- 著者
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松山 太士
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.48100909, 2013 (Released:2013-06-20)
【目的】 スキルとは,「手腕.技量.また,訓練によって得られる特殊な技能や技術」とされる.専門職として理学療法士が身につけるべきスキルは多岐にわたり,また難易度の高いスキルを習得するには繰り返し何度も経験することが必要となる.卒前教育において,スキル習得の機会は主に臨床実習の場である.しかし,近年は患者の権利意識の高まりやコンプライアンス遵守の必要性,集団療法から個別療法のみの診療体制へと変遷したこと等,理学療法士を取り巻く環境は大きく変化し,無資格者である学生が臨床実習で経験を積むことが以前より困難になっているのが現状である.一方,卒後に目を向けると,予防から急性期・回復期・生活期まで理学療法士の活躍の場は拡大しており,臨床現場で求められるスキル項目は近年増加している.よって,臨床実習中に経験するスキル項目と,卒後必要とされるスキル項目との乖離を埋めるような工夫が求められる. 本研究の目的は,臨床実習中に経験したスキル項目と卒後必要とされるスキル項目とを比較検討し,卒前教育と卒後教育とが一貫して継続される臨床実習の実現へと活かすことである.【方法】 当院の理学療法士のうち,急性期の整形外科・脳神経外科・神経内科担当チーム,急性期の外科・内科担当チーム,回復期リハビリ病棟担当チーム,訪問・通所リハ担当チームそれぞれのチーム内指導者を対象に,現場で必要なスキル項目を自由記載でアンケート調査した.次に,臨床経験1~2年目の理学療法士11名を対象に,学生時代に臨床実習で経験した事のある項目について指導者から調査した項目の中から選択するよう求めた.経験した事のある項目については,「指導者の実践を見学のみ(以下,見学)」「指導者の実践を模倣しながら実施(以下,模倣)」「指導者の監督のもと単独で実施(以下,実施)」のどの段階まで経験したのかを回答するよう求めた.【倫理的配慮,説明と同意】 全ての対象者に対して研究の趣旨を説明し同意を得た.【結果】 指導者の求めているスキル項目は各チームによって大きく異なっていた.また,「吸引の知識・技術」「人工呼吸器管理下のリスク管理方法」「心電図モニターの理解とリスク管理方法」「ケアマネとの連携方法」など,無資格の状態で経験することが困難な項目や,複合的スキルが要求され臨床実習中での習得は難易度が高いと思われる項目も散見された. 臨床実習中に経験したスキル項目は,リスク管理に関する項目:「フィジカルアセスメント」と「離床時の点滴・尿道カテーテル等の扱い方や禁忌事項」は概ね実施されていたが,「感染対策」「NGチューブ,胃瘻の扱い方や禁忌事項」については未実施も多く存在した.動作の分析・介助方法に関する項目:「歩行分析,動作分析」「歩行介助方法」「移乗動作介助方法」はいずれも概ね実施されていた.多職種連携に関する項目:「看護師との情報共有」は概ね実施されていたが,「ケアマネとの連携方法」「リハ実施計画書」の作成」は殆どが未実施であった.「カンファレンスでの報告」は実施が2名であった.機器の使用方法に関する項目:「電動ベッドの操作方法と注意点」は概ね実施されていた.「物理療法の適応と使用方法,禁忌」は概ね実施されていたが未実施が2名存在した.「車椅子の構造理解,調整」と「装具の選定,調整,フィッティング」は殆どが未実施あるいは見学であった.【考察】 各チーム指導者が求めているスキル項目は大きく異なっていたことから,実習先の施設あるいは卒後就職する施設の特性により経験できるスキル項目・必要とされるスキル項目は大きく異なることが考えられる.スキル項目の難易度については,臨床実習中に経験しておくべき内容と卒後教育にて担うべき内容とを理解した上で指導に当たることが重要である.臨床実習で経験した項目については,「感染対策」「NGチューブ,胃瘻の扱い方や禁忌事項」「実施計画書の作成」「カンファレンスでの報告」「車椅子の構造理解,調整」と「装具の選定,調整,フィッティング」等は卒後多くの施設で求められ,かつ臨床実習にて経験が可能と思われるスキル項目であることから,臨床実習中に経験を促す必要がある.臨床実習では,スキル項目の施設特性・難易度を考慮した上で臨床現場に求められている項目を経験できるよう配慮することが重要であるが,この実現にはスキル項目を細分化し経験させるクリニカルクラークシップ方式での教育体制が必要である.【理学療法学研究としての意義】 臨床現場で必要なスキル項目の習得には臨床実習はどうあるべきかを提示したことにより,卒前教育と卒後教育とが一貫して継続される臨床実習の実現に寄与することができる.