著者
岩井 宜子 内山 絢子 後藤 弘子 長谷川 眞理子 松本 良枝 宮園 久枝 安部 哲夫
出版者
専修大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究においては、平成になってからの日本における殺人・傷害致死の第1審の判決例を収集し、その加害者・被害者関係をジェンダーの視点で分析し、おもに、家庭内暴力(DV)が原因として働くものがどの程度存在し、どのような形で殺害というような結果をもたらしたかを詳察することにより、今後の対策を考察することを意図した。昭和年間の殺人の発生状況との比較において、まず、注目されるのは、えい児殺の減少であるが、昭和年間にかなりの数のえい児殺が存在したのは、女性の意思によらない妊娠が非常に多かったことに基づくと考えられ、平成になり、少子化の背景事情とともに、女性の意思によらない妊娠も減少したことが推察される。しかし、年長の実子を殺害するケースは、増加しており、その背景には、被害者の精神障害、家庭内暴力、非行などが、多く存在している。夫・愛人殺の増加の背景にも、長期間にわたる家庭内暴力の存在が観察される。「保護命令」制度などが、うまく機能し、家庭内暴力から脱出し、平穏に暮らせる社会への早期の移行が待たれる。女性が殺人の被害者となり、また加害者となるケースは、多くは家庭内で発生しており、その背景には、種々の形の暴力が存在している。児童虐待の事案も顕在化が進んでいるものと考えられるが、徴表に対し、より迅速に対応し、救済するシステムがいまだ確立していないことが伺える。家庭内の悲劇を社会に救済を求めうる実効的なシステムの構築が必要である。