著者
西條 政幸
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.140, no.7, pp.895-899, 2020-07-01 (Released:2020-07-01)
参考文献数
12
被引用文献数
1

A sporadic but autochthonous dengue fever outbreak occurred in Tokyo in 2014, although the dengue virus is not in general circulation in Japan. Another lethal infectious disease, known as severe fever with thrombocytopenia syndrome (SFTS), was discovered to be endemic to Japan in January 2013. More than 400 patients with SFTS have been reported so far. The fatality rate of SFTS is approximately 30%. Also in 2014, a large outbreak of mosquito-borne Zika virus infections occurred in the South and Central parts of the American continent. Transplacental infection of a fetus with Zika virus occurs when pregnant women are infected. We cannot escape the risk of being infected with these viruses. Thus, preparedness for these emerging and reemerging virus infections is required.
著者
西條 政幸
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.103, no.10, pp.2581-2586, 2014-10-10 (Released:2015-10-10)
参考文献数
18
被引用文献数
2 1

2011年に中国の研究者らにより初めて報告された致死率の高いブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類される新規ウイルスによる感染症,重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS)が日本でも流行していることが2013年1月に明らかにされた.2013年3月から12月までに西日本において40名の患者が報告され,そのうち13名は死亡した(致死率:約30%).SFTSの原因ウイルスであるSFTSVは,自然界においてマダニおよび哺乳動物の間で維持され,ヒトはSFTSVを有するマダニに咬まれて感染し発症する.つまり,私たちはSFTSに罹患するリスクから逃れることはできない.今後,SFTSVに感染するリスクを明らかにし,対策を立てることが求められる.また,SFTSの高い致死率を説明するための病態生理・病理を明らかにするとともに,治療および予防法の開発が望まれる.
著者
加納 裕也 井上 裕康 櫻井 圭太 吉田 眞理 三浦 義治 中道 一生 西條 政幸 湯浅 浩之
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.750-755, 2018 (Released:2018-12-21)
参考文献数
14
被引用文献数
1 5

75歳男性.構音障害,左口角下垂で受診.頭部MRIで右中心前回に拡散強調画像で高信号病変を認め,脳塞栓症として入院したが,症状は悪化し画像でも病変の拡大も認めた.髄液JCウイルス(JCV)-DNA PCR検査は4回施行し陰性だったが,進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy; PML)に矛盾しない経過と画像であり,初診から2ヶ月後に脳生検を行いdefinite PMLと診断した.基礎疾患は特発性CD4陽性リンパ球減少症のみで,非HIV-PMLとしてメフロキンとミルタザピンの併用療法を行い,初診から約29ヶ月という長期生存の転帰であった.髄液JCV-DNA PCR検査が繰り返し陰性でも,脳生検が診断に有用なことがある.
著者
馬場 昌範 西條 政幸
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

平成 29 年度までの研究により,重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の原因ウイルスである SFTSV に対する in vitro 抗ウイルスアッセイ系を確立し,それを用いた薬剤のスクリーニングにより,アモジアキンに選択的な抗 SFTSV 効果を同定した。さらに,種々のアモジアキン誘導体について,それらの抗 SFTSV 効果を検討したところ,アモジアキンと比較して,抗ウイルス活性が 10 倍程度高い新規誘導体(# 90)を同定することに成功した。そこで,平成 30 年度の本研究では,# 90 について,研究代表者が in vivo 実験用に必要な量の薬剤を準備するとともに,研究分担者が国立感染症研究所において SFTSV に感受性を有する1型インターフェロン受容体ノックアウトマウスを用いた in vivo 投与実験を行った。その結果,SFTSV 感染マウスに対し,# 90 の最大量(100 mg/kg)の経口投与群においても,非投与群と比較して,有意な致死率の減少をもたらさなかった。一方で,非感染マウスの最大量投与群においても,体重減少などの有害事象が全く認められなかったため,# 90 については in vivo における薬物体内動態(経口吸収性など)に問題があるのではないかと思われた。そこで # 90 の体内動態を改善することを目的に,原体から塩体(塩酸塩)への変換を行った。次年度は #90 塩酸塩を用いて,in vitro 活性試験および in vivo 活性試験を行う予定である。また,本研究から派生した研究成果として,米国のテキサス・バイオメディカル研究所の BSL4 施設を用いた国際共同研究を実施し,# 90 に強い in vitro 抗エボラウイルス効果を有することも明らかにした。
著者
西條 政幸
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.648-652, 2020 (Released:2021-05-27)
参考文献数
23

Severe fever with thrombocytopenia syndrome (SFTS) was first discovered as an emerging virus infection caused by a novel bunyavirus, which is classified to the Banyangvirus Genus in the Phenuiviridae Family (Huaiyangshan banyangvirus, former SFTS virus, SFTSV) in 2011. SFTS was also reported to be endemic not only to China, but also to Japan, South Korea, Vietnam, and Taiwan. The major symptoms of SFTS are gastrointestinal symptoms such as fever, general fatigue, nausea, vomiting, and diarrhea. Total blood cell counts revealed thrombocytopenia and leukopenia in patients with SFTS. Approximately seven years have passed since the discovery of SFTS patient in Japan. Forty to 100 patients with SFTS have been reported annually to the National Institute of Infectious Diseases from western part of Japan. Case fatality rate of SFTS is approximately 27–31%. The reasons behind the high case fatality rate might be that multiorgan failure, coagulopathy, and hemophagochtosis are induced in most SFTS patients. It was reported that an antiviral drug, favipiravir, was effective in the treatment of SFTSV infection in an animal infection model. SFTSV is circulating between wild animals and several species of ticks in nature, indicating that we cannot escape the risk of being infected with SFTSV and that SFTS will continue to occur in the endemic areas. Furthermore, it has been revealed that humans can also be infected with SFTSV through close contact with sick animals such as cats and dogs, both of which were also infected with SFTSV. Development of specific treatment and preventive measures with SFTS vaccines is necessary.
著者
下島 昌幸 福士 秀悦 谷 英樹 吉河 智城 森川 茂 西條 政幸
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.7-12, 2013-06-25 (Released:2014-04-26)
参考文献数
25
被引用文献数
1 11 1

重症熱性血小板減少症候群は新種のブニヤウイルス(重症熱性血小板減少症候群ウイルス)による感染症で,致死率は約12%,主にマダニによって媒介される.これまで中国でのみ報告があったが,国内で昨年秋に亡くなられた方が本疾患に罹患していたことが判明した.後方視的調査の結果,これまでに計8名の方が罹患し内5名の方が亡くなられていたことが明らかとなった.いずれも国内で感染しており,病原体は以前から国内に存在していたと考えられる.
著者
松野 啓太 西條 政幸
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.19-30, 2022 (Released:2023-10-27)
参考文献数
78

クリミア・コンゴ出血熱(Crimean-Congo hemorrhagic fever,CCHF)はクリミア・コンゴ出血熱ウイルス(CCHF virus,CCHFV)の感染によって引き起こされる致命率の高い急性熱性疾患であり,エボラウイルス病などとともにウイルス性出血熱に分類される疾患である.CCHF患者はアフリカ,ヨーロッパ,アジアで散発的に発生しており,その発生地域は主なCCHFVの媒介節足動物であるHyalomma属のマダニの分布域と一致する.日本国内での患者発生はない.CCHFVは自然界においては動物とマダニの間で生活環を形成して存在している.家畜を含む幅広い種類の動物種がCCHFV感染に感受性であり,ヒトはCCHFVを保有するマダニの刺咬,あるいはウイルス血症を伴う動物(主にヒツジなどの家畜)との直接的接触で感染する.CCHFは人獣共通感染症である.臨床症状は初期では症状が非特異的熱性疾患であり,重症例では出血,意識障害などの症状が出現する.ダニ媒介脳炎,重症熱性血小板減少症候群,さらには最近北海道で新規ブニヤウイルス感染症として発見されたエゾウイルス感染症など,日本でもダニ媒介性ウイルス感染症が相次いで発生している.世界的に最も重要なダニ媒介性ウイルス感染症であるCCHFについても,その動向を今後も注視していく必要がある.
著者
谷 英樹 福士 秀悦 吉河 智城 西條 政幸 森川 茂
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.229-238, 2012
被引用文献数
2

アレナウイルスはアレナウイルス科に属するウイルスの総称で,細胞内で増殖し,ウイルス粒子内に宿主細胞のリボゾームが取り込まれ,これが砂状に見えるのでラテン語の砂粒(arenosus) にちなんで命名された.感染症法において1類感染症に指定されているラッサ熱を引き起こすラッサウイルス,南米出血熱の原因ウイルスとしてフニンウイルス,グアナリトウイルス,サビアウイルス,マチュポウイルス,チャパレウイルスなどが,ヒトに強病原性のアレナウイルスとして知られている.いずれも一種病原体に指定されている.また最近では,2008年にアフリカ南部地域で小規模なウイルス性出血熱が流行し,新規のアレナウイルス(ルジョウイルス)が同定された.日本では1987年のラッサ熱患者の1症例を除きアレナウイルスによる出血熱患者の発生はないが,他のウイルス性出血熱と同様に,いつ我が国で輸入症例が発生してもおかしくない状況であることから,病状や致死率を考えると診断や治療を行えるように整備しておく必要がある.本稿では,アレナウイルス感染症について,基礎研究から診断方法,ワクチン開発までを広く概説する.
著者
伊﨑 祥子 田中 覚 田島 孝士 中道 一生 西條 政幸 野村 恭一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.345-348, 2015 (Released:2015-05-30)
参考文献数
9
被引用文献数
4 6

症例は77歳,女性.6ヵ月にわたって緩徐に進行する小脳性運動失調を主訴に受診した.頭部MRIで左橋上部背側と両側の中小脳脚から小脳白質にかけて鍬型に異常信号をみとめた.本例は,非HIVであり,膠原病や免疫抑制剤を使用するような基礎疾患をみとめなかった.髄液中にJCウイルス(JCV)のDNAを検出したことから,小脳症状で発症したまれな小脳・脳幹型の進行性多巣性白質脳症と診断した.また入院後の検査でCD4+リンパ球減少症をみとめた.メフロキン単独による治療で髄液JCVは陰転化し,神経症候の改善をみとめた症例を経験した.
著者
西條 政幸 森田 公一
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.89-94, 2015-06-25 (Released:2016-02-27)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

日本ではエボラウイルス等バイオセーフティレベル4(BSL-4)に分類される病原体を取り扱うことはできない.1981年に国立感染症研究所は世界に先駆けてグローブボックス型のBSL-4施設を建設したが,30年以上が経過している現時点においてBSL-4施設として稼働されていない.2014-15年にかけて西アフリカにおいて過去にない大きな規模のエボラウイルス病(EVD)が流行している.また,致死率の極めて高い新興ウイルス感染症が世界各地で発生している.このような致死率の高い感染症対策に貢献するための研究がなされている中で,日本においては稼働しているBSL-4施設がないことから,感染性のあるBSL-4病原体を取り扱うことができず,公衆衛生対応や研究領域において十分な力を発揮できていない.多くの高病原性ウイルス感染症の病原体は動物由来ウイルスであり,地球上から根絶させることはできず,これからも流行が続くことが予想される.日本においてもBSL-4施設を用いて,BSL-4病原体による感染症対策のための研究や検査が実施できる体制を整備する必要がある.
著者
大貫 英一 朝山 真哉 朝山 知子 中道 一生 西條 政幸 小坂 理
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.705-708, 2016 (Released:2016-10-28)
参考文献数
10
被引用文献数
2 3

症例は83歳男性,慢性腎不全のため血液透析中であった.亜急性に進行する右片麻痺のため紹介入院した.頭部MRIではT2強調画像で両側中小脳脚と左前頭葉深部白質に高信号病変を認めた.病変は経時的に拡大し,1H-MRSではChoの上昇とNAAの低下を認め,脳生検ではglioblastomaが疑われた.しかし髄液JCウイルス(JCV)検査が陽性と判明し,脳生検組織を再検したところ,免疫染色でJCVに感染した異型アストロサイトを認め,進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy; PML)と診断した.メフロキン,ミルタザピンによる治療を開始したところ,髄液JCVの陰性化を認め,またMRIでの病変の拡大も停止した.基礎疾患,臨床経過において稀少と考え報告した.
著者
西條 政幸
出版者
日本神経感染症学会
雑誌
神経感染症 (ISSN:13482718)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.1, 2020 (Released:2020-05-13)
参考文献数
17

【要旨】単純ヘルペスウイルス1型(herpes simplex virus-1、以下 HSV-1)によって引き起こされる疾患は 一般的に良性感染症といえるものの、造血幹細胞移植患者や原発性免疫不全患者では、HSV-1 は重篤で、かつ、慢性に経過する重篤な病態を引き起こす場合がある。大学医学部を卒業して小児科医として勉強し始めたころ、一人の原発性免疫不全症(Wiskott-Aldrich 症候群)の患者と出会った。その患者は3歳のときにHSV-1 に初感染し、再活性化に伴う口唇ヘルペスを繰り返し発症する状態になった。その当時から幸いにも抗ヘルペス薬アシクロビル(acyclovir、以下 ACV)が用いられるようになり、この患者の HSV-1 感染症はACV により治療された。しかし、ACV 治療を継続していたところ、ACV 耐性 HSV-1 による難治性 HSV-1 皮膚粘膜感染症を発症するようになった。また、この患者に対して免疫能再構築を目的に、同種骨髄移植が実施されたが、その際に重症皮膚粘病変が眼瞼部、口唇部などに出現し、ウイルス学的に調べたところ ACV 耐性 HSV-1 によることが明らかにされ、DNA ポリメラーゼ(DNApol)阻害薬フォスカルネット(foscarnet:PFA)で治療された。症状は軽快したが PFA 耐性 HSV-1 が出現した。残念ながらこの患者は移植約半年後に JC ウイルスによる進行性多巣性白質脳症によって亡くなった。この患者に関するウイルス学的検査や研究を行う過程で多くのことを学んだ。ACV 耐性 HSV-1 による新生児での脳炎を世界で初めて報告する研究にも参画し、造血幹細胞移植患者における ACV 耐性 HSV-1 感染症に関する研究を主催する機会も得た。これらの患者から多くのことを学び、多くの共同研究者に支援をいただいた。本論文では、これまでの私が行ってきた患者から学ぶ HSV-1 感染症研究について紹介する。
著者
竹腰 顕 吉倉 延亮 小澤 憲司 生駒 良和 北川 順一 竹島 明 大槻 美佳 中道 一生 西條 政幸 大江 直行 望月 清文 柿田 明美 下畑 享良
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.281-286, 2019-03-01

症例は62歳男性で,悪性リンパ腫に対する臍帯血移植後に急激な視力低下をきたした。頭部MRIにて両側頭頂葉および後頭葉の皮質下白質〜深部白質に高信号域を認め,脳生検および脳脊髄液中JCウイルス(JCV)検査にて進行性多巣性白質脳症(PML)と診断した。経過中にBálint症候群を合併したが,塩酸メフロキンとミルタザピンの併用療法によりBálint症候群および頭部MRI所見は改善し,脳脊髄液中JCVは陰性化した。PMLではBálint症候群を合併し得ること,ならびに塩酸メフロキンとミルタザピン併用療法は有効であることを示した。
著者
西條 政幸
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.41-50, 2018 (Released:2019-05-18)
参考文献数
36
被引用文献数
3

新規フレボウイルスによる感染症,重症熱性血小板減少症候群[severe fever with thrombocytopenia syndrome(SFTS)]が中国で発見され学術論文に発表されてから約7年が, SFTSが日本でも流行していることが発見されてから約6年が経過した.現在,SFTSが流行している地域は東アジア(中国,韓国,そして,日本)である.SFTSはマダニが媒介する感染症であり,原因ウイルス(SFTSウイルス,SFTSV)は自然界においてはシカなどの哺乳動物とマダニ(フタトゲチマダニ等)との間で維持されている.SFTSVを有するマダニに咬まれた人の一部でSFTSVに感染が成立し,SFTSを発症する.SFTSVは動物とマダニのサイクルの中で存在し続けることから,私たちはSFTSVに感染するリスクから逃れることはできない.症状(致命率を含む),病態,感染経路,病原体の特徴を鑑みると,SFTSはクリミア・コンゴ出血熱[Crimean-Congo hemorrhagic fever,(CCHF)]に類似し,その意味ではSFTSはCCHFがウイルス性出血熱に含まれるのと同様にウイルス性出血熱に分類されるべき疾患である.中国,韓国,日本の研究者をはじめ,多くの研究者によりSFTSの疫学,臨床的特徴,発症病理,検査,抗ウイルス薬(特にファビピラビル)による治療および抗ウイルス薬やワクチンによる予防法の開発,ウイルス学,SFTSVと自然免疫に関する研究成績が発表されている.日本ではファビピラビルのSFTSに対する治療効果を調べる臨床研究が開始された.SFTSやSFTSVに関する研究が進むことで治療や予防が可能になることが期待される.
著者
西條 政幸
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究により.世界で初めてウイルス学的に証明されたアシクロビル耐性HSV-1による新生児脳炎患者の報告をした.DNApol関連ACV耐性HSV-1の性状を解析し,多くの耐性株は神経病原性が低下しているものが多いものの,中には病原性が維持されているウイルスも存在する.また,DNApol関連ACV耐性HSV-1のほとんどがガンシクロビルに感受性を有し,逆にフォスカルネットには交叉耐性を示すことが明らかになった. ACV耐性HSV感染症の増加等が予想されることから,今後,病原ウイルスの薬剤感受性を調べる耐性の構築と,その結果に基づく適切な治療ができるようにする必要がある.
著者
西條 政幸
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.2255-2259, 2018 (Released:2018-10-10)
参考文献数
22

重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome, SFTS)は新規ブニヤウイルス(SFTSウイルス,SFTSV)による感染症として,2011年に中国の研究者らにより報告された。その報告によるとSFTSは中国の河南省,湖北省,山東省,黒竜江省等の山岳地帯の住民の間で認められ,マダニ(フタトゲチマダニ)が媒介し,発熱,消化器症状が出現し,さらに末梢血液検査で白血球減少と血小板減少が認められる,などの特徴を有する。2012年秋に,日本で海外渡航歴のない女性(50歳代)が多臓器不全,消化管出血,血球貪食症候群で死亡し,その患者がSFTSに罹患していたことが,後方視的明らかにされた。それにより日本でもSFTSが流行していることが明らかにされ,さらに韓国でもSFTSが流行していることも報告された。日本,韓国,中国以外の国でSFTS発生(流行)は報告されていない。現時点ではSFTSは東アジアで流行している感染症である。日本でSFTS流行が確認されてから約6年が経過した。日本では毎年40~100人の患者が国立感染症研究所に報告され,多くは西日本で発生している。SFTSの致命率は約20%と極めて高く,その高い致命率の背景には,SFTS患者では多臓器不全,血液凝固障害,血球貪食症候群等の病態がSFTSV感染によって惹起されていることが挙げられる。動物感染モデルを用いた研究で抗ウイルス薬ファビピラビルがSFTSに対する特異的治療薬として有効である可能性が示唆される成績が発表された。また,ワクチン開発も期待される。SFTS流行がこれからも続くことから,特異的な治療法,ワクチン等による予防法の開発が期待される。
著者
福元 尚子 白石 裕一 中道 一生 中嶋 秀樹 西條 政幸 辻野 彰
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-000776, (Released:2016-01-21)
参考文献数
30
被引用文献数
4

症例は65歳男性である.急速進行性の認知機能低下で発症した.頭部MRIのFLAIR/T2強調画像で大脳皮質下に広汎な高信号域を認め,髄液よりJohn Cunningham virus-DNAを検出した.最終的に脳組織所見から進行性多巣性白質脳症と確定診断した.合併症として高安動脈炎と慢性型/くすぶり型成人T細胞白血病が認められた.発症早期にメフロキンとミルタザピンによる治療を開始したが,症状・画像共に改善なく約半年後に死亡した.本例において治療効果が認められなかった理由としては,HTLV-I感染に加えて高安動脈炎によるB細胞系の異常が影響した可能性を考えた.