著者
笠井 健治 水田 宗達 清宮 清美 板垣 卓美
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E-134_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに・目的】パーキンソン病(Parkinson's Disease:以下PD)患者の死因の第1位は肺炎であり誤嚥性肺炎の予防は重要である。PD患者の嚥下障害は疾患の進行と必ずとも相関せず、嚥下スクリーニング検査による嚥下障害の検出も難しいとされる。近年、誤嚥のリスクを検出するための咳嗽機能評価が注目されている。本研究の目的はPD患者について嚥下障害に関連するスクリーニング検査結果と咳嗽機能について後方的に検討し、嚥下障害等の関係を明らかにすることである。【方法】対象は当センターにH27年8月からH30年5月までの間に入院したPD患者のうち摂食・嚥下障害看護認定看護師に嚥下機能評価の依頼があり、検査可能であった18名(72.7±4.0歳、男性10名)。評価項目は疾患重症度としてHoehn&Yahr分類とPD統一評価尺度第3部の総合得点(unified Parkinson’s disease rating scale‐Ⅲ:以下UPDRS-Ⅲ)、嚥下スクリーニング検査として反復唾液嚥下テスト、咳嗽機能評価として咳嗽時最大呼気流量(cough peak flow:以下CPF)と咳テスト、呼気機能評価として最長発声持続時間を評価した。誤嚥の発生有無は聖隷式嚥下質問紙のA項目に1項目以上該当する場合もしくは嚥下造影検査において嚥下障害が確認された場合に嚥下障害ありと判断した。嚥下障害あり群となし群に大別し各評価項目における群間の差の検定を行った。連続変数に対しては対応のないt検定もしくはMann-Whitney検定を用い、他の変数はχ2検定を用い、有意水準は5%とした。【結果】嚥下障害あり群は7名、なし群は11名で群間比較ではCPFのみ有意な差を認めた(あり群218.6±115.0m/s、なし群368.2±127.0m/s、p=0.023)。またCPFはUPDRS-Ⅲ(r=-0.67、p=0.04)、最長発声持続時間(r=0.57、p=0.02)と有意な相関を認めた。【考察】嚥下障害を有する群では有意にCPFが低下し、CPFは疾患重症度および呼気機能と有意に相関していた。このことから、PDでは重度化とともに咳嗽機能が低下しやすく、咳嗽機能には呼気機能が影響すると考えられた。したがってPD患者の嚥下障害に対する理学療法においては咳嗽機能を改善することが重要であり、呼気機能を改善するアプローチの重要性が示唆された。【倫理的配慮,説明と同意】研究参加者には入院時に臨床において得られた情報が後方視的に学術目的に用いられることについて口頭および書面にて説明し、同意を得られた場合にのみ同意書への署名を依頼した。また、本研究は埼玉県総合リハビリテーションセンター倫理員会の承認(H30-002)を得ている。