著者
石川 百合子 川口 智哉 保高 徹生 東野 晴行
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.29-43, 2014 (Released:2014-03-10)
参考文献数
27
被引用文献数
2 1

本研究では2011年3月の福島第一原発事故により放出された放射性セシウムによる河川流域における河川水濃度と流域土壌に蓄積した量(本論文では,蓄積量と表記する)の残存状況の推定を目的とした数値シミュレーションモデルを構築した。産総研-水系暴露解析モデル(AIST-SHANEL)をプラットフォームとし,流域における懸濁物質の流出ポテンシャルと放射性セシウムの動態を考慮したモデルを導入し,阿武隈川水系を対象にケーススタディーを実施した。その結果,本モデルの妥当性を検証し,降水による出水に伴う放射性セシウムの総流出量は僅かであることが示された。特に,セシウム137は自然崩壊が少ないことも相まって流域における蓄積量を減少させるのは困難なことが考えられ,除染をはじめ総合的な対策を検討することの必要性が示唆された。本モデルは放射性セシウムの河川流域での挙動解析や汚染対策の評価を可能にするものと考えられる。
著者
田中 敦子 坂本 靖英 眞弓 大介 東野 晴行 坂田 将 中尾 信典
雑誌
日本地球惑星科学連合2015年大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

化石燃料をエネルギー源とする発電所で燃焼によって発生するCO2や、天然ガス・石油等の精製所から精製の工程で発生するCO2を処理する手段として、CO2地中貯留技術が期待されている。CO2地中貯留技術は、臨界状態の密度の高いCO2を地中に隔離するため、大量のCO2の固定が可能である。CO2地中貯留の対象とされる地層は主にかん水層や枯渇したガス油田である。 CO2地中貯留(CCS)の重要な候補サイトの一つとなっている枯渇油ガス田には、未回収の原油が半分以上残されている。近年眞弓らは、油ガス貯留層内に自然に存在する嫌気性の特定の微生物のメタン生成能力が、CO2分圧の上昇によって活性化されることを見出した 。これは枯渇油ガス田を対象としたCCSサイトにおける、原位置での天然ガス資源創成の可能性を示唆するものと言える。 このような地下環境における微生物活動を考慮した新たな資源創成型のCCS技術を確立するためには、まず、微生物によるメタン生産量とCO2固定量をはじめとする諸元の定量的に評価して便益を把握する必要がある。 我々は、微生物活動を考慮した新たな資源創成型のCCS技術の基本的な便益を明らかにすることを目標に、地層モデルに地下微生物の働きを組み込み、CCSプロセスにおける地層モデルの挙動とメタン産出量の評価を行うとともに、CO2地中貯留にかかわるサイト周辺の環境インパクト評価および産業安全面のリスクアセスメントを進めている。CO2地中貯留サイトの地下の貯留層・地表・注入井坑口周辺の大気環境をとりあげて、CO2漏洩のリスクの評価を進めるとともに、CO2地中貯留リスク評価プログラムを開発中である。本報告ではこれらの取り組みの中から、とりわけサイト周辺のリスク評価について報告する。