著者
松野 健治
出版者
東京理科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

外部形態が左右相称な動物においても、その内臓器官が左右非対称性を示す場合がある。脊椎動物の左右軸の成立機構に関しては、すでに多くの知見が得られている。しかし、旧口動物の左右非対称性形成機構については、ほとんど理解されていない。本研究では、遺伝学的解析手段が駆使できるショウジョウバエの消化管の左右非対称性に着目し、左右性に関与する遺伝子を網羅的に同定することを目的としている。平成16年度までの研究によって、およそ80%の頻度で、中腸と後腸が同調した逆位を示すMyo31DF^<souther>突然変異を同定している。Myo31DF^<souther>の責任遺伝子は、非定型ミオシンIをコードするMyo31DFであった。Myo31DFホモ接合体では、成虫の内臓においても、左右非対称性の逆転が観察されることから、Myo31DFは、成虫の左右非対称性の形成にも必要であることが示唆された。正常な左右非対称形成には、Myo31DFの後腸上皮細胞での発現が必要であり、Myo31DFは、後腸上皮細胞のアクチン皮層に局在した。また、後腸上皮細胞のアクチン細胞骨格の正確な形成を阻害すると、後腸と中腸が逆位を示すことから、Myo31DFは、後腸上皮細胞で、アクチン細胞骨格依存的に機能していると考えられた。ショウジョウバエ・ゲノムプロジェクトにより、ショウジョウバエには、3つのMyosinIが存在することが知られている。その中で、Myo31DFと相同性の高いMyo61Fは、Myo31DFと拮抗的に消化管の左右性を制御していることが示唆された。後腸の収束的伸長における上皮細胞の移動が、後腸の左右非対称性形成に関与していることが示唆されたことから、これら2つのミオシンが、収束的伸長の際の細胞再編成に、左右非対称な偏りを与えているのもと考えられた。
著者
近藤 滋 芳賀 永 秋山 正和 松本 健郎 上野 直人 松野 健治 武田 洋幸 井上 康博 大澤 志津江
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2015-06-29

28年度の総括班では、既に、班としてのシステムの構築がほぼ終わっているために、既存の共有装置の維持管理が主なものになる。2機の3Dプリンターは、全班員の研究に有効に使用されている。28年度に、総括班費で購入した機器は、顕微鏡用の共焦点レーザーユニット(北海道大学:999万円)と、ズーム顕微鏡(基礎生物学研究所:299万円、原子間力顕微鏡の一部として購入)である。いずれも、他の資金で購入したパーツと組み合わせることで、購入金額の節約をしている。両装置とも、3D形態の計測に必須であり、共同利用が進んでいる。班会議は北大で、5月23,24日に行った。理論系と実験系の交流を目的とする夏、冬の合宿は、9月4,5,6日と、3月28、29日に、淡路島、琵琶湖で行った。いずれも、学生の旅費の補助を総括班費から支出している。これまで、合宿は主に比較的少人数で行ってきたが、2016年度は、公募班員からの希望が多かったために、冬の合宿では会場を変えた。非常に活発な議論が行われたが、参加者が多くなりすぎたため、プロジェクトごとの議論の時間が逆に短くなり、やや、食いたりない面もあった。この点の解消が、今後の課題として残された。北海道大学の秋山は、定期的に、数学と3Dソフトの講習会を行っており、そのための実費(交通費、宿泊費)の支援を行った。その他、HPの更新に約30万円を支出している。
著者
近藤 滋 武田 洋幸 上野 直人 松野 健治 松本 健郎 芳賀 永 井上 康博 秋山 正和 大澤 志津江
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2015-11-06

主な活動は以下の4点である。1:7月10,11日にアメリカ合衆国カリフォルニア大学アーバイン校と合同で、3D形態形成に関するシンポジウムを開催し、同時に、今後の技術協力体制の拡大に関して話し合いを行った。アメリカ側の主催者であるKen Cho博士は分子発生学の世界的な権威であり、今後も、交流を続けることを確認した。2018年の本研究班の班会議にKen cho博士を招き特別講演をお願いすることが決まっている。また、上野研究室との共同研究も現在進行中である。2:河西通博士をHarvard Medical School のSean Megason研究室へ派遣し、ゼブラフィッシュ胚における組織の3次元構造の発生機構の研究を共同研究で行っている。これは前年度からの継続である。昨年度より、細胞レベルでの挙動を定量的に解析しており、特に、In toto imagingなどの観測技術を武田研究室に移植している。河西通博士の派遣は、2018年度で終了する予定。3:近藤班の3名が、前年に引き続き、コスタリカでツノゼミサンプルの採取を行った。今年度は、プロジェクトの目的がはっきりしており、特にヨツコブツノゼミの幼虫、ヨコツノツノゼミの幼虫、の2種に絞り、採集を行った。結果として、それぞれ70匹、200匹のサンプル採集に成功し、エタノール固定ののち、コスタリカ大学ポールハンソン教授の仲介で、日本に送付していただいている。今後の近藤班の研究は、このサンプルの解析が中心となる。4:近藤研究室の学生、松田佳祐を3D形態の計算で世界的に有名なプルシェミック研究室に約2か月滞在させ、原基の折り畳みソフトの高速化技術を学び、昨年作った展開ソフトを改良した。
著者
松野 健治
出版者
東京理科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

Notch情報伝達系は、細胞間の直接的接触を介した情報伝達に機能しており、細胞運命決定、形態形成、恒常性の維持に重要な機能をはたしている。ショウジョウバエdeltex遺伝子は、Notch情報伝達系を正に制御しており、その遺伝子産物は、Notchの細胞内ドメインに結合する。我々は、これまでに、Notch情報伝達系を構成する新規な遺伝子の同定を目的として、deltex突然変異体と遺伝的相互作用を示す新規突然変異体を、遺伝的スクリーンによって検索した。その結果、Notch情報伝達系を構成する新規遺伝子候補の突然変異体として、narutoを同定した。narutoの原因遺伝子をクローン化した結果、narutoは、DEAH-box RNAヘリカーゼをコードしていることを明らかにしている(未発表)。本研究では、Narutoの発生過程における機能を明らかにするために、まず、narutoをホモにもつ突然変異体胚の表現型を解析した。naruto突然変異ホモの胚では、中枢神経系の発生異常が観察された(未発表)。また、UAS/GAL4システムを用いた、Narutoのin vivo強制発現系の作出に成功している。いろいろな組織で、Narutoを過剰発現させた結果、複眼や翅脈細胞に特異的な異常が誘発されることを明らかにできた(未発表)。DEAH-box RNAヘリカーゼによる特異的な細胞分化プロセスの制御は、本研究で始めて見出された。Narutoの生化学的機能を明らかにするために、大腸菌を用いて、組換え型Narutoタンパク質断片を合成し、これを精製した。Narutoタンパク質断片を抗原として、抗Naruto血清を調製した。抗Naruto抗体を用いた免疫染色法を用いて、ショウジョウバエ培養細胞やin vivoのNarutoタンパク質を検出したところ、Narutoが細胞質タンパク質であることを明らかにできた。
著者
松野 健治
出版者
東京理科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

外部形態が左右相称な動物においても、その内臓器官は、左右非対称性を示すことが多い。本研究では、ショウジョウバエの消化管にみられる明瞭な左右非対称性に注目した。我々は、内臓器官の左右非対称な三次元構造の形成を制御する遺伝的経路を理解することを目的とし、遺伝学的解析手段が駆使できるショウジョウバエを用いた遺伝的スクリーンによって、消化管の左右性に関与する遺伝子を網羅的に同定することにした。消化管の左右性に異常を示す突然変異体のスクリーンを行った。3000系統のトランスポゾン挿入突然変異体を対象としたスクリーンによって、消化管の左右性に異常を示すいくつかの突然変異体の同定に成功した。同定した突然変異体のなかでも、消化管組織の分化には影響がみられず、高頻度で逆位が観察されるものに注目した。このうち、特に有望なものが、souther(中・後腸が同調して80%の頻度で逆位)、hidarikiki(中・後腸が同調して50%の頻度で逆位)、single-minded(前・中・後腸が非同調的に30%の頻度で逆位)、puckered(前胃のみ50%の頻度で逆位)、foregut inversus-1、-2、-3(それぞれ、前腸が30%の頻度で逆位)である。これらのなかでも、souther突然変異のホモ接合体胚では、胚の中・後腸の形態が野生型の鏡像になった(80%の頻度で逆位)。このとき、消化管組織のマーカー遺伝子の発現を調べると、組織分化は正常に起こっていた。southerは、ホモ接合体で生存可能であり、ホモ接合体成虫の外部形態や生存能力には顕著な異常がみられないが、消化管や精巣の左右性が逆転していた(100%の頻度)。southerは、胚発生期の消化管と、変態過程で再構築される成虫の内臓器官の左右性に不可欠であることから、左右非対称性の制御に中心的な機能をはたす遺伝子であると予測している。