著者
松野 啓太 西條 政幸
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.19-30, 2022 (Released:2023-10-27)
参考文献数
78

クリミア・コンゴ出血熱(Crimean-Congo hemorrhagic fever,CCHF)はクリミア・コンゴ出血熱ウイルス(CCHF virus,CCHFV)の感染によって引き起こされる致命率の高い急性熱性疾患であり,エボラウイルス病などとともにウイルス性出血熱に分類される疾患である.CCHF患者はアフリカ,ヨーロッパ,アジアで散発的に発生しており,その発生地域は主なCCHFVの媒介節足動物であるHyalomma属のマダニの分布域と一致する.日本国内での患者発生はない.CCHFVは自然界においては動物とマダニの間で生活環を形成して存在している.家畜を含む幅広い種類の動物種がCCHFV感染に感受性であり,ヒトはCCHFVを保有するマダニの刺咬,あるいはウイルス血症を伴う動物(主にヒツジなどの家畜)との直接的接触で感染する.CCHFは人獣共通感染症である.臨床症状は初期では症状が非特異的熱性疾患であり,重症例では出血,意識障害などの症状が出現する.ダニ媒介脳炎,重症熱性血小板減少症候群,さらには最近北海道で新規ブニヤウイルス感染症として発見されたエゾウイルス感染症など,日本でもダニ媒介性ウイルス感染症が相次いで発生している.世界的に最も重要なダニ媒介性ウイルス感染症であるCCHFについても,その動向を今後も注視していく必要がある.
著者
竹鼻 一也 川上 茂久 Chatchote Thitaram 松野 啓太
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.17-27, 2022-03-01 (Released:2022-05-02)
参考文献数
46

若齢アジアゾウに致死的出血病を引き起こす原因とされるElephant endotheliotropic herpesvirus(EEHV)は,世界中のゾウ飼育施設において多くの死亡例をもたらし,直近20年の間で飼育下アジアゾウの最も主要な死亡原因となっている。EEHVはゾウを自然宿主とし,他のヘルペスウイルス種と同様に潜伏感染する。若齢ゾウにおいては,何らかの原因で血中ウイルス量が異常上昇することに伴い,致死的出血病に至ることがある。発症後の治療には反応が乏しく,有効な治療法が確立されているとは言い難いものの,発症初期に積極的な治療を行うことで救命率向上が認められる。そのため,飼育施設においては日常的な検査体制の確立による早期診断および早期治療開始が求められる。