著者
寺田 勝彦 藤田 修平 田端 洋貴 脇野 昌司 松本 美里 中前 あぐり 辻本 晴俊 菊池 啓
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B1573, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】抗パーキンソン病薬などの服用に伴って生じるジスキネジアは,精神的・身体的苦痛を伴うにも関わらず,その理学療法的な介入法は報告されていない.今回,理学療法の介入により,ジスキネジアの症状が改善した一症例を経験したので報告する.【症例】59歳,女性.39歳時に若年性パーキンソン病と診断され,抗パーキンソン病薬を投与.15年前よりジスキネジアを呈する.Hoehn-Yahrの分類;stage3,On-Off徴候(+).ジスキネジアのAbnormal Involuntary Movement Scale(AIMS)の四肢と体幹の動きの3項目の合計は11/12.Unified Parkinson’s Disease Rating Scale(UPDRS)のジスキネジアの項目は 8/13.出現時,発汗異常(+),歩行不可. なお学会発表の承諾は得られている.【ジスキネジアの観察】仰臥位では左右の胸鎖乳突筋の交互収縮が,頸の屈曲・伸展・左右回旋を呈し,それと連動して四肢の不随意運動が見受けられた.また体幹は左回旋・屈曲とその戻りであった.また頚部・上部体幹は常に空間に挙上していた.座位でも,頸部の不随意運動が大きく,体幹前屈・回旋し,連動して四肢の不随意運動が見受けられた.【理学療法的介入】ジスキネジアの観察から,頸部の関節角度を検知する自己受容系の感覚器としての胸鎖乳突筋により頭頸部の動きが生じ,頚部からの体性感覚入力が活発となり,変動する姿勢反射により異常姿勢を伴う不随意運動を呈する.そして,過剰な共同収縮筋群の支配神経の緊張が亢進する.神経緊張があったのは,副神経以外に長胸神経・肋間神経・尺骨神経であった.それらの神経の緊張は,Martinの報告による脳炎後パーキンソニズムのサルのpallidal postureに似た頭部,躯幹の姿勢異常が見られたことを考慮すれば,胸鎖乳突筋の律動的な動きの見られるブラキエーション時のインパルスを伝導する神経群と一致しており,これらの神経緊張の軽減にて,胸鎖乳突筋のコントロールが可能であることを確信した.手技は解剖的考察により,各神経の伸張を行った.また触知し易い尺骨神経は愛護的に圧も加えた.治療時間は,10分程度であった.【結果】介入後のAIMSは2/12,UPDRSは1/13と著明に改善し,ジスキネジアは消失し,自立歩行は可能となる.ジスキネジアの抑制時間は12時間程度であった.【考察】今回のジスキネジアの改善は,Langworthyの提唱するように,無目的と考えられた不随意運動が感覚刺激に対する反応の異常であること,またSteinの振戦の神経機構模式図より,過剰な筋収縮と感覚性フィードバックの遠心性・求心性インパルスの伝導路である末梢神経系と胸鎖乳突筋の運動神経である副神経の緊張を改善することで,胸鎖乳突筋の運動細胞の周期的興奮性の抑制が得られたためと考えられる.最後に,ジスキネジアの完治は理学療法的介入では困難であるが,継続した介入により,出現時間の短縮や症状の緩和は可能であると思われる.
著者
寺田 勝彦 藤田 修平 田端 洋貴 脇野 昌司 松本 美里 中前 あぐり 辻本 晴俊 菊池 啓
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E3P3179, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】脊髄小脳変性症(SCD)では,立位保持および歩行障害が在宅生活での支障となる.現状においても,フレンケル体操,重り負荷法,弾力包帯装着などが行なわれている.今回,SCD患者への立位保持および歩行障害への介入法を,模索・検討したので報告する.【対象】本院の神経内科にてSCDと診断された10例(平均年齢63才,男性5例,女性5例,多系統萎縮症;5例,SCA6;2例,SCA2/SCA4/遺伝性SCD;それぞれ1例).【介入法】SCDでは,立位・歩行時に,開脚や身体の前後動揺が見られる.開脚位では骨盤が挙上位となり,歩行時の平衡機能の安定を図る下腿三頭筋の伸張反射の抑制や倒立振子モデルに必要な骨盤の上下運動が阻害される.また身体の前後動揺では,体性感覚の情報のずれによる運動感覚の錯覚を生じ,同時に遠心性コピーをも歪め,立位保持・歩行を困難にする.歩行の交互リズムの獲得には,Central Pattern Generator (CPG)を駆動する必要がある.CPGを形成する神経回路にはFlexion Reflex Afferents(FRA)からの情報を受容する介在ニューロン群の活動が必要となる.介在ニューロン群の活動には,FRAを伝導する皮膚,関節の圧・触覚受容器などの興奮性入力が必要である.そして重力下における姿勢調整にとって,頚筋を含めた固有背筋のコントロールは極めて重要である.以上の観点を考慮し,仰臥位,側臥位(ステップ肢位),長座位,四つ這い位,膝立ち位,バランスパッド上での開閉眼での閉脚立位・タンデム立位において,脳神経・末梢神経・頭頸部および四肢の皮神経,体幹の脊髄神経後枝の内外側皮枝からの伸張により,体幹動揺・骨盤挙上の改善と頚筋を含めた固有背筋のコントロールを行い,立位保持および歩行障害の改善に繋げた.実施回数は10回,一回の施行時間は40分であった.なお介入の実施を行なうにあたり,全患者の同意を得た.【Outcome Measures】 International Co-operative Ataxia Rating Scale (ICARS)の姿勢および歩行項目,10m自立歩行者数,最大歩行速度,ステップ数,歩行時のBalance Efficacy Scale(BES),Berg Balance Scale(BBS),静止立位時の重心動揺,閉眼閉脚立位(30秒)可能者数を介入前後で比較した.【結果】ICARSの姿勢および歩行項目,10m自立歩行者数,最大歩行速度,ステップ数,歩行時のBES,BBSで有意差を示した.しかし静止立位時の重心動揺,閉眼閉脚立位(30秒)可能者数では,有意差を示さなかった.【考察】今回の介入法において,筋に存在する筋紡錘,腱に存在するゴルジ腱器官,皮膚および関節に存在する機械受容器からの体性感覚入力の過多になっているSCDにおいて,緊張の亢進している脳神経・末梢神経・頭頸部および四肢の皮神経,体幹の脊髄神経後枝の内外側皮枝をコントロールすることで,各動作での姿勢共同運動や脊髄の運動制御の獲得が得られ,SCDの立位姿勢調節や歩行能力の向上に寄与したといえる.
著者
寺田 勝彦 藤田 修平 田端 洋貴 脇野 昌司 松本 美里 辻本 晴俊 菊池 啓
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B1304, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】ヒトの直立二足立位・歩行を獲得するには,ヒト上科に属するチンパンジーなどの霊長類モデルとの機能形態比較や,central pattern generator(CPG)を考える必要がある.今回,それらの観点からの介入法により,歩行機能を再獲得した症例について報告する.【症例】37歳,女性.既往歴:34歳の時にTh11脊髄出血.PT介入により,自立歩行獲得.36歳の時に坐位姿勢不良,立位保持・歩行は不可能となる.介助した立位姿勢は,頭部を前方へ突き出し,躯幹上部を前屈させ,両肩甲帯挙上・後退,上肢外転,股・膝屈曲した霊長類の立位postural synergy(PS)を取る.本院の神経内科病棟に入院となるが,CT・MRIの画像診断,神経伝導速度,血液・生化学検査で異常は認められなかった.なお,本症例には公表する旨を伝え,同意を得た.【PT評価および介入】原始的立位PSと姿勢筋トーヌスおよび神経テンションテスト,神経・筋の触診から,副神経,肩甲背神経,長胸神経,胸背神経,肋間神経,腸骨下腹神経,閉鎖神経,坐骨神経,大腿神経,総腓骨神経,脛骨神経および橈骨神経,正中神経,尺骨神経の神経緊張の増大とmobilityの低下が認められた.また端坐位姿勢から,CPGが賦活されにくい脊髄動力学の異常が観察された.そのために,霊長類モデルのナックル姿勢・歩行,垂直木登りのPS・MSとの機能形態や神経・筋比較から,ヒトの歩行機能の獲得に必要な介入法を模索した.先ず神経モビライゼーションの導入と脊髄動力学の改善をヒトの正常発達の順序性に則した肢位と正座・胡坐で施行し,それらのPSを獲得し直立二足立位PSに繋げた.次にステップ肢位でのPSを獲得し,歩行のmovement synergy(MS)に繋げた.神経モビライゼーションの手技は,バトラーの手技で対応できる方法はそれに準じた.手技の無い体幹の神経である肋間神経,腸骨下腹神経は水平かつ後方に,副神経・長胸神経・胸背神経は中枢から末梢に向かって動かした.それらの神経との繋がりが強い神経系は,相互にテンションを高め走行に沿って上から圧を加えた.脊髄動力学の改善は,Louisの報告を基に行った.またステップ肢位は,前下肢を足関節背屈位とした.【結果】PT施行前は坐位・立位保持,独歩不可能であるが,施行後は安定した坐位・立位姿勢保持可,ロフストランド杖歩行20m可,独歩も5m程度であるが可能となる.【考察】原始的な立位PSが優位な症例では,ヒトの直立二足立位・歩行は獲得されない.今回の介入法により,原始的PSを誘発する神経系の緊張の軽減とmobilityの改善および脊髄動力学の改善を得ることで,腰椎前弯を呈した直立二足立位PSが可能となった.更にステップ肢位でのPS獲得により,flexion reflex afferents(FRA)からの求心性情報が,CPGを構成する介在ニューロン網の活動を高め,多シナプス性に左右下肢の屈筋と伸筋の律動的な活動を生み出し, ヒトの歩行MSが再獲得された.