著者
松本 秀輔 Shusuke Matsumoto
出版者
同志社大学日本語・日本文化教育センター
雑誌
同志社大学日本語・日本文化研究 (ISSN:21868816)
巻号頁・発行日
no.13, pp.115-131, 2015-03

本稿は、助辞「ニシテ」の助動詞的用法について、いわゆる副詞語尾として用いられる「ニシテ」の現代語の中での用法とその広がりを、書き言葉コーパスの用例から見ようとしたものである。結果、「副詞+ニシテ」の用例として、「往々ニシテ」、「すでニシテ」、「ようやくニシテ」、「たちまちニシテ」、「当然ニシテ」、「同様ニシテ」、「寡聞ニシテ」が、さらに「短時間を意味する名詞+ニシテ」の型の用例として、「一瞬にして」「一夜にして」などが、「~ながら+ニシテ」の型の用例としては、「生まれながらニシテ」、「居ながらニシテ」、「生きながらニシテ」、「寝ながらニシテ」、「立ちながらニシテ」、「三つながらニシテ」が、また、副詞あるいはナ形容詞に「ニシテ」が後続し、評価成分(文副詞)として働いている興味深い用例としては、「幸いニシテ」、「不幸ニシテ」、「幸運ニシテ」、「不運ニシテ」が、現代語の中に存在していることが確認された。いずれも、やや古めかしい印象を与える語法であると同時に、「(ニ)シテ」を用いることで、修飾表現がより描写的、説明的になることが観察された。現代語における「ニシテ」の副詞語尾的用法は決して生産的な広がりを持つ用法ではなく、多くは古くからの文語等の影響を色濃く残す固定的な表現と考えられるが、「ニシテ」を伴った形式であるからこそ実現される一定の表現効果を持つことが確認できた。研究ノート(Research Note)
著者
松本 秀輔
出版者
同志社大学
雑誌
同志社大学留学生別科紀要 (ISSN:13469789)
巻号頁・発行日
pp.93-104, 2001-12

本稿では,受動文において動作主をニ格で示すことについて,カラに置き換えられるような格助詞ニの働きとはどのようなものか,という疑問から考察を進めた。その中で,「母親は息子に牛乳を飲ませた」のような使役文・「太郎は先生にほめてもらった」のようなテモラウによる受益文・「彼の仕事ぶりに満足している」「突然鳴ったベルに驚いた」といった一部の自動詞述語文の,それぞれに用いられる格助詞ニとの共通性について論じた。また,「本が猫にいたずらされた」のような無生物主語の受動文ではニ格動作主が現れにくいという事実について,主語とニ格名詞句の関係や表現者の視点という側面から論じた。その結果,受動文においてもニ格名詞句が表すのはガ格名詞句(主語)の側から見た対象と呼ぶのがふさわしく,そのため,動作の受け手を主語として事象の中心に据えて表現する受動文では,無生物主語の側を視点の中心,有生物動作主をその対象,とすることが相対的に困難なためにニ受動文が成立しにくいのだと考えられた。そして,受動文においてニ格で表されるものが主語に対する働きかけの主であることから,カラに置き換えられるような起点の意味が生まれることを述べた。