- 著者
-
村田 靖次郎
- 出版者
- 京都大学
- 雑誌
- 特定領域研究
- 巻号頁・発行日
- 2008
フラーレンC70の内部に1個または2個の水素分子が内包された場合、フラーレンπ共役系がどのような影響を受けるかに興味がもたれる。そこで、最近当研究室で合成された水素内包C70の外側への付加反応を検討した。(H2)2@C70、H2@C70、C70の混合物(モル比,2:70:28)と0.44当量の9, 10-dimethylanthracene(DMA)をo-dichlorobenzene-d4(ODCB-d4)に溶解させ、30、40、50℃における平衡混合物の1H-NMRスペクトルを測定した。その結果、DMAの付加により生成した(H2)2@1およびH2@1の内包水素がδ21.80およびδ22.22に観測され、いずれも未反応の(H2)2@C70(δ23.80)およびH2@C70(δ23.97)のものより低磁場にシグナルを与えることがわかった(化合物1は、C70とDMAの付加体)。これらの内包水素のシグナル比ならびに1H-NMRより見積もった未反応DMAの濃度から、各温度の平衡定数K1およびK2を算出し、ファントホッフの式よりΔG1およびΔG2をそれぞれ計算した(Table1)。その結果、K2はK1より約15〜19%小さいことがわかった。すなわち、内包水素分子の個数により反応の原系と生成系のエネルギー差が影響を受けることが明らかとなった。