著者
松下 まり子
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.375-387, 1992-12-30 (Released:2009-08-21)
参考文献数
68
被引用文献数
13 11

日本列島太平洋岸における完新世 (後氷期) の照葉樹林の発達史について, 各地で報告されている花粉分析結果を検討し, 主に黒潮との関連で考察した. 房総半島以南の太平洋沿岸地域では, 完新世の初期から照葉樹林が成立し, なかでもシイ林の発達が顕著にみられた. とくに伊豆半島や房総半島南端で照葉樹林の発達が良く, その成立, 拡大時期も早かった. これらの地域は早くから黒潮の影響を受け, 冬季温暖かつ湿潤であるといった海洋気候が照葉樹林の発達をより促したと考えられる. 照葉樹林は, 急激な温暖化とともに九州南端から日本列島を北上したが, 一方で黒潮の影響を受ける沿海暖地からもその分布を拡大していったことが推定された. また太平洋沿岸地域における照葉樹林は, 完新世初期に3回の拡大期をもって発達した.
著者
松下 まり子
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.301-310, 2002-08-01 (Released:2009-08-21)
参考文献数
33
被引用文献数
3 10

大隅半島肝属平野における完新世堆積物(KYコア)の花粉分析を行い,肝属川流域の照葉樹林の発達過程を明らかにし,6,500yrs BPに起こった鬼界アカホヤ噴火の植生への影響について考察した.検出されたおもな木本花粉の産出状況に基づき,下位よりKY-I,KY-II,KY-III,KY-IVの4つの花粉化石群帯が区分された.これらに対応して4つの森林期,すなわち古い方から落葉広葉樹林期,エノキ-ムクノキ林を伴う落葉広葉樹林-常緑広葉樹林移行期,照葉樹林(シイ林)期,照葉樹林(シイ-カシ林)期が設定された.当地域での照葉樹林の発達は,9,200yrs BPのKY-II帯に始まっており,シイを主体とする照葉樹林は8,000yrs BPに成立し,鬼界アカホヤ噴火に至るまでの1,500年間安定して繁栄を続ける(KY-III帯).鬼界アカホヤ噴火により一旦途絶えた森林は6,200yrs BP(6,570yrs BPを大気-海水リザーバー効果補正)にはすでにシイ-カシ林として回復し,4,000yrs BPまで維持される(KY-IV帯).当地域は,幸屋火砕流(K-Ky)到達域の北限に位置し,火砕流堆積物の厚さや分布は一様でなく,したがって鬼界アカホヤ噴火の影響も一律ではなかったであろうが,肝属川流域全体をみると,照葉樹林は比較的早く,少なくとも100~300年程度で回復したものと思われる.
著者
北場 育子 百原 新 松下 まり子
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.181-194, 2011
被引用文献数
1

奈良盆地西部の生駒市高山町稲葉に分布する大阪層群海成粘土層Ma2層から産出した花粉化石と大型植物化石に基づき,Ma2層が堆積した前期更新世MIS 25の古植生と古気候を推定した.当時の植生は,ブナ属やコナラ亜属を主体とする落葉広葉樹林が卓越していた.植物化石群のうち,最も温暖な地域に生育するハスノハカズラと,最も冷涼な地域に生育するサワラの分布域の気候から,当時の奈良盆地西部の気温条件を年平均気温約10~13℃と推定した.Ma2層に含まれるブナ属殻斗化石は,小型で基部が隆起する殻斗鱗片から,シキシマブナと同定した.微分干渉顕微鏡による観察から,シキシマブナ由来である可能性が高い同層準のブナ属花粉は,小さな粒径と粗い表面模様を持つ点で,現生のブナ属と異なることがわかった.また,奈良盆地と大阪湾周辺のMa2層のメタセコイア化石産出状況を比較・再検討した結果,大型植物化石の産出の有無や花粉の産出率に地域差があることが明らかになった.