著者
兵頭 政幸 北場 育子
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.118, no.2, pp.74-86, 2012
被引用文献数
3

中国黄土高原の紅粘土層の帯磁率と石英粒径が示す,鮮新世末の冷涼乾燥化イベントは海洋酸素同位体ステージ(MIS)G6-G4(2.73-2.68 Ma)に対比される.このイベントの発生と同時に約3.6 Maから続く温暖湿潤気候は終了したが,気候はまだ温暖であった.紅粘土層を覆う最初のレスL33層がMIS 104氷河期に対比される.この氷河期の氷床拡大は小規模であったが,L33層が示す冬季モンスーンは鮮新世に入って最強級の強さであった.L33層の最下部から中部にかけて小反転を多数伴うガウス-マツヤマ地磁気極性トランジションが記録され,その直上の古土壌S32層の下限が第四紀の始まりとなる.日本列島においても黄土高原と同様の長期温暖湿潤気候が続き,それはMIS G6-G4頃の冷涼乾燥化で終結した.ただし,その時の気候は黄土高原と同じくまだ間氷期並みに温暖であった.
著者
北場 育子 百原 新 松下 まり子
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.181-194, 2011
被引用文献数
1

奈良盆地西部の生駒市高山町稲葉に分布する大阪層群海成粘土層Ma2層から産出した花粉化石と大型植物化石に基づき,Ma2層が堆積した前期更新世MIS 25の古植生と古気候を推定した.当時の植生は,ブナ属やコナラ亜属を主体とする落葉広葉樹林が卓越していた.植物化石群のうち,最も温暖な地域に生育するハスノハカズラと,最も冷涼な地域に生育するサワラの分布域の気候から,当時の奈良盆地西部の気温条件を年平均気温約10~13℃と推定した.Ma2層に含まれるブナ属殻斗化石は,小型で基部が隆起する殻斗鱗片から,シキシマブナと同定した.微分干渉顕微鏡による観察から,シキシマブナ由来である可能性が高い同層準のブナ属花粉は,小さな粒径と粗い表面模様を持つ点で,現生のブナ属と異なることがわかった.また,奈良盆地と大阪湾周辺のMa2層のメタセコイア化石産出状況を比較・再検討した結果,大型植物化石の産出の有無や花粉の産出率に地域差があることが明らかになった.
著者
北場 育子
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

地球磁場が気候に与える影響を検証するため、以下の研究を行った。1.複数の地磁気逆転を含む110~70万年前の大阪湾堆積物の古環境解析を行った。本年度は、特に、地磁気の逆転が起こらなかったステージ25の珪藻・硫黄・花粉を分析し、海水準と気候を復元した。また、先行研究による年代モデルの見直しを行い、より高精度な年代軸を入れた。さらに、アリゾナ大学で炭素同位体分析を行い、新たな古環境指標を得た。その結果、全体的な気候変化は、日射量変動に起因する氷体量変化によって生じる海水準変化と調和的な変動を示し、通常、地球の気候はミランコビッチ理論で説明できることを確認した。しかし、ステージ19と31では、最高海面期に日射量変化では説明できない寒冷化が生じていた。この寒冷化は、それぞれ、マツヤマ-ブリュンヌ地磁気逆転期と、ハラミヨサブクロン下限の地磁気極小期に一致しており、約40%以下への地磁気の減少が、約1~4℃の気温低下を引き起こしたことを明らかにした。成果の一部をGondwana Research誌に公表したほか、近日中にScience誌に論文を投稿し、国内外の学会で発表を行った。2.110万~70万年前に生育していたブナ属は、絶滅種を含むため、植物化石に基づく同時代の気候復元は困難であるとされてきた。そこで、この絶滅種の分類学的位置と生育条件を明らかにした。この成果は、第四紀研究に論文を公表し、国内の学会で発表した。3.インドネシアのハラミヨサブクロン下限相当層の花粉分析を行った。この層準では古地磁気強度を得ることが困難であり、地磁気強度と気候の関連を検証するには至らなかったが、地磁気逆転境界付近を境に、環境が大きく変化したことを明らかにした。このほか、共同研究として、新第三紀~第四紀の磁気層序と植生・気候変化に関する研究や、インドネシアのマツヤマ-ブリュンヌ境界付近の人類化石産出層に関する古地磁気・古気候学的研究を行い、論文を公表した。