著者
東川 麻里 飯田 達能 波多野 和夫
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.242-249, 2001 (Released:2006-04-25)
参考文献数
7
被引用文献数
2

常同的発話を呈した,語新作ジャルゴン失語 (neologistic jargon : Kerteszら 1970) の症例を経験したので報告する。本症例の発話には,呈示刺激や場面が変わっても同一の無関連語 (irrelevant word) が出現し,その無関連語を中心として,音韻的および意味的に関連した「語」が変化しつつ繰り返されるという常同的な特徴がみられた。この音韻的・意味的に類似した「語」への変化・反復のパターンは,語新作ジャルゴン失語における,音韻論的・意味論的解体を示唆するものであり,特に,本症例の常同的発話においては,これらの解体が同時に現象として現れていた。われわれは,この音韻論的および意味論的解体を呈する常同的発話の出現機序について,Dell (1986) およびMartinら (1992) の「相互拡散活性化モデル」 (interactive spreading activation model) を用いて,認知神経言語学的考察を試みた。
著者
東川 麻里 波多野 和夫
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.281-288, 2003
被引用文献数
1

再帰性発話と反響言語が合併した失語例を報告した。この症例は「ナカナカ」という語を中心とした常同的発話を産生した。この「ナカナカ」には,「ナカナカブイ」,「ナカナカナイト」のように語尾に付加語が付く程度の変形が観察された。われわれはこの現象を再帰性発話の概念で理解し,その経過における「浮動的段階」 (Alajouanine 1956) に相当すると考えた。さらにこの「ナカナカ」は文法的機能語を伴うこともあり,半常同性発話 (Hadanoら 1997) の症状に類似するものと思われた。反響言語は主として会話場面で出現し,形式としては減弱型または完全型であった。本例の失語型は従来の Wernicke (1874) -Lichtheim (1885) から Geschwind (1965) に至る古典論的な失語分類では位置づけが困難であると思われた。とくに,異なる種の反復性言語行動または自動言語が合併した症例として,これまでに報告例の少ない貴重な症例と思われた。