- 著者
-
東 康之
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬理学会
- 雑誌
- 日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
- 巻号頁・発行日
- vol.144, no.4, pp.160-166, 2014 (Released:2014-10-10)
- 参考文献数
- 16
- 被引用文献数
-
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自己免疫疾患の治療や臓器移植における拒絶反応の抑制のためには,免疫抑制薬が治療に用いられる.免疫抑制薬には古くから多様な作用メカニズムの薬剤が存在し臨床応用されているが,近年,特定の分子を標的とした分子標的薬が多く開発されている.中でも免疫反応に関与する重要な分子群の一種であるサイトカインの抑制は特に関節リウマチにおいて有効な治療戦略として定着しており,TNF-αやIL- 6 受容体に対するモノクローナル抗体が臨床において広く用いられている.近年,サイトカイン刺激による細胞内シグナルを特異的に抑制する低分子キナーゼ阻害薬であるトファシチニブが承認され,抗体とは異なる経口投与可能な低分子の分子標的薬の可能性が注目されている.トファシチニブはサイトカイン刺激の直下にあるヤヌスキナーゼ(JAK)を阻害することにより,転写因子のリン酸化が抑制され,関連する遺伝子の発現を制御するが,細胞内リン酸化タンパク質の検出技術の進歩により,この細胞内のリン酸化抑制の過程をモニターすることが可能となった.このことによりJAK 阻害薬の作用をより詳細に解析することができるようになっただけでなく,薬物を投与された生体におけるJAK阻害反応をいわゆるpharmacodynamics(PD)として追跡することが可能となった.本総説において,免疫抑制薬の現状を振り返りつつ,分子標的薬としてのJAK 阻害薬の可能性について概説したい.