著者
松本 茂章
出版者
同志社大学
雑誌
同志社政策科学研究 (ISSN:18808336)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.103-122, 2007-12

研究ノート(note)筆者は、都市部に生まれつつある芸術創造拠点の現場を歩き、調査研究することを通じて、文化施設と地域ガバナンスの関係を検討してきた。なかでも官民協働の文化施設づくりは、地域ガバナンス実現の可能性を開くと考え、これまで京都市が2000年に設置した京都芸術センターや、神戸のNPO法人「芸術と計画会議」(C.A.P.)が運営している民間アーツセンター・CAP HOUSEを調査した成果を報告してきた。今回は、劇場寺院・應典院に焦点を当てる。應典院は大阪市天王寺区下寺町にある浄土宗の名刹・大蓮寺の塔頭で、1997年4月に再建された。円筒形の本堂は設計段階から劇場として使えるようにつくられており、舞台芸術際「space×drama」や高校生の演劇祭「ハイスクール・プレイ・フェスティバル」が繰り広げられてきた。運営はNPOである應典院寺町倶楽部があたり、宗派に関係なく、だれにでも開かれている。本稿では、運営システムの現状や在籍するスタッフを紹介する一方で、設立に至る過程を詳しく振り返り、民間の文化政策のありようを明らかにする。應典院は行政の資金を頼らず、純粋民間の試みとしてスタートしたが、その後、少しずつ行政との連携を重ね、2006年度から4年間、大阪市の公的資金を獲得して、若者のアートNPO活動を支援する「アートリソースセンター by Outenin」(築港ARC)を大阪市港区に開設した。應典院の取り組みを検討することで、政府体系(ガバメンタル・システム)の変容を見つめ、地域ガバナンスの将来像を考えたい。本稿では、應典院の現状や運営システムについて財務、人材の面から分析を行ったあと、劇場機能に注目して、新進劇団を支援する舞台芸術祭「space×drama」や「ハイスクール・プレイ・フェスティバル」について報告する。さらに芸能と密接な関係にあった大阪の寺町文化に触れ、歴史的な必然性を探る。また住職秋田光彦が映画プロデューサーとして活躍した20代の東京時代が應典院の<原点>であることを指摘する。そして境内の外に飛び出して地域経営の一翼を担うようになった應典院の地域活動を考察したうえで、民による公共性に言及しながら文化施設の意義を考える。斎藤純一は公共性について「official」「common」「open」の3分類を示すが、應典院はこの3点に合致し、民の活動でありながら公共性を担保していることを指摘する。最後に寺院をめぐる人々のネットワークが地域ガバナンスに貢献することを訴える。
著者
松本 茂章
出版者
同志社大学
雑誌
同志社政策科学研究 (ISSN:18808336)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.203-218, 2005-12

研究(Note)80 年代から90 年代初めにかけて、全国の自治体は競うように文化会館や文化ホールを建設した。政府による内需拡大の要求やバブル経済にともなう好景気などを背景に、「ハコモノ行政」が展開された。しかし、これらの施設は、海外や東京でつくられた芸術文化を紹介することにとどまりがちで、地域の芸術文化を創造し広めるという役割は、きわめて弱かった。東京の芸術文化を「上意下達」のスタイルで地域に伝えていく配給的機能は果たしたものの、地域文化育成にどれほど役立ったのかという疑問は、すでに多くの先行研究が指摘してきたところである。 上記の反省に加えて、依然として続く東京の経済文化両面の一極集中に対する強い危機感から、いくつかの自治体は近年、創造型の文化施設を設ける試みを始めた。地域アイデンティティの形成、回復を目指すことにより地域活性化を図る動きである。そのひとつの事例である京都芸術センターに注目してみた。 京都芸術センターは、京都市が2004 年4月に中京区内に開設した文化施設である。地方自治法上の「公の施設」ながら、特色ある運営システムを採用しているところが興味深い。その活動ぶりや運営実態を詳述することで、21 世紀の自治体文化政策を考える一助になると考えた。 本稿では、まず筆者の問題意識を明確にしたうえで、次に京都芸術センターの5年にわたる活動状況を振り返り、運営システムを解明していく。最後に、課題を整理して総括し、新時代の自治体文化政策のありようを浮かび上がらせる。
著者
松本 茂章
出版者
同志社大学
雑誌
同志社政策科学研究 (ISSN:18808336)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.139-155, 2008-12

研究ノート(Note)本稿は、パリ日本文化会館の運営状況と資金調達のシステムについて調査研究した成果である。同会館は、日本が海外に持つ最大級の総合的な文化交流施設であり、独立行政法人・国際交流基金が所有、運営している。1997年に開館したので、2007年は開館10周年に当たり、活発な文化事業が展開された。この節目に合わせて2008年3月から4月にかけて訪問、聞き取り調査を行った。同年8月には国際交流基金および資金調達を担当する同会館・日本友の会に取材を行った。同会館が以前から気になっていたのは「官民合同プロジェクト」と呼ばれ、日仏両国政府や経済界の連携で進められてきたからである。現在も事業費の相当額は民間支援金でまかなわれ、資金調達の組織とスタッフを擁している。わが国の自治体文化施設に関しては、建設する際に多額の資金が投じられるものの、開館後は事業予算の確保が難しくなり、建物は豪華でも事業の内容は貸し館中心で、「ハコモノ行政」と指摘されてきた。パリ日本文化会館の事例研究を通じて、わが国の文化施設をめぐる官民協働のありようについて学ぶ点があるのではないか、と考えた。同会館の運営システムと資金調達状況から浮かび上がる意義と課題を提示する。