- 著者
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松見 法男
- 出版者
- 広島大学
- 雑誌
- 萌芽研究
- 巻号頁・発行日
- 2002
平成16年度は,「日本語を母語とする幼児の英語学習において,言語の種類と色のイメージがものの認識にどのような影響を与えるか」を明らかにするため,日本語単語と英語単語の聴解課題を用いた実験を行った。被験児は英語未習の幼稚園年長児24名であった。日常カタカナ語として用いられる「赤,黄,緑,青,黒,白」の6色を色イメージとして選定し,それらの日本語単語と英語単語を,特定の色をもつ普通名詞3個(いちご,ヒヨコ,はっぱ)ならびに特定の色をもたない普通名詞3個(かばん,車,花)と組み合わせ,計72個の言語刺激材料を作成した。6色の名詞に対応する絵カードは,標準絵を利用して36枚を作成した。実験計画は2(刺激言語:日本語,英語)×2(色イメージ性の有無)×2(音韻短期記憶容量の大小)の3要因配置であった(第3要因のみ被験者間変数)。実験は個別に行われ,被験児は,ヘッドホンから流れる言語刺激(日本語-英語バイリンガルによる発音)を1個ずつ聴き,それが表すものをできるだけ早く36枚の絵カードから選ぶ(1枚を指差す)ように教示された。測度は正答率と反応時間であった。聴解課題終了後,日本語ディジットスパンテスト(DST)が行われた。正答率に関する分散分析の結果,言語刺激の主効果が有意であり(日本語で高い正答率がみられ),DSTの主効果にも傾向差(DST高群で高い正答率)がみられた。色イメージの主効果は有意ではなかった。幼児が「色のついたもの」を認識するときは,色イメージよりも言語音声に影響されること,また,カタカナ語の借用元である英語よりも日本語で色名単語が発音されるほうが「色のついたもの」の認識が正確になることがわかった。さらに「色名単語+普通名詞」の聴き取りでは,音韻情報を一時的に保持する音韻短期記憶の容量が要因の一つとして関わることが示唆された。