- 著者
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東村 純子
- 出版者
- 史学研究会 (京都大学文学部内)
- 雑誌
- 史林 (ISSN:03869369)
- 巻号頁・発行日
- vol.87, no.5, pp.603-641, 2004-09
律令制成立期の紡織体制について、特に平織の布や絹の生産の仕組みは史料の制約からほとんど明らかでない。本稿では、七世紀後葉以降に宮都や地方の官衙遺跡から多く出土する綛かけ・糸枠について、機能上必要な加工と装飾を目的とした加工を識別し、形態上の特徴を整理した。さらに、製糸具の[カセ]、製織具の綛かけ・糸枠の組成を検討した結果、紡織工程が製糸と製織とに分かれ、糸が綛の形で流通することを明らかにした。平城宮・京では、製糸は行わず、高級絹織物を含む絹の製織を行った。地方では、七世紀後葉に郡衙工房で布や絹の製織、周辺の集落で麻の製糸を分担する伊場遺跡型が成立する。その一方、七世紀中葉から有力豪族の本拠地で製糸から製織までを一連に行う屋代遺跡型が認められる。前者は生産の効率化を図ったもので、後者は、調庸制成立の素地ともなったと評価した。