた悪魔・妖術師が新たな現実を切り開く主体として参入することを許していく過程だと論じる。
著者
村津 蘭
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第52回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.21, 2018 (Released:2018-05-22)

本発表は、西アフリカのベナン共和国南部の新教会の悪魔祓いを受けた女性の事例を基に、「妖術師」が悪魔祓いの中で対処されることを通して、どのように「妖術師」として具現化するのかということを言説・身体・物質の観点から描きだす。さらに、不幸の原因を判じるための卜占と比較し、悪魔祓いが相談者側の力の増大につながっている点について議論する。