著者
杢野 恵理子 諸角 美由紀 生方 公子 田島 剛 岩田 敏
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.7, pp.887-898, 2018-07-20 (Released:2018-08-01)
参考文献数
57
被引用文献数
2

肺炎球菌結合型ワクチン (PCV) の世界的な普及は肺炎球菌感染症への劇的効果とともに肺炎球菌自体の変化をもたらした. 肺炎球菌は急性中耳炎 (AOM) の主な起炎菌の1つであり, その動向は AOM 診療にも影響を及ぼす. われわれは, PCV 普及後の AOM の現状を明らかにするため, 2016年7月から全国調査を実施し, 小児 AOM 患者529例 (PCV 接種率97%) を対象に起炎菌, 肺炎球菌血清型, 患者背景等について検討を行った. 検出された菌はインフルエンザ菌が57%と過半数を占め, 次いで肺炎球菌26%, 黄色ブドウ球菌8%, A 群溶血性レンサ球菌3%, モラクセラ・カタラーリス1%であった. 肺炎球菌の血清型は15A 型15%, 35B 型12%, 3型11%の順に多く, 13価 PCV に含まれる血清型の割合は16%と低かった. 患者背景は2歳未満が61%を占め, 重症例81%, 反復・遷延例45%, 保育園児72%, 鼻副鼻腔炎合併例55%と AOM 難治化の危険因子が高率に認められた. ガイドライン推奨抗菌薬が97%の症例に使用され, そのうち67%が一次治療薬で治癒していた. PCV 普及後, 小児 AOM の起炎菌はインフルエンザ菌が優勢となったが, 患者背景や治療効果に明らかな変化は認められなかった. 今後の AOM 診療は, インフルエンザ菌の検出頻度増加を念頭におきながら, 引き続き患者背景や起炎菌の薬剤感受性を考慮した治療選択を行うことが重要と考える.