著者
三浦 健 図子 浩二 鈴木 章介 松田 三笠 清水 信行
出版者
社団法人日本体育学会
雑誌
体育學研究 (ISSN:04846710)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.141-154, 2002-03-10
被引用文献数
1

本研究では,もらったパスをできるだけ短時間に反動的に出すチェストパス能力を高めるトレーニング手段を明らかにするために,大学男子バスケットボール選手25名を対象にして,胸部上に落下したボールを受け止め即座に投げ上げる反動付きチェストパス(RCP)と反動を伴わないチェストパス(PCP)を,4種類の重さのボールで実施させ,その際の接手時間(RCPtc)と投げ上げ高(RCPh,PCPh)について検討した.さらに,このチェストパス能力とベンチプレスにおける最大挙上重量(BPmax)との関係についても検討した.本研究の結果は次の通りである.(1)バスケットボール(0.6kg)・1kg・3kg・5kgとボールの重量が重くなるほど,RCPhおよびPCPhは,いずれも有意に低くなる傾向が認められた.一方,RCPtcは有意に長くなる傾向が認められた.(2)RCPhとRCPtcの関係は,いずれのボール重量においても,有意な相関関係は認められなかった.これらのことは,短時間に投げる能力と大きな仕事をして高いボール速度を獲得する能力は独立した二つの能力であることを示すものである.(3)この二つの要因(RCPhとRCPtc)からみたポジションの特性について検討すると,ガードポジションの選手(Guard Player)が他の選手(Non Guard Player)に比較して,RCPhに有意な差はないが,RCPtcは有意に短いことが認められた.これらのことは,Guard Playerは,上肢におけるバリスティックなパワーが高く,短時間にパスを遂行する能力に優れていることを示すものである.(4)RCPにおいては,RCPhとRCPtcのいずれにおいても,バスケットボールを用いた場合と,1kg・3kg・5kgのボールを用いた場合との間のいずれにおいても有意な相関関係が認められた.しかし,上肢の筋力を評価するBPmaxとの間には,いずれにおいても有意な相関関係は認められなかった.これらのことは,バスケットボールにおけるチェストパス能力を高めるためには,1kg・3kg・5kgのボールを用いたトレーニング手段が,ベンチプレスなどの手段よりも直接的には効果のある可能性を示すものである.これらの結果は,バスケットボール選手のためのチェストパス能力を高めるためのトレーニング法を考える場合に有益であるとともに,上肢のプライオメトリックスに関する原則を考える場合の一助になると思われる.